山中湖のKaba 2015年2月4日 平日に旅行に出るようになって感じるのは、やはり、今、平日に旅行するなんていう人たちは、ほとんどリタイヤ組ばかりだということ。そりゃそうですね。みなさん平日はお勤めしている方ばかりでしょうから。 新宿バスターミナル、7時10分発の高速バスで山中湖に遊びに行こうと、先週インターネット予約をチェックしたら、連日満席が続いている。かろうじて今日の分の予約が入れられた。7時に新宿バスターミナルに到着してみれば、もうこの便はキャンセル待ちの表示が出ていた。なんでこんなに人気があるんだろう? 電車を使うより安いことは確かだが、それにしても、この時期、山中湖方面に朝早くから出かける用のある人は、そうはいないだろうし、平日に行楽に行く人も少ないと思われる。 バスに乗り込んで驚いた。車内は若者たちばかりなのだ。いつも私が体験する行楽地に向かう電車やバスの乗客とは、まったく違う人たちなのだ。 定刻をちょっと遅れて出発したバスはこれといった渋滞も無く中央高速道に乗った。バスの中は朝早くから若者たちの楽しげな声が響く。さっそくコンビニで買ったらしいお菓子を食べ始める人たち。若いっていいなぁ。なんだかとても楽しそう。バスは高速道路の停留所近くを通過するものの、なにしろ満席だからそのまま通過。また停留所で降りる人も誰もいない。 郊外に出て中央高速道路を進むうちに、道路脇に雪が目に付き始めた。雪? そういえば5日前の1月30日には東京でもちょっとだけ雪が降ったんだった。やはり郊外の方はけっこう積もって、それがまだ溶けないでいるのかもしれない。 賑やかだった車内もやがて静かになってしまった。若者たちもコンビニで買い込んだ食べ物で食事を済ませ、朝も早かったから寝てしまったらしい。 バスは大月ジャンクションから富士吉田線に入った。ここからは、うまくすれば左に富士山が見え始める気持ちのいい道路。路肩積もった雪の量が増えてきたなと思った辺りで車窓に富士山が見えてきた。先月の十国峠から見た富士山に続いて今月も、その姿が見られた。ラッキー! しばらくすると今度は絶叫マシンの姿が現れる。富士急ハイランドだ。河口湖インターチェンジを降りたバスは、すぐ目の前の富士急ハイランド入口に入って行った。バスが停まるや、若者たちが一斉に立ち上がる。どうやらこの富士急ハイランドが目的地だったらしい。実際乗客の90%以上がここで降りてしまった。なあるほど、試験休みに入った大学生たちが遊びに来たというわけなのね。しかしどうやら今日の開園時間は10:00みたい。まだ9時前だよ。これからここで開園まで時間を潰す気なのかな。 富士急ハイランドをあとに、バスは河口湖駅へ。河口湖ねぇ〜、もうかれこれ15年くらい前に来たことがあったっけなぁ。また機会があったらここにも来てみたいものだ。この河口湖駅でも残った乗客が降り、ほかには誰もいなくなってしまった。 これより終点の山中湖旭日丘に向かう。富士山駅(旧富士吉田)周辺を、右に富士山を見ながら雪がたくさん積もった道を進む。やがて左手に湖が見えてきた。山中湖だ。湖畔を走って終点の山中湖旭日丘に定刻9:24到着。今日はこれから予約しておいた水陸両用バス、山中湖のKaba、10時発の回に乗るのだ。Kabaバスは、高速バスが到着したまさにその場所が事務所だった。切符売り場に行って名前を伝える。二日前までは山中湖に20cmの氷が張ってしまい運休になっていた。今日の運行はあるのだろうかと聞いてみたら、今日は運行するとの事。よかった。 10時5分前にアナウンスがあってKabaバスが駐車しているところへ。後方のタラップを登って乗車。ガイドのおねえさんのクイズや説明を聴きながらバスツアーは行われる。最初に林の中の道をゆっくり走り、いよいよ湖水へバスは入って行く。水に入るとバッシャーンと水しぶきが上がる。ビニール製の窓を開けておくと水が入って来るから、水を浴びたい人は開けておいてくださいと言われたが、氷が張るような水は浴びたくない。それは遠慮させてもらうことに。夏に来たなら水を浴びるのも楽しいんだけれどね。幸い天気が良くて富士山がよく見えた。山中湖水面から望む富士山。すっかり堪能しました。 バスツアーは30分ほど。戻ってきて腹が減っていたので、Kabaバスの発着所のKaba Cafe でコーンスープを注文して飲む。コーンがすごく甘くておいしい。 当初の予定では、ここから山中湖を歩いて一周してやろうと思っていたのだが、しばらく歩いてみたら雪が想像以上に深い。山中湖は富士五湖の中では比較的歩道が完備されていると聞いていたのだが、その歩道の除雪があまり進んでいない。これは歩きにくいし危険だと判断して当初の山中湖徒歩一周の旅を断念する。また別の機会に試してみることにしよう。 さて現在時刻は、10時50分。宿のチェックインは15時からだから、まだ四時間近くもある。それまでどこかで時間を潰さなければなるまい。そこで考えたのが忍野八海。中学の時の遠足で行ったことがあり、オートバイに夢中だった30代のころにツーリングで行ったこともある。あそこから見た富士山もまた格別だった。それでは忍野八海にもう一度行ってみることにするか。しかし今回の目的は山中湖を徒歩で一周すること。一周と言わずとも、少し歩きたい。そこで忍野村に向ってとりあえず湖畔を歩いてみることにした。 いい天気で、左側には富士山も見える。こりゃあ気持ちいいやと歩いているうちに富士山のある方向に雲がかかりはじめ、ついに富士山は見えなくなってしまった。それでも右の山中湖方面は、きれいに晴れている。足元が除雪が行き渡って無いので歩きにくいのと、歩道のないところは路肩に雪が積み上げられているがために自動車とすれ違うのに危ない。う〜ん、雪さえ降らないでいてくれたら快適だったのになと思いながら歩く。 遊覧船の山中桟橋まで歩いた所で、この先は歩道がなくなる上に道幅が狭くなると判断。ここから先はバスを使うしかないなと思う。バス停の時刻表を見ると12時21分に通過するバスが忍野八海を通る。現在が12時だから20分ほど待てば、これに乗れそうだ。忍野八海まで行かれるバスは、その先は何時間も先。ふう〜、助かった。まさに『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』の世界。 このバスは富士山駅方面に直接向かわず、忍野方面に寄る遠回りルート。バスは忍野の町並を通って行く。忍野八海入口で下車。ほかにカップルが一組降りたが、話し声を聞いたら中国語だった。さて、心配なのは帰りのバス。恐る恐るバス停の時刻表を見たら、このバス停から次の富士山駅方面へ行くバスは3時間後の15時46分になっている。う〜ん、忍野八海で3時間も時間を潰すのはちょっと持て余すぞ。どうしよう。ままよ、タクシーを呼ぶことだって出来なくはないだろう。 忍野八海にオートバイで行ったのは、もうかれこれ30年くらい前の話。今回、足を踏み入れてみて驚いた。あのころとは大分変ってしまっているようだ。以前より観光地として整備された印象。観光客も多くとても賑わっている。しかしもっと驚いたのは、この観光客の大部分は中国人だということ。どうやら観光バスで団体で乗りつけてきている人が多い。静かな日本の風景に飛び交う中国語。ここはどこなんだ? という錯覚に捕らわれてしまう。しかし中国人の団体客って、どうしてああも、けたたましいんだろ。まあ日本人も昔ノーキョー観光っていって、外国からヒンシュクを買った時代はあったのだけどね。それでも外国人に日本を楽しんでいただければ、日本の良さを理解してもらえるわけだし、悪いことじゃない。路線バスで一緒に降りた中国人カップルは個人旅行だったわけで、そういう人も増えている。いい傾向なんじゃないのかな。忍野の人たちも片言の中国語でスナックや土産物を売ったりして商魂逞しい。 久しぶりに見た忍野八海だったが、水がきれいなのは変わりなく、雪が積もった風景も、また趣があっていいものだった。惜しむらくは富士山に雲がかかってしまったこと。ここから見える富士山はまた素敵なんだけどなぁ。 さ〜て、ここからの足をどうするかだ。タクシーを呼んでもらおうかと売店の人に声をかけようかと思ったとき、壁にバスの時刻表が貼ってあるのに気が付いた。それによると確かに忍野八海入口から富士山駅方面に向かうバスは15時46分まで無い。しかし山中湖方面から忍野方面に入らずに直接、富士山駅、河口湖へ向かうバスが忍野入口というバス停を、13時:50分と14時35分に通るのがわかった。店員さんに、ここから忍野入口停留所まで歩くとしたら何分くらいかかるか訊いてみた。すると「すごく遠いですよ」との答え。それでももうひと押し、それでもあえて歩くとしたらと訊いてみたら、「そうですねぇ、30分くらいかかりますよ」との答え。30分歩くなんていうのは私にとっては、遠いと言える範囲ではない。この時点で13時15分。13時50分は微妙な時間だが14時35分は間に合うだろう。よし、忍野入口まで歩いて、14時35分のバスに乗ろう。 もう30分ほど忍野八海を歩き回った後で、13時45分に忍野八海を出発。忍野入口へ向かって歩き始める。店員さんの言うとおり30分かかるとするなら、忍野入口バス停到着は14時15分。向こうで20分の余裕があることになる。なんだかますます私の大好きな『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』そっくりになってきた。繋がらないと思っていたルートが繋がったという感じだ。忍野入口までは一本道ということだったが、バス停の標識を確認しながら歩く。最初のうちはバス停の間隔が短く、これなら30分かからずに着いてしまうなと思っていた。ところが行くにつれてバス停の間隔が遠くなっていく感じなのだ。そして時計を見たら14時15分を回っていた。30分歩いても忍野入口に着かない。そんなに道草をしながら歩いていたのではないのに。急に不安になってきた。おいおい、14時35分までに着けるのだろうか? さらに10分歩いて14時25分。あと10分しかないぞと思ったところで前方に道路標識が見えた。大きな道路に出る交差点だ。右に曲がると河口湖になっている。ここが忍野入口に違いない。道路まで出て信号を渡る。あった! 忍野入口のバス停標識だ。バスは正確に14時35分にやって来た。このうれしさはやっぱり『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』だよなぁ。 富士山駅到着。ここの駅ビルの最上階は展望テラスになっていて富士山が見えるということなのでエレベーターで上がってみる。確かにここからは目の前に富士山の姿がドーンと見える。ただし今日はもう雲がかかって裾野の部分しか見えなかった。まあ、また来るとしよう。山中湖徒歩一周も先送りになってしまったのだから。また来ればいい。 今夜の宿は、[鐘山苑(かねやまえん)]だ。タクシーに乗る。[鐘山苑]までは思っていたより距離があった。地図を見ると近そうだったので、歩こうかと思っていたが、これはタクシーで正解だった。 タクシーが[鐘山苑]に入って行って、ここでもびっくり。というのも最近は部屋数の少ない小さな規模の宿ばかりに泊まっていて、インターネットのサイトで見たときの印象からは、ここも、もっとこじんまりとした宿を想像していたからだ。[鐘山苑]は十階建の大きな建物。大きな玄関から入ると天井の高い広々としたロビーが開けていた。第一印象としては、主に団体客相手の観光ホテル。こういうのって苦手なんだよなぁ。フロントでチッェクインすると仲居さんが部屋に案内してくれた。一通り館内の設備と食事、浴場、各種サービスの説明をしてくれたが、いろいろあってすべては理解できない。まぁ、その場その場でわかるだろう。 広大な庭が売りだと言われて、暗くならないうちに散策してみることにした。いや〜、これは凄い。広いなんていうものじゃない。庭に大きな川が流れ、橋がかかっている。残念ながら積雪のために庭がよく見えないのだが、四季折々に楽しませてくれる樹木がたくさん植わっているようだ。庭の中には茶室まであり、そこで抹茶のサービスを受けた。抹茶なんて何年ぶりだろ。 さあて次は風呂だ。最上階にある富士山が見えるという展望露天風呂は今日は女性用だから、一階にある大浴場にする。とにかく広い宿でところどころに置いてある道案内を見ないと風呂の場所もわからないくらい。大きな風呂だ。最近は小規模な宿ばかりだったから大浴場といいながら、それほど大きくはないものが多かったが、ここはまさに大浴場という名にふさわしい。洗い場も広いし、風呂もジャグジーがあったり打たせ湯があったり。もちろん露天も付いている。湯から出ると大きな休憩所があり、麦茶のサービスが受けられる。やはりこれだけの規模の宿だから泊り客も多い。それも女性4〜5人というグループが多いらしくて、みなさん湯上りを楽しんでいる。この大浴場以外にも元湯大浴場という岩風呂もあり、そちらにもハシゴしてみる。風呂は充実しているなぁ。 風呂の後はビール。部屋の冷蔵庫には有料の壜ビールが入っていた。窓から富士山を眺めながらビールと思っていたが、やはりもう富士山は見えない。それにだんだんと辺りは暗くなってきた。それでも今日も二万歩ほど歩いたからビールがおいしい。 18時に夕食。食事処に行ってみて、これがまた驚き。最近は個室になっている食事処というのに慣れてしまっていて、そういうのをイメージしていたら、ここはいわゆるオープンキッチン形式。中央にキッチンがあり、その周りをテーブルが取り囲んでいる。な〜るほど、これなら常にお客さんの食事の進行具合が一目でわかり、次の料理を出すタイミングがスタッフにわかるというもの。それに料理の出し入れがスタッフには便利だ。ある意味合理的なシステムだ。面白いと思うのは、これだけの規模の観光ホテルだと夜も朝もブッフェ形式にしてしまうところが多い中で、ここはあくまでも会席のスタイルにこだわっている点。ブッフェだといかにおいしい料理を出されても、落ち着いて食事をしたという気にならない。ここは食事の満足感がかなり高いといえる。内容もありきたりのものではなく、食材も調理法も凝っている。そのくせにして肩の凝らないカジュアルなところも感じる。最初に出てきたいわゆる先付だってフォアグラを使ったものがあったりして、和の中に洋を取り入れているし、見た目にもきれいなものが多い。碗物は鍋に変えられて、甲州地鶏と寒ブリの水炊きだ。お造りは下にたっぷりのクラッシュアイスを入れた椀の上に乗せられて供される。ここからが会席というより洋食にチェンジする。魚料理がサーモンなのだが、これはもうフランス料理風。ほうれん草のムースが敷いてある。グリルしたサーモンには黒胡麻がかけられ和も加えてみせる。肉料理は国産牛のフィレのポワレとボルチーニ茸のコンソメ。最初は会席と見せて、実は洋食。本格的な旅館の会席にすると品数がやたらと増えてしまい、出し入れも大変だが、この形式なら簡略化できる。このあとが食事で蟹の炊き込みご飯。デザートまで食べて満腹。 食後、ロビーで和太鼓のショウとビンゴ大会があったが私はパス。かなりの数のお客さんがショウを楽しんでいたようだ。さらにそのあとには有料だがコンサートラウンジで音楽が演奏されていた。こういうところはまさに観光ホテル。とにかくこの宿が面白いと思うのは質を落とさずに団体客も家族連れも、それに静かに過ごしたいと思うお客さんまで取り込んでしまい、しかも料金設定が安いということ。これは驚きだと感じた。しかももっと凄いのは、よりグレードの高いサービスを期待するお客さんのために、4階と5階は、[鐘山苑 別墅然然(べっしょささ)]と名を変えて営業していることだ。この階はいわゆるスイート。富士山が見える個室露天風呂付き、しかも食事は部屋出しで内容もレベルアップ。料金もいきなり高くなるが、それだけの価値は確かにありそう。どんなニーズにも合わせられるという懐の深さは驚きの一言。次回はこの[別墅然然]に泊まってみよう。山中湖徒歩一周、富士山駅の展望テラス、そして[鐘山苑 別墅然然]、次の楽しみができた。 2月6日記 |