福神漬け



学生の頃、某ファミリーレストランでバイトしていた。 当然いろんな客がいるもんだが、俺が嫌いな客の種類で「言い訳をしながらものを頼むおばさん」という種族があった。 「ちょっと」と呼ぶのでテーブルに行くと、「このカレーについてた福神漬けをもう少しいただけない?とってもおいしかったから・・・」 などとほざきやがる。

俺は内心ムッとした。追加注文はもちろん、水やコーヒーのおかわりは通常の業務だ。また、胡椒やしょうゆはテーブルに出していないので、それを持ってこいというのも時々ある。 しかし、福神漬けのおかわりを持ってこいというのはあまり聞いたことがない。 たしかにおかわりの対象としては微妙な存在ではある。福神漬けやらっきょうを別に持ってきて食べ放題のところも多い。 しかし、カレー皿の脇に最初から乗っていた場合は、常識的にはおかわりはしないだろう。 つまり俺にとっては「よけいな仕事」なわけだ。

しかし、俺がムッとしたのはよけいな仕事を頼まれたことよりも、むしろおばさんの頼み方だった。 常識的でないという意味で、そもそもずうずうしい注文をしているのだから 「すみません、申し訳ないけど福神漬けをもう少しいただけませんか?」と下手に出るとか、 むしろずうずうしいついでに「私は客よ」という態度で「これもっと頂戴」と堂々と言えばいいのだ。 とってもおいしかったから・・・だと?小さいレストランのオーナーシェフならいざしらず、 大手レストランチェーンでバイトしている奴がそう言われてよろこんでおかわりを持ってくると思うのか? あるいは、ずうずうしい自分の行為を「福神漬けがおいしかったから」という理由で正当化しようというのか。 違う。福神漬けのせいではない。お前が意地汚いからだ。自分の意地汚さを誤魔化そうとするからよけい醜いのだ。

俺はキッチンに頼んで小皿に福神漬けを入れてもらった。 一緒に持っていったおかわりの水の中に、こっそりツバを吐いといたのは言うまでもない。

(30th May,2000)


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