おんぶする女



ちょっと前に、ここの酒場で大分県の「高崎山」が話題になった。 高崎山は九州じゃそれなりに名の通った観光地で、ニホンザルが放し飼いにされている大きな猿山のことだ。 俺の高崎山体験はというと、何回かあったと思うが、いちばん覚えてるのは中学校のときの修学旅行だ。当時の俺の田舎では、中学生の修学旅行は2泊3日で「阿蘇」と「別府」。高校生は3泊4日で「京都」と「奈良」にだいたい相場が決まっていた。別府(大分県)に行くときは高崎山もセットになっているわけだ。

この高崎山ではいくつかの注意事項がある。
1.猿と目を合わせるな。(飛びかかられる。)
2.ポケットに手を突っ込んだまま歩くな。(何か持ってると思って飛びかかられる。)
3.弁当を食べるときは猿に注意。(やっぱり飛びかかられる。)

この注意事項はスピーカーで繰り返し流され、あちこちに注意を促す看板もある。言ってみれば高崎山の鉄則だ。 余談になるが、上の鉄則1は意外と難しい。放し飼いにされているだけあって猿はあちこちにいる。俺の友達が車に酔ってトイレで吐いてたら、横で猿が興味深げに見物してたという話があるくらいだ。そんな状態だから、右の猿から目を逸らすと今度は左の猿と目が合いそうになる。高崎山に行くと、みんな中田みたいにキョロキョロ顔を動かしているからかなり滑稽だ。

さて、「笑い者=猿おんぶ」のネーミングは、この中学生の時の修学旅行中に俺が目撃した事件に由来する。上にも書いたように、高崎山では油断すると(猿に)持ち物を引ったくられたり、飛びかかられたりする。俺も「何でエテ公ごときにこんなにビクビクしないといけないんだ。」と憤りを感じつつも、猿から目を逸らしながら歩いていた。すると、突然泣き声とも叫び声ともつかないウギャーン!!という人間の声が聞こえた。「な・なんだ?」と思う間もなく、目の前を女子生徒が猛スピードで走っていった。そして、あろうことかその背中には猿がしがみついていた。

きっと何かの拍子に猿が背中に飛びついたので、「背中の猿から逃げようとして」必死で走りだしたんだろう。 彼女の顔は恐怖に引きつっていたが、猿はもっと必死の形相だった。振り落とされまいと一生懸命しがみついているのだ。女の子の叫び声にびっくりしていたのかもしれない。「しがみつく→スピードを上げる→もっとしがみつく→泣き叫ぶ→さらにしがみつく」の悪循環?だった。

後で思い出して話すときは笑い者にされていたが、あまりにも想像を絶する光景のため、そのとき俺たちがやっとのことで発したセリフは「す・すげえええ・・・・」だった。

( 5th Jul, 2000)


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