バカのプレゼント



「賢者の贈り物」というO.ヘンリーの小説がある。
そう、貧乏な若い夫婦がお互いクリスマスプレゼントを買うお金が無くて、夫は時計を売って妻の櫛を、妻は自分の髪を売って夫の時計の鎖を買うというあの小説だ。今は知らないが、以前は教科書に載っていたということもあって、その印象的なストーリーのために非常に有名な短編だった。
しかし、俺にはあれがなぜ美談なのかわからない。っていうか、あんなことがありうるだろうか。普通は大げんか、特に奥さんのほうは激怒するんじゃないか?

いったい何考えてるのよ!私がせっかく髪まで売って買ってきた鎖が台無しじゃないの!

き・・・君だって、僕がせっかく買ってきた櫛が無駄になったじゃないか。

バア〜〜〜カ!!髪なんか一ヶ月もすりゃ伸びるわよ。それに坊主にしたわけじゃないんだから 今だって使えるじゃない。あんたの時計はもう取り返しがつかないのよ。

い・・・いや、どうしても君にクリスマスプレゼントをと思って・・・。

だからあ、時計なんか売ったらあとが困るでしょ。その時計は、誰が何のために買ったか覚えてる!?

そ・・・それは、君が僕の就職祝いにって・・・。

な〜にが就職祝いよ。その前の職場であんまり遅刻が多くてクビになったからでしょ!大体、他人からもらったものをよく簡単に売れるわね。血でも売っとけばいいじゃないの。高く売れるらしいわよ!

ち・・・血を?

そもそも、あんたがだらしないから、こんなに貧乏なんじゃないの!プレゼントなんか買うことを考える前に人並みの給料持ってきなさいよ!もおおおおお、ほんっっっっとに情けない!アホ!ボケ!カス!「バカからの贈り物」なんて欲しくない!!!!!

ってなぐあいである。

贈り物に対する考え方は人それぞれかもしれない。
うちの奥さんは「その人が一生懸命考えて探してきてくれたプレゼントならどんなものでも嬉しい」などという。まあ、その考えも否定はしない。
しかし、「自分の好きな人が一生懸命考えて買ってきた100円のたわし」と「大嫌いな奴がな〜んも考えずにくれた百万円の現金」はどっちが嬉しい?考えたからいいってもんじゃないだろう。

俺は一番嬉しいプレゼントとはそのひとが一番欲しいものだと思ってる。もちろん「欲しいものはなんだろう」と考えることはいいことだと思う。しかし、結果が全ての世の中。その予想が外れれば、贈る方も贈られる方も不幸だ。むしろ贈られた方が「あ・・・ありがとう。と・・・とってもうれしいわ」などと引きつりながら気を遣う結果になる。
だから俺は、プレゼントは一緒に買いに行くことにしている。味気ないと言うやつもいるが、例えば食事をおごるときに、相手にメニューを見せて選んでもらうのは全然不思議じゃないだろ?

アンケートによれば、中元、歳暮で欲しいものの筆頭は商品券らしい。本音が出ていてよろしい。最近は中元、歳暮や結婚式の引き出物に相手が自由に選べる商品カタログを贈ることも多くなった。やっと賢者が増えてきたという事か。

(19th Jan, 2002)


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