黒いつゆのうどん



「東京のうどんはつゆが黒いらしい。」

関西や九州でもよく知られている話だ。言うまでもなく、関東のうどんのつゆは醤油ベースで、関西から西はかつおだしなどをベースにしている。俺が九州から東京に移り住んだときも、その話はよく知っていたから、東京でうどんを注文して、つゆの黒いうどんが出てきても別に驚かなかった。「ほほう、これが噂の東京うどんか。」という程度だった。もちろん違和感はあって、最初はとてもつゆをズズーッとすする気にはなれなかった。すごく味が濃そうに見えたからだ。そこで次にうどんを食べるときは鍋焼きうどんを注文することにした。俺の感覚だと、普通のうどん、特に肉うどんあたりは醤油味でもOKだ。しかし、玉子とじうどんになるとちょっと首をかしげたくなってくる。鍋焼きうどんにいたっては、つゆが黒いのは許せない。これは理屈じゃない。俺の感覚の問題だから、きっと関東の人にはわからないだろう。もしかしたら、関西や九州の人にはわかってもらえるかもしれない。そうそう、ついでに思い出したが、関西ではうどん屋がメインで、うどん屋でそばを食うが、関東では関西系のチェーン店とかじゃなければ基本的にそば屋がメインだ。

というわけで、ある休日の昼に会社の独身寮近くのそば屋で鍋焼きうどんを注文することにした。しかし、鍋焼きうどんってのは何であんなに高いのかね。ただでさえ高いのに、鍋焼きうどん(上)なんてのがあったりする。まあ、いいけど・・・。

さて、出てきた鍋焼きうどんを見てがっかりした。
「鍋焼きよ、お前もか・・・・・」
黒いんだよ、つゆが・・・。まあ、当たり前っちゃあ当たり前だが・・・。でも、やっぱりショックだった。(しっかり残さず食べたけど。)俺なんかは割り切って食べちゃうけど、きっと、どうしても黒いつゆのうどんがダメだっていう人もいるだろうな。

もうひとつ、九州と東京の醤油の話を・・・。

最近は東京でも刺身用の醤油というようなものがスーパーで売っている。いわゆる「たまり醤油」というトロッとした少し甘みのある醤油だ。俺の田舎では、魚の刺身にはこの醤油と相場が決まってる。当然すし屋ではこの醤油を使う。この醤油の入った小皿がうやうやしく差し出されるのが、すし屋に行ったというひとつの証だ。

ところが、東京に来て初めてすし屋に行ったときのこと。カウンターに座ってビールとつまみを注文したら、小皿はあるけど肝心の醤油が入ってない。奥から運んでくる風でもないので隣の客の様子を盗み見してたら、なんと目の前の「醤油さし」から直に醤油を注いでいるではないか。おいおい、それはないだろ。これじゃ、まるで家でめし食ってる気分じゃねえか。それに・・・・それに・・・・この醤油は普通の醤油じゃないかあああああ・・・・!!給料が出たから奮発してすし屋のカウンターに座ってる俺のステータスはどうなる?当時の俺には「自分で注いだ普通の醤油ですしを食う」ことがなんかすごく安っぽく感じられてひどく損をした気分になった。でも、月日が経って今ではすっかりそれにも慣れた。

こないだ田舎に帰ってすし屋に行ったとき、あの懐かしいたまり醤油が出てきた。「これこれ!やっぱりこれじゃないとな。」俺の田舎は魚がうまい。新鮮な白身魚の刺身にたまり醤油をつけて口に放り込んだとき「あれっ」と思った。たまり醤油がちょっと甘すぎると感じたのだ。上にも書いたように関東でもたまり醤油に近いものは売られている。しかし、関東用に少しとろみも甘みも抑えてある。どうやら俺の舌も関東仕様になってたらしい。

ちょっとだけ九州男児のプライドが傷ついた。

(8th Feb,2001)


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