裏切りの快感



俺のファンタジスタの定義のキーワードは「裏切りの快感」だ。つまり、リズム、方向、ボールの質の3点で観客を裏切ってくれるかどうかなんだ。この中でも特にリズムなんだけどな。(去年「変拍子」って表現したっけか?)

観客ってのはプレーを見ながらなんとなく次のプレーを予想している。
例えば「今のはダイレクトでシュートだろうが」とか「右サイド空いてたのに」とか「もっと柔らかいパスだったら」なんていう野次は、まさに観客が一緒になって次のプレーを予想している証拠だ。
そして、その予想通りのことをしてくれなくて(あるいは単純にミスして)不快になるわけだ。この場合は「裏切りの不快感」という。

例えば中田英寿はミスが非常に少ない。見ている方からすると「行け行けえ、ようしそれだあああああああああああ」っていうパスを出してくれる。つまり「予想通りの快感」なわけだ。時には(最近は多いが)予想以上の場合もあるが、これは飽くまで予想の延長線上にある。

ところが、例えばピクシーなんかは、いとも簡単に観客の予想を裏切ってみせる。90年W杯だっけ?キーパーと1対1になって、たぶん見ている全ての人がボレーシュートだと思った場面。あそこでトラップしちゃうんだよ。ピクシーってのは。全世界を裏切ることでオルガスムスに導いて、ファンタジスタが誕生した。

こないだバッジオが日本に来たときもキーパーと1対1でフェイントかましまくった場面があった。あれは、お遊びのサービスだろうけど、こっちのリズムをむちゃくちゃに壊すくせに快感なんだ。へたくそな奴が変拍子の曲を作るとすんげえ不快な曲ができるんだが、天才は変拍子で快感を与える。ビートルズにもいっぱい変拍子の曲はあるぞ。

俊輔は、中田に感じられない変拍子のリズムをときどき演出してくれる。だから、彼はファンタジスタの要素があると思う。おもてで、中田は現代版ファンタジスタかもしれないっていう話題があったが、俺は違うと思う。彼はすでに超一流プレーヤーになりつつあり、観客に快感を与え始めているが、それは決して「裏切りの快感」ではない。

(15th Nov,1999)


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