遙かなる時空の中で3 十六夜記
〜なでしこの花をあなたに〜
◆配役:♂3:♀1:計4名
春日望美(かすがのぞみ)♀:17才。白龍の神子(はくりゅうのみこ)に選ばれた女子高生。
CV:川上ともこ 怨霊を封印し、時空を越える力を持つ。
有川譲(ありかわゆずる)♂:16才。望美を守る八葉・天の白虎。
CV:中原茂 望美と幼なじみで、将臣の弟。望美を慕っている。
武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)♂:25才。望美を守る八葉・地の朱雀。
CV:宮田幸季 九郎の親友。源氏の策士。
白龍(はくりゅう)♂:24才くらい。望美を神子に選んだ白い龍。
CV:置鮎龍太郎 純粋で、まっすぐな龍神。
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望美♀:
譲♂:
弁慶♂:
白龍♂:
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K=回想の意味
〜京邸・庭〜
望美:すっかり風が涼しくなって、秋が来たって感じだね。
白龍:秋の風は金気(ごんき)を帯びて運ぶ。
金気の色は白、色無き色だ。だから、秋の風は澄んでいる。
望美:そうか。秋の空があんなに高く見えるのもそのせいかな。
白龍:うん。秋の風が庭も変えている。
望美:そうだね。葉っぱが色づいて、庭もすっかり秋めいてきたね。
あれ?かわいい花が咲いてる。
白龍:撫子(なでしこ)の花だね。譲が植えていたものだ。
譲K:庭の手入れをしているんですよ。
先輩は花の咲いた庭、好きでしょう?
望美:そうか。あの時、種もまいていたものね。
撫子の花だったんだ。綺麗に咲いたね。
白龍:この花が綺麗なのは、京の龍脈が調和を取り戻しつつあるからだよ。
神子が力を尽くしたことが、花にも現れている。
この柔らかな薄紅は、神子の優しい心が花開いたかのようだね。
望美:もう……そんな風に言われると困っちゃうよ。
せっかくだから、譲くんにも教えてあげなきゃ。
白龍:そうだね。きっと譲も喜ぶ。
〜邸の中〜
望美:えーっと、譲くんは…。
弁慶:……は寝る前に塗って下さい。
譲 :はい。
望美:あ、こっちかな?
弁慶:あまり…無茶はしないでくださいね。
君もわかってると思うけど、薬なんて無力です。
与一にしても、命を取り留めたのは普通ではありえないことなんです。
譲 ;はい。
望美:(譲くん…っ。あの、怪我は?)
弁慶:うん、腕の怪我さえ大事にすれば問題ないでしょう。
譲 :すみません、面倒ばかりおかけしてしまって。
弁慶:ふふっ、そういう遠慮は無用ですよ。
僕は薬師(くすし)ですから、これが仕事です。
口うるさく言ってしまって、僕こそすみません。
望美さんを守るのは八葉としても大切なことです。
ただこうも怪我人が多いと、つい意地悪のひとつも言いたくなってしまって。
望美さんはまっすぐで迷いがない。だからこそ……。
不安になるのもわかります。彼女は自分が傷を負うのを怖れないから。
周りで見ているほうが怖いと感じる。
望美:(もしかして、あの怪我…。私を、かばったせいなの?)
譲K:つっ…平気です。このぐらい、たいしたことありません。
春日先輩は大丈夫ですか。怪我はありませんね?
望美:(左肩って、あの……時の?
気づかなかった…。どうして、何も言ってくれなかったの。)
譲 :先輩だって本当は…。きっと迷うときもあると思います。
けれど、俺達の知らない何かを抱えて、前を見ようとしてる。
……それなら、俺は先輩が前を見ていられるようにしたいんです。
神子として戦わなければならない、あの人を守る。
それが……八葉の役割でもあるんでしょう?
弁慶:そうですね。それは正論だから反論のしようがないな。
どうやって説得したものか。
……君はどう思いますか?望美さん。
立ち聞きだなんて、いけない人ですね。衣の裾が見えていますよ。
望美:ごめんなさい…。
弁慶:いいえ、ちょうどいいところに来てくれて助かりました。
これ以上秘密にしても二人とも怪我が減らなさそうですから。
せめて譲くんの怪我が減るよう、君から叱ってあげてください。
望美:その肩、私をかばったせいで怪我したんだね。
譲 :いえ、俺が未熟だっただけです。
望美:誤魔化さないで。そうなんでしょう?
譲 :………………はい。
望美:それだけじゃ、ないんでしょう。福原の戦でも?
全然、気がつかなかった。ごめん……。
譲 :謝らないでください。
先輩に知らせるほどのこともない些細な傷ですよ。
望美:でも…私がもっとちゃんとしてれば、みんなに怪我なんてさせないのに。
譲 :春日先輩…。
望美:……私、ほんとにみんなが傷ついたり、いなくなってしまったり…。
そういうのは、もう嫌なんだよ。
望美:(私に力があればいいのに…。
誰にも負けないほど、誰も失わずにすむほどの力が……。)
望美:鈴…?今のは、白龍?
譲 :どうしたんですか?鈴って?
望美:ううん……。
望美:(もう、聞こえない。気のせい、だったのかな。)
譲 :春日先輩……。
……それより何か用事があったんじゃないですか。
望美:ん…うん。庭に花が咲いてたから知らせたかったんだ。
譲くんが種をまいたんでしょう?撫子の花。
譲 :はい。綺麗に咲いてよかった。
たくさん咲いたから部屋に飾ってもいいかもしれませんね。
あとで届けます。