■ PINK PRISONER ■



「おかえりなさい、アリオス」

「ただいま、ルヴァ」

バレンタインから1月後の今日はホワイトデー。
アリオスには待ちに待った日であった。
何せバレンタインにチョコを贈ったお返しをしてくれるとルヴァが言っていたのだ。
期待しないでなんていられなかった。
生憎色んな事が立て込んでいてルヴァとすれ違いの生活をしていた。
けれど今夜だけは特別だからと言って一切のことを断った。
こっそりとルヴァの私邸に一緒に暮らしていたアリオスだったが、何もしてない訳ではなかった。
少々込み入った内容の仕事をルヴァにも秘密でこなしていた。
そのせいで一緒に暮らしていてもすれ違いが多くなっていた。
ルヴァはそんなアリオスに何も聞かず微笑んで、そばにいるときは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
聞き分けのいいルヴァ。
きっと自分のいないときには泣いたり、不安になったりしているんだろう。
一人になるとそんな思いをさせてしまう。
そんな自分が内心憎かった。
そう思いながらも今の現状を振り払えない自分に苦笑しながら蓋をする。
ルヴァの前では決してそんな自分を知られないようにするために笑う。
ルヴァの顔を自分の前では曇らせないように。
だから、アリオスはルヴァに笑顔を向ける。
そして、出来るだけ優しく抱きしめる。

「ちょっと待ってて下さい、今お茶を・・・」

久しぶりの恋人同士の逢瀬。
しかも今日は待ちに待ち望んだ特別な日なのだ。
だから、アリオスは顔を合わせた瞬間、愛しい恋人をその腕に抱きしめた。
それはいつものことだったはずだった。
けれど、ルヴァは少々いつもと違った動揺していた。
それを誤魔化すかのように微笑みながら確かこないだ買ったお茶の葉がこの辺に〜と言いながらアリオスの腕から離れ、御茶の準備しようとした。
そんなルヴァにくっと息をもらして笑うとアリオスはルヴァの上着を掴み止めて、口を開いた。
 
「お茶はいい」

そう言いながら振り返ったルヴァの首に腕を回すと相手に何を言う間も与えず、唇に唇を押し当てた。
外から帰ってきたばかりの冷たい唇が温かな唇によって溶けていく。

「・・・・・っ」

驚いたように身を退こうとするルヴァを遮って、より深く唇を合わせて身体をすり寄せる。
すると慣らされた行為から自然とルヴァは緩く唇を開きだす。
その従順さにアリオスは笑みを零しながら開いた唇の口腔内に舌を伸ばした。
ルヴァの下唇を咬むように挟んで吸い上げると合わせた唇がぴくりと震える。
途端、ぐいと腰と頭の後ろに手を回されて、まるで仰け反るようにキスが深くなった。

「・・・・・ッ、んっ・・・」

舌と舌が絡み合い、互いの唾液でぬるりと滑る。
口腔内を余す所なく舐め上げられ、上顎の段差を舌先で擽られるようにされるとぞくぞくと震えるような感覚が背筋に這い上がった。
巧みさで仕掛けられる口付けに、しばらくも経たずにルヴァの脚からかくりと力が抜けた。

「・・・・っふぅん・・・」

長いキスから解放され、喘ぐような吐息がルヴァの唇から零れる。

「・・・・・大丈夫か、ルヴァ?」
 
額を合わせるようにそう囁かれて、ルヴァはキスの余韻に震える指でもどかしげにターバンを滑り落とした。
それはしゅるっと音を立て、床に落ちていった。
ルヴァは伏せた睫毛の間から見上げるようにアリオスを見つめ、一呼吸置いた後、口を開いた。

「大丈夫です・・・アリオス・・・」

ルヴァはそう言って小さく微笑むと軽く瞠られた色違いの瞳と目が合わせた。
そして、首に回した手を滑らせて、愛おしげに銀の髪を梳き上げた。
自らあまり触れてくることをしないルヴァが積極的に触れてくることにアリオスは苦笑しながらルヴァがしたいように身を任せていた。

「ルヴァ・・・・」

アリオスの甘さを込めた声で名が呼ばれ、髪を梳いていたルヴァは手を下ろし、ゆっくりと目を伏せた。
下ろした手をそのままアリオスの腰に回し、ぎゅっと抱きしめ、そしてアリオスの肩口に額を寄せてルヴァはぽつりと呟く。


「今日は私が・・・・・・・」

します、と続けられた言葉は恥ずかしさ故か、消え去りそうな程小さな声だった。
そして、その後俯きながらアリオスの身体をトンと押し、ベットの縁に座らせた。
いきなりされたことにアリオスは驚き、思わずベットから落ちそうになるがそれを何とか床を踏みしめて堪え、ちゃんとした形で座った。
そんなアリオスにルヴァは俯いたままで近づき、相手の下肢に手を伸ばした。

「・・・・・・っ、ちょ、ちょっと待て、ルヴァ!?」

布越しにゆるりとそこを撫で上げるとアリオスから慌てたような声が上がった。
そんな相手の反応にルヴァは密かにごくっと息を飲み込んだ。

「私がこんなことしたらイヤですか?」

今にも泣き出しそうな潤んだ瞳で見つめて言いながらルヴァはアリオスのズボンのジッパーを引き下げ、下着の間からソレを取り出すとぎこちない動きで指を絡めて軽く扱いた。

「・・・・・ッ」

微かに息を呑むような気配がして、手の中のモノの硬度が増す。
それがルヴァには何とも嬉しかった。
自分の手で反応を返してくれることが。

「・・・・・いいのか?」

思いも寄らなかった行為に酷く興奮を覚えたアリオスは念を押すように低く掠れた声で問いかける。
そして、ぐっとルヴァの腰に腕を回し、力を込めて抱いた。
ルヴァは耳まで真っ赤にしたまま、返事の代わりにともう一度アリオスの唇に唇を押し当てた。
それが始まりとなった・・・・。





× × ×





「・・・・・っ、ん・・ぅ、ん・・・んく・・・」

ルヴァがソレをするのは初めてだった。
やってくれないかとアリオスに頼まれた事は過去に何度かある。
だけど、その度にルヴァは何も答えられず、泣きそうな表情で黙り込んだ。
そんなルヴァを見て、アリオスは悪かったと笑った後、宥めるように顔中にキスを降り注ぎ、無理強いさせようとはしなかった。
その代わり、アリオスはそれを情事の度事にしてくれていた。
ルヴァを気持ちよくさせたいと毎回丹念に愛してくれていた。
その愛がルヴァに溶ろけるような快感を教えた。
そして、今はその快感をアリオスに与えたいとルヴァは思っていた。
はっきり言ってそれをするのは恥ずかしかった。
何とも卑猥な構図であるが故に身を引いてしまいそうだった。
けれど、そんな気持ちよりもアリオスを想う気持ちが今日は大きく前へ出た。
アリオスを気持ちよくさせてあげたい。
それを強く思って、ルヴァはそれを実行に移したのだった。
間近で見るアリオスのそれは自分のものとは全く違う大きさと形状をしていて、こんなものが毎回自分の中に入っているのかと思うと身震いしそうなほどだった。
最初はおそるおそるといった感じで先をちょこっと舐めた。
瞬間、んっという声と共にアリオスがルヴァの髪を掴んだ。
その反応に勇気づけられてルヴァはそれを口いっぱいに含み、一生懸命舌を動かした。

「・・・・ルヴァ・・・・っ・・・」

アリオスは懸命にそれをしてくれるルヴァを見つめながら掴んでいた髪を放し、優しく梳いた。
その行為にルヴァは開かされ続ける顎が痛み、苦味のある粘液と唾液が唇の端を伝ってだらしなく喉元へと滴り落ちた。
そんなにも構わずにルヴァは涙を瞳の端にうっすらと浮かべながら愛し続けた。

「・・・・っふ・・・ぅ・・・んん」

何とか喉の奥まで受け入れようとする度に込み上げる吐き気と戦いながらルヴァは縮こまってしまいそうな舌で幹を舐め上げた。
苦しいし、辛いと思うのに自らの口腔内で脈打つソレを感じることで、その苦痛が別のものに掏り換えられていく。
絶対に上手い筈がない自分の口淫で、反応し、育っていく欲望が素直に嬉しいと思った。
一心に行為にルヴァは没頭する。

「・・・・ん・・・・っ」

いい加減口に含んでいることが辛い大きさになってきたので一度口から離し、唇と舌での愛撫に切り替える。
一度もした事はなかったがいつも自分がされていることを思い出せば、何となくどうすれば良いのかは分かった。
手で幹を扱きながら、ゆっくりと全体に舌を這わせていく。

「・・・・イイぜ、ルヴァ・・・」

ベッドの端に座って、その開いた脚の間に座ったルヴァを見下ろしながら、アリオスは何度となく柔らかなルヴァの髪を梳き上げた。
額に張り付くルヴァの髪を指先で取り除きながら、身を屈めて低く囁く。

「・・・舐めながらこっちを見てくれ、ルヴァ?」

低く笑い声を含んだ声でためされるかのような淫らな要求をアリオスは告げた。
いつもならかあっと全身真っ赤にして、逃げてしまうのがルヴァだった。
しかし、ルヴァは意外にも大人しくその要求に従った。
わざと見せつけるかのようにルヴァは張り出した先端を赤い舌で舐め上げながら、潤んでいる瞳のまま、上目遣いでアリオスを見上げる。
すると、アリオスと目が合った。
その瞬間、舐めていたソレがびくりと大きく震えた。

「・・・・ッ」

一瞬息を詰めるようにアリオスは呼吸を引いて、左右色違いの瞳が眇められる。
薄暗くした室内をぼんやりと照らす灯に浮かぶ、欲に濡れた視線と表情がルヴァの身体をも熱くした。
覚えのある重苦しいような疼きがじわりじわりとルヴァの腰にわだかまる。

「・・・・・っ、えっ?」

不意にアリオスにぐいっと膝の上へ身体を引き上げられて、ルヴァは戸惑ったように視線を泳がせた。
濡れた口元を拭いながら、アリオスの膝の上で躊躇うように腰を退く。

「ア、アリオス・・・・まだ・・・」

「悪い・・・」

まだ終わっていないと言おうとした言葉を遮って、アリオスは膝の上に乗り上げさせたルヴァの脚から下衣を引き下ろした。
そして、下肢に身に纏うものを全て取り払い、床に放った。
ルヴァの口で果てることもずっと望んでいたことだったが、それよりも一つになりたかった。
与えられるだけではなく、快感を共有したいと。
そんな思いからアリオスはルヴァの口から自分を放させたのだった。

「・・・・・・っひッ」

何も遮ることがなくなった下肢にアリオスの指は迷うことなく、ルヴァの奥まったそこへと突き入れられた。
その瞬間、ルヴァの喉が小さく鳴った。
まだ慣らされていないそこは軋むような痛みを伴って指を押し返そうとする。

「・・・・っ、い・・・っ」

ルヴァは顔を苦痛に歪ませながら痛みから強張ってしまう身体から何とか力を抜こうとした。
アリオスに応えたくて・・・。
そんなルヴァを見て、アリオスは興奮して先に進もうとする自分を叱咤し、ずるっと一旦強引に突きいれた指を引き抜いた。
そして、その後自分の先走りのぬめりを指に絡めてからまたルヴァのそこに潜り込ませた。

「・・・・・大丈夫か?」

濡れている分、先ほどよりは痛みを伴わない挿入にルヴァはこくこくと首を縦に振った。
本当はそれ程楽になった訳でもなかったが、アリオスに気を使わせたくなくてルヴァは頷いた。
その返事にアリオスの行動は繋がりたいという欲求から早急になっていく。
一本だった指が二本、三本と増やされ、いつもよりも強引にそこを開かされる。
その行為にじわりとルヴァの瞳に生理的な涙が滲んだ。

「悪ぃ・・・我慢出来そうにない・・・」

入れてもいいか?と耳元にアリオスが唇を付けて欲に濡れた声で低く囁かれる。
本当はまだ駄目だと分かっていた。
このまま貫かれれば、きっと酷い苦痛だろうと。

「・・・・・・・・はい」

それでも、震える声でルヴァは小さく承諾の返事を返した。
その承諾を聞くと同時に、ルヴァのそこに押し当てられたアリオスの熱いモノが侵入を開始する。


「・・・・・ひぃ・・・あぁ・・・・んッぅ」

思わず洩れ掛けた悲鳴を呑み込んでルヴァはぎゅうっと強く目を瞑った。
溜まった涙が目蓋の縁からぽろぽろと零れて行く。
先ほどの口淫に濡れた欲望は思ったよりもスムーズにルヴァの内部に潜り込んだ。
それでも、無理に押し広げられた入り口がじんじんと疼くように痛んだが予想したほどの衝撃ではなかった事に息を吐いて、ルヴァは薄く目を見開いた。

「ルヴァ・・・・大丈夫か?」

こちらを窺っていたらしいアリオスの目と目が合って、涙に霞んだ視界を瞬いて頷く。

「だ、いじょうぶ、ですよ・・・アリオス・・・・」

掠れたような声でそう応えるルヴァの腕を取って、アリオスは自分の首にそれを回させた。
向かい合った膝の上に乗り上げた姿勢で抱き合うような格好に今更ルヴァの頬が薄く染まる。

「・・・・・・動くぞ?」

言いざまアリオスはルヴァを激しく突き上げ出した。
ルヴァはその動きに必死についていこうとアリオスの首にまいた腕に力を込めた。

「あっ・・・・・やぁ、ッ・・・・っ、ん・・・ッ」

「ルヴァ・・・」

ぎしぎしと酷使されるベッドのスプリングが軋む。
アリオスの動きについていこうとする心とは裏腹に身体は反射的に退こうとする。
そんな腰をアリオスは強引に引き戻し、ルヴァはその衝動に小さな悲鳴を上げ、大粒の涙を零す。
アリオスは頬を伝う涙を舌で舐めあげながら欲望のままにルヴァを翻弄していった。

「あああ・・・・っ!!」

暫くして、そのままの姿勢で互いに熱い精を同時に吐き出した。
ぐったりとなったルヴァから萎えたものを抜き出すと一旦アリオスはベットに横たわらせ、優しく気遣うようにして顔中にキスをした。
そして、汗で張り付いた額の髪を掻き上げた。
そんなアリオスに濡れた瞳でルヴァは熱い息を吐きながら手を伸ばした。

「はぁ・・・はぁ・・・あっ、アリオス・・・・」

「大丈夫か、ルヴァ?」

「お願い・・・服を・・・」

脱がせてくださいと続けるはずだったが息の整わない状態でその言葉を紡ぎ出すことは困難で、それは声にならなかった。
しかし、見つめてくる瞳が言葉より明確にアリオスにその欲求を教えていた。
アリオスはルヴァの望むに応えるようにルヴァの身に纏うもの全て脱がせた。
そして、自分のものも全て脱ぎ去った。

「これで思いっきり愛し合えるな」

ルヴァの髪を優しく掻き上げながらアリオスは笑みを浮かべて、身体を重ねた。
直に互いの体温が重ねた瞬間、伝わる。
その事で酷く安心を覚えた。

「愛してるぜ、ルヴァ。一緒に気持ちよくなろう・・・」

そう囁いてアリオスはルヴァにキスした。
そして、柔らかくふっくらとした唇を、その奥の口内を思いのまま貪り尽くした。
胸いっぱいにルヴァのにおいを吸い込むと愛しくてどうしようもなくなった。
宣言したとおり、気持ちよくなるためにルヴァに愛を注ぎだした。
その身体と思いをもって・・・・












続く・・・