◆ 甘い痛み ◆
半ば無理矢理にも取れるほどの勢いで抱いたのは、相手を想う気持ちが大き過ぎたから。
相手の全てが欲しかった。
心は少なからず手に入れた。
好きだと告白して微笑みと頷き返された。
でも、それだけでは満足できず、身体も欲した。
目に見える愛を欲しがった。
本当に自分を受け入れてくれているのかが知りたかった。
そして、全てが本当に手には入る物なのかを確かめたかった。
「やっ…!…や、です……アリオ…ス…!」
半ば無理やりだと言ったがちゃんと手順は踏んだ。
誰の気配もない闇の時間まで待った。
そして、柔らかなベットの上で押し倒した。
ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて衣服を脱がし、体中にキスを降らし、優しく愛撫した。
強引な力で押し倒したけど優しく抱こうとした。
いきなり自分の身に起こったことにルヴァは驚き戸惑いながらも熱っぽく潤んだ目と力の抜けた体でアリオスに縋りついていた。
言葉で拒むようなことを言っても、拒めない心が体を動かしていた。
その拒むようで強請っているようなスタイルがアリオスの劣情に火をつける。
火をつけられた身体は性急な繋がりを求めて、ルヴァの身体に熱をつけていく。
清純で真っ白な身体は驚くほどその熱を感じやすいらしく、ルヴァの息はアリオスの指や唇、舌の愛撫に敏感に反応を返し、熱く熱をはらんでいた。
濡れた唇からは甘く、熱っぽい声がとぎれとぎれにこぼれ落ちていた。
初めて感じる刺激に翻弄されて、ルヴァの身体は素直な反応を見せ、アリオスを益々興奮させる。
「嫌じゃねーだろ?ほら、ルヴァのココ…もう我慢出来ねーって言ってるぜ?」
「…ッ…、そ…そんな、コトっ……あ、…やぁッ…!!」
強い刺激と優しい刺激を感じて涙を流すルヴァ自身はふるふると限界を伝えるように震えていた。
そして、奥まった秘所は丹念に指で、舌でほどいた事があってアリオスの細く長い指を3本も飲み込んでいた。
熱く絡むルヴァの内部にアリオスが嬉しそうに弓張に口を歪めて愛しそうにルヴァの頬に掌を滑らせた。
抑えられた欲求に僅かに震え、涙するその存在が、ただひたすらに愛しい。
素直に答えないとこがまた可愛い。
「…ふ…ぅッ……」
「…我慢出来ねーよ…ルヴァ……」
気付かれないように唾を飲み、逸る気持ちを抑えつけるようにアリオスは紅い舌で乾いた唇を嘗める。
こんなにももどかしい思いをしてまで、欲しいと思う相手が目の前に居る。
そう考えるだけで、アリオスは気がどうにかなりそうだった。
こんな相手は久しぶりだ。
いや・・・初めてだった。
「なぁ…俺のをお前のナカに挿れさせてくれ。この中で掻き回して、擦って、滅茶苦茶にして、いっぱいイカせてやるから……」
「…や、…んんッ……」
欲望に忠実な言葉をアリオスはルヴァに囁く。
腕に体を掻き抱きながら、ルヴァの耳に舌を差し込み、可否を聞くこともしないままそろそろと徐々に足を開かせる。
羞恥心に涙を零し、身をよじり、拒絶の言葉を吐くがそれでも抵抗らしい抵抗をみせないルヴァ。
そんなルヴァにアリオスは嬉しそうに笑う。
「…な、イイだろ…?」
「……ッ…」
止める気は毛頭無かったが、確かめるように一言だけ問う。
拒まないでくれとどこかで怯えていたアリオスの不安を拭うようにルヴァが目を閉じ、微かに震えながらもコクっと小さく頷いた。
その頷きにアリオスは情け無いほど安堵した表情でルヴァにぶつけるように口付けた。
「好きだ……」
そうして只の一言そう囁き、アリオスは入れていた指を引き抜き、ルヴァの秘部に変わって猛った自身を宛がい、そのまま貫くように奥へと入り込んだ。
その時の背に回されたルヴァの腕も、泣くように叫んだ短い声も、悦楽に堕ちた瞳もどれも全部が胸をギュッと締め付ける。
とても、痛い。
それは手に入れた喜びに咽び泣くような深く甘い痛みだった。
「ルヴァ…」
愛しげにその名を呟いて・・・全てが真っ白になった。
× × ×
熱かったはずの空気が冷たい。
その冷たさに目が覚める。
何度か目を瞬かせてから天井を見つめて気怠く身体を起こす。
気づけば自分の身体はベットから冷たい床にいた。
窓の外はまだ薄暗く、明け方にはまだ少し時間があるようだった。
「……何ていう夢見てンだよ…俺」
少しだけ自己嫌悪に陥りながら、アリオスは未だ覚めない頭をガリガリと掻いて起きあがる。
ふうっと息を吐きながら床と変わらないくらい冷たいベットに身を落とした。
あの熱い空気はそこにはなかった。
温かな体温も、その姿も・・・。
本当にあれは夢だった。
夢の中でルヴァを抱いていた。
この腕の中で泣いていた。
未だ見た事も無いような甘い声と表情で泣いていた。
本当にルヴァはあんな時、あんな声で、顔で、自分の腕に心地良さそうに縋ってくるのだろうか?
本当に・・・。
「………若いな…俺も……」
下半身に響く鈍い痛みに気付き、アリオスは苦笑する。
幾ら夢とは言え現実にも溜まってしまった熱を放っておくような不健康な真似も出来ず、アリオスはゆっくりと履いていたズボンを寛げ、滾る自身に指を絡めて溜まり込んだ熱を消化し始めた。
こんな行為は初めてだった。
今までは他人を使って処理をして来た。
今ではもうそんなことは出来ない。
本当に抱きたいと願う相手が居て、他人などではどうにも出来ないからだ。
「……く…ッ……」
嘲笑えてくる。
大事過ぎて手が出せない、などと思う自分が。
それほどまでに純粋ではないことを知っているから余計に・・・。
『アリオス……』
そう優しく名を呼び、綺麗に笑うルヴァが本当に大切で壊したくない。
「…はぁ……ッ!」
やがて迎えた一人での虚しい絶頂にアリオスは一人溜息のような息を吐きながら放埒したものを手近にあった布で適当に拭った。
少し汗ばんだ額に少し開いた窓から入ってくる夜風が心地良い。
「……どうすればいいんだ……俺…」
汚れた布をゴミ箱に投げ捨て、また静かになった部屋にアリオスはポツリと呟く。
言葉は夜風に紛れて流れ、応えは無い。
「………もうイイ加減…我慢の限界…だよな」
アリオスの理性はルヴァを抱きたくて仕方が無いところまで来ている。
もう少しで堰を切って溢れてしまいそうな想いに果たしてこの理性はどこまで持つのかも解らない。
最早、時間の問題かもしれない。
きっと、抱きたい、と言えばルヴァは応じてくれるのだろう。
けど、それをルヴァは望んでないのでは?と考えるとアリオスにはどうしても手が出せない。
望むことは、叶えてやりたい。
望まないことは、しないでやりたい。
そう思う反面で揺れている意識にアリオスは酷く思い悩んでいた。
「なぁ…俺、こんなにもお前が好きなんだよ…ルヴァ……」
切ない声で呟きながら自分とか違う空間で眠りに就いているであろうルヴァを想って、アリオスは再びベッドに沈む。
眠れない夜がまた一つ過ぎて行く。
どうすれば、という問いにも、答えはないまま。
いつか答えが出ることを祈りながらアリオスは自分しかいない空間に目を閉じていった。
その瞳の奥に愛しいものの姿抱きながら・・・。
【END】