Last In My WInds
霧に包まれ、つれてこられた不思議な大陸”アルカディア”。
最初、廃墟しかなかった。
しかし、二人の女王の力によってそうじゃない場所になっていった。
女王はその大陸を守り、新宇宙の女王は守護聖や教官の力を借りて、その大陸を育成していった。
その育成によって新たなる大陸が呼び寄せられ、規模を大きなものにしていった。
新たなる大陸の一つに”約束の地”と呼ばれる場所があった。
一面緑色の絨毯がひかれているような草原で、そしてその中央の大きな木が立っているといった場所だった。
約束の待ち合わせ場所にはもってこいではあるが、これといって変わったところのない場所だった。
けれど、何故かその場所に地の守護聖ルヴァは惹かれていた。
懐かしいわけではない。
何か珍しい物があるわけではない。
でも、何故かひかれて止まなかった。
その引力に逆らえないといった感じだった。
『どうして私はこんなにもあの地にひかれるのでしょ?』
自分でも不思議に思うのだが、それを説明できる理由を見つけだせなかった。
理由など必要ないくらいに身体は動き出す。
自然とその地へと向かって足は進んでいく。
まるで夢遊病にでもかかったかのように…。
海原のような草原へと足を踏み入れ、そして中央にある大樹へと向かう。
風が後押しするせいか、足がやけには早く進む。
そして、大樹のもとに辿り着く。
しかし、その下には先客がいた。
見慣れない格好をした銀色の髪の男が…。
その姿を見て、ルヴァは大きく目を見開く。
そして…
「アリオス…」
思わずその名を呟いた。
その声に男は反応し、振り返る。
「どうして俺の名を?」
男はルヴァにそう問い返す。
それは自分がアリオスだということを肯定する言葉であった。
瞳の色は変わっていたが、姿形、声は紛れもなくアリオスそのものだった。
ルヴァの想い人である者だった。
その存在が目の前に現れたことにルヴァは瞳の端に涙を浮かべた。
「アリオスなのですね…あなたは」
再会できた喜びに大粒の涙が浮かんではルヴァの瞳からこぼれ落ちていった。
そんなルヴァにアリオスは戸惑いの表情を見せる。
「どうして泣いてるんだ、あんた?」
「あっ、いえ…その…あはは……」
思わず涙を零してしまったことにルヴァは恥じて、さっと袖で涙を拭くと照れ笑いを返した。
そんなルヴァにアリオスは苦笑しながら近づいてきた。
「泣いたり、笑ったりしておかしな奴だな。袖でなんかで強く拭いたら瞳を痛めちまうぜ」
そう言ってアリオスはルヴァの瞳に優しく触れた。
そして、和らいだ眼差しで見つめてきた。
そんなアリオスにルヴァはただ見つめる返すことしかできない。
感極まっているせいか、言葉が出なかった。
伝わってくる体温が現実にいることを実感させる。
これは幻ではないと。
「どういうわけなんだろうな…。自分の名前しか覚えていないと思っていたのに…あんたの瞳を覚えてるなんて……」
苦笑しながらアリオスはルヴァの瞳を撫でていた指先を頬へと移した。
その優しい触れ方にルヴァは瞳を細める。
「あなたは記憶を失っているんですね…」
「あぁ…」
声を返されたときから感じていた違和感の答えがアリオスの言葉から導き出された。
その答えが出てからやっとルヴァは
アリオスが以前とは違った生まれ変わってきたのだということを認識した。
だから、記憶がないのだと…。
「自分の名前以外、本当に何も覚えちゃいないんだ。あんたの名前も…。一般的な知識はあるって言うのに……。ここがどこなのか?何故ここにいるのか?俺は一体何者なのか?全くわからねーんだ」
不安に満ちた表情を見せながらそう語るアリオス。
触れている指先がその気持ちをルヴァに直接伝えていた。
そんな指先にルヴァは優しく包み込むように手を当てる。
そして、優しく微笑みながら口を開く。
「今は不安かもしれませんが、ゆっくりと探せばきっと貴方が求めているものが見つかりますよ」
日溜まりのようなルヴァの温かな微笑みがアリオスの心を捕らえる。
包み込むような感じで……。
重ねられた指先から温かさとそれ以外のものが伝わってきた。
それは懐かしいような…愛しいと思えるような感じだった。
「あんたって一体何者なんだ?何で俺の欲しい言葉を恥ずかしげもなく言ってのけるんだよ」
温かすぎる存在にアリオスは苦笑する。
そして、それは次第に笑みへと変わっていく。
「バカじゃねーの?っていうくらいに人が良すぎだな。何か憎たらしいくらいに」
吹っ切れたような表情でアリオスはそう言い放つとルヴァの手をぐっと引いた。
その途端、ルヴァの身体はアリオスの腕の中へと引き込まれていった。
「ア、アリオス!?」
いきなりされたことに驚いて、ルヴァは動揺する。
そんなルヴァの様子にアリオスは楽しげに笑った見せる。
そして、ルヴァの顎に手をかけると自分を見つめるように固定した。
「こんぐらいでうろたえんなよ」
緑と金の瞳がルヴァを捕らえる。
目がそらせないように。
「俺はあんたの言うとおりにしてみようと思う。ゆっくり自分の過去や先を探して行こうと」
「アリオス…」
「あんたはこれからの俺を創り出したんだ。だから……」
次の瞬間、アリオスはぐっとルヴァの顎を引き寄せるとその唇にキスをした。
柔らかな唇に触れるだけの。
ルヴァは不意にされたことに呆然とし、目を見開いた。
そんなルヴァにアリオスは思いっきり笑うと固定していた手を外した。
そして、言いかけた言葉の続きを口にする。
「責任とれよ」
さっきまで不安そうだった人間とは思えないほど鮮やかな笑みを浮かべ、アリオスはルヴァを見つめた。
その笑みに思わずルヴァは見惚れる。
「どうなんだ?」
からかうような口調で返事を求める。
そんなアリオスにルヴァは安心感を覚え、微笑みを取り戻すと返事を返した。
「責任はとりますよ。ちゃんとね」
誠意のこもった口調でそう言うルヴァの瞳には強い光のようなものがあった。
そんなルヴァを見てアリオスは自分が救われている気がした。
こんな人間が自分の目の前に現れたことを感謝した。
もう不安になったり、悩んだりしなくても良いんだとそう思った。
こいつがいるなら振り切っていけると。
そう思うと今までの自分が妙におかしく思えた。
過去が見えなかったことに不安を覚えていた自分が。
「ったく、まいるぜ」
笑いながらアリオスはそう言うとルヴァのピアスに触れた。
その瞬間、ルヴァはぴくんと身体を跳ね上がらせた。
そんな姿にアリオスは穏やかな笑みを浮かべる。
「きっとあんたは俺にとって愛しい人間だったんだろうな。だから、記憶がなくてもあんたに心ひかれてんだろうな」
過去と同じく優しく触れてくるアリオスにルヴァは目を閉じる。
この人は変わらないんだなあと思いながら…。
口ではきついことを言いながらも優しさを見せる所は全然変わっていなかった。
自分が好きになったままだった。
だから、こんなにも心を許してしまうのだろうとそう感じていた。
「私はずっとあなたのことを想っていました。その想いはこれから先も変わることがないものだと思っています」
それは真実の言葉だった。
その言葉を口にしてルヴァは閉じていた瞳を開ける。
そして、グレーがかった瞳にアリオスだけを映した。
「ルヴァ」
「ん?!」
「私の名前ですよ、アリオス。あー、まだ言ってなかったですよね?」
穏やかで優しい眼差しを向けながらルヴァは自分の名前を口にした。
いつものように緩やかな口調で。
そんなルヴァにアリオスは同調したように穏やかな微笑みを浮かべた。
「ルヴァ…か。良い名だな」
以前言われた事のある言葉が告げられる。
ルヴァはそれを思い出して笑った。
「何笑ってやがんだよ、ルヴァ」
思いだし笑いを浮かべたルヴァに敏感に反応を返したアリオスはその身体を抱き締めた。
そして、背中に腕を優しく回した。
「俺はここにいる。だから、会いに来い。ルヴァ」
「アリオス…」
「嫌だとはいわせないぜ。あんたは俺に誓ったんだからな」
強く優しく抱き締めるアリオス。
その腕の中でルヴァは微笑み続ける。
低くて、温かな声が耳元に囁かれる。
「俺と恋をしようぜ。この地で…」
その声にルヴァは小さく頷き返す。
そして、恋はまた始まった……。
アルカディアという名の大陸から……。
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【FIN】