そのアリオスが、今こうして目の前にいる…
アリオスと見詰め合いながら、ルヴァは胸の鼓動が聞かれはしないかと必死で平静を装っていた。
「ルヴァ…あんた、俺と友人だったと言ったが、本当か?」
アリオスはルヴァを抱き寄せる。
ルヴァは何も答えない。
何も言わずに潤んだ瞳でアリオスを見詰める。
「本当に、ただの友人だったのか?」
アリオスの顔が静かに近付いて、至近距離からルヴァを見詰める。
「なら、どうしてこんなに俺は落ち着かないんだ。
あんたを見てると抱き締めたくなって、
抱き締めたら今度はもっと深くもっと強くむちゃくちゃになるまであんたを抱きたくなって、
どうにも抑えきれなくなるのはどうしてなんだ」
アリオスはそっとルヴァに口付ける。
始めは探るように、そして次第に大胆に情熱的になってゆく口付けが、
しまいには迸る想いをぶつけるようにルヴァに襲い掛かる。
「…あ…」
ルヴァの口から甘い声が漏れる。
その甘さに追われるように、ルヴァは夢中でアリオスの口付けに応える。
長い口付けが終わって、アリオスはルヴァを胸に抱き締めてささやくように言った。
「なぁ…、以前俺とあんたがどうだったのか、全く思い出せねーけど…」
アリオスの腕の中で、ルヴァの身体が微かに強張る。
「改めて…あんたのこと好きになっていいか」
ルヴァはアリオスの背に回した腕に力を込めることで、それに答えた。
数日が過ぎた。
アリオスの微笑と温かい抱擁に包まれて、毎日が幸せだった。
このままこの生活を続けられたらどんなに素晴らしいだろう。
アルカディアでの時間が限られていることが悔しかった。
二つの宇宙にそれぞれに戻ったりせずに、ずっと一緒にいられればいいのに…
無理な話ですけどね…
ルヴァは寂しげに微笑む。
でも…そうですね、
せめて、ここに居られる間は、
先のことを悲しまずに、精一杯楽しく過ごしましょう…
1日の執務を終えて私邸に戻ると、アリオスが優しい口付けで迎えてくれる。
幸せなひとときだった。
「なぁ、今日面白ぇモン見つけたぜ」
食後のお茶を飲んでいる時、アリオスが少年のような表情で言った。
「何です?」
「これ。あんた、きれいな字を書くんだな」
「…あ!…」
アリオスが取り出したものは、本ではなかった。
あの、皇帝との戦いを記録した、地の守護聖直筆の手記だった。
「それは…」
「本棚の奥の方で見つけたんだ。すげぇ事件が起こってたんだな…」
パラパラとページをめくっていたアリオスは、顔を上げてルヴァを見た。
「どうしたんだ、そんな顔をして…。あ、これ、読んじゃいけねぇやつか?」
ルヴァは曖昧な顔で笑ってみせる。
「いえ、そんなことはありませんが…、あの、たいして面白いものではありませんよ」
「いや、面白ーぜ。別の宇宙からの侵略者だなんて、全然真実味ねーけど…」
屈託無くアリオスが笑う。
「あの…どこまで読みました?」
「ん? あんたたちが全員救出されてなんとかって女学校の礼拝堂に向かうところまでだ」
あぁ、ではまだあなたの正体は明かされていないですね…
いつの間にか二人は、ソファに寄り添って座って手記を眺めていた。
「なぁ、このアリオスって旅の剣士…こいつは…俺か?」
「え、えぇ、そうですよ。あなたのことです…」
「ふーん。俺、なんか正義の味方みたいでカッコイイじゃん」
照れたようにアリオスは笑った。
「でも、これホントにあったことなのか?自分たちを登場人物にした小説かなんかじゃねーの」
「いいえ、全て本当にあったことです。私自身が体験したことと、他の方から聞いたことを合わせて、順序だててまとめてあります」
「そっか…」
アリオスは既に読んだページに目を走らせる。
「それにしても、侵略者がまず最初にやったことが女王と守護聖の監禁か…」
「え?」と見上げたルヴァに、アリオスがニッと笑いかける。
「あんたたちは本当に宇宙を支えている重要な存在なんだな…」
「いえ…そんな…」
ルヴァの頬が恥らうように赤く染まる。
手記をそっとテーブルに置いて、アリオスはルヴァを抱き寄せる。
「そうして俺は、その守護聖様をこうして毎晩抱いてるってわけだ」
「ア、アリオスッ…」
「守護聖であろうとなかろうと、俺は、ルヴァ、あんたが好きだぜ」
優しい言葉に続いて、情熱的な口付けが降ってくる。
深い口付けを繰り返しながら、アリオスの両手はルヴァの衣服を寛げ、感じやすいところをまさぐってゆく。
「ルヴァ…大地のように暖かくて大きくて、そのくせ儚げで初々しくて…そんなあんたが好きだ」
「…あぁっ…アリオス…アリオス…」
「あんたはずっと俺自身を見てくれている。あんたが俺の帰る場所なんだ…」
「…あぁぁ…あ…あんっ…」
快感に呑み込まれ、薄れてゆく意識のなかで、僅かに残った理性がこの先のアリオスの未来に想いを馳せていた。
このまま手記を読み続けていけば、
あなたはかつてのあなたの正体を知ることになります…
あなたが…侵略者その人であったと、
自分では思い出すことも出来ない、失った過去を突き付けられるのです…
せっかく過去をなくして再生したあなたに、
それはあまりにも酷い仕打ちではありませんか…
…それを恐れて、私はあなたとの再会から逃げたのでしょうか…
アリオスの舌がルヴァの首筋を辿って、胸元に下がる。
指で弄られて既に赤く立ち上がっている小さなふくらみを柔らかな舌先に捉えられて、胸の奥にズキンと衝撃が走る。
「…っ…」
ビクンと跳ねた身体を、アリオスの腕が抱え込む。
ルヴァの意識はすでに朦朧となっている。
アリオスの与える快感だけが全てになってきている。
それでも、半ば無意識の内で、ルヴァは考え続けていた…
もし、あなたが自分の過去を知ってしまって、
絶望や怒りやもろもろの思いに捕われたなら…
私があなたを支えてあげます。
以前、あなたが私を救ってくださったように、
今度は私にあなたを救い出させてください…
「ルヴァ…ルヴァ…」
「…あぁぁ…」
熱い吐息が絡む。
ルヴァの中で、アリオスが熱く息づいていた。
ねぇ、アリオス…
あなたはもう「レヴィアスの別の人格」ではないのですよ。
アリオスとして新宇宙に再生したあなたは、
レヴィアスであったあなたとは何の関係もありません。
あなたは、他の誰でもない、アリオスという人間なんですよ。
私たちは皆あなたを歓迎します。
だって…
私たちは、レヴィアスという名の侵略者とは戦いましたけど、
その時だって、アリオスは私たちの仲間だったのですから…
ねぇ、アリオス…
アルカディアの事件が片付いたら、私たちの宇宙にも来てください。
私はあなたを、新しく出来た王立芸術院に案内しましょう。
そこにはね、
リュミエールが描いた、あなたの肖像画があるんですよ。
共に旅をし、共に戦った、私たちの仲間、アリオスの肖像画がね…
「ルヴァ…好きだぜ…」
「アリオス…アリオス…あっ…あぁぁーっ!」
ルヴァはアリオスの腕の中で、歓喜の声と共に絶頂に達していた。
涙に濡れる頬にそっとアリオスが口付ける。
ルヴァは微笑んでアリオスをしっかりと抱き締めた。
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