【宵闇】


 
 アリオスは毎晩ルヴァのもとへ通っていた。
 ルヴァの用事がある日以外・・・。
 今夜は用事があるとは聞いていない。
 だから、自分の家のようにアリオスは闇の中、何の迷いも感じずにルヴァのいる寝室を訪れた。
 少し語らって、そして愛を囁きあって抱き合おうと思っていた。
 ところが・・・。
 

「もう寝ますぅ……」

「はぁ?」


 顔を合わせた瞬間、ルヴァが放った一言にアリオスはその場で固まった。
 潤んだ瞳に、ろれつが回っていない声。
 ルヴァから感じる鼻につく酒の匂い。
 それら感じて、アリオスは苦笑を零した。
 完全に酔っている様に。


「何一人で飲んでんだよ。しかも何だ、その台詞は……」


 呆れたようにそう言ってアリオスは笑った。
 そんなアリオスにルヴァは反応を返さず、自分のベットにあおむけになって寝転がった。
 そして、本当に眠る体勢に入り、ルヴァは目を閉じる。
 そんなルヴァにアリオスは苦笑いを浮かべながら近づく。
 酒を大分飲んで身体が火照って熱いせいなのか、ルヴァは珍しく薄い衣を身に纏っている。
 しかもその衣は胸元がゆるんでいて、鎖骨を丸出しにしてしまっている。 
 裾はかなりはだけ、片側が膝の辺りまでめくれている。
 普段では考えられない無防備な姿はかなりおいしい状況だった。
 アリオスは思わずごくんと喉を鳴らしたが、酔っている相手に不埒な真似をするわけにはいかないと思いとどまった。


「寝るなよ、ルヴァ。少しは俺の相手しろよ」


 せっかく会いに来たのに相手にされないままいるのは嫌でアリオスはそう言ってルヴァの頬を軽く叩いた。
 すると、ルヴァはぐずぐずと何か言いながら体を捩った。


「いやぁ、もう、寝ます……」


 本当に寝に入ろうとするルヴァにアリオスはしょうがなくかがみこんでその両肩をとらえた。


「おい、ルヴァ!!」


「ん…いや……」


 うっすらと開いたルヴァの目は潤んでいた。
 それが情欲をそそる。
 押し倒したいという強い衝動に駆られる。
 そんな場合ではないとわかっているのに鼓動が早くなるのを感じた。
 アリオスが見つめているとルヴァは潤んだ目を細めて笑った。


「アリオス、今日は……」


 ダメれす、ねかしぇてと回らない舌で言いながらルヴァはころんと横になった。
 誘ってんのか、こいつは。
 甘ったれた声で「駄目」なんて言われると、余計におさまりがつかないじゃないか。
 酔っぱらい相手だと思って、このおいしいシチュエーションをやり過ごそうとしていたと言うのに。
 横になっているルヴァにのしかかり、耳朶を甘噛みするとルヴァはいやいやと体をよじって仰向けになり、アリオスを睨んだ。


「もう寝かせて……アリオス……」


 その言われた瞬間、完全に火がついた。
 ぐうっと上からルヴァを押さえつけ、動けないようにしてから首筋に顔を埋めるとルヴァはもぞもぞと身じろぎした。


「いや……押さえないで下さい……痛い……」


 見上げてきた熱っぽい目。
 ゆるりと押さえていた手を離すとルヴァの腕が首に絡んだ。
 そのままきゅうっと引き寄せられて、口づけられる。
 普段には見られない積極性にアリオスは目を見開いた。
 ちゅ、ちゅう、と上唇に吸いつき、ルヴァはすでに膝を立てている。
 ウソだろうと内心で呟きながらアリオスはルヴァの内腿に手を滑らせた。


「ん……っ」


 ぴくんと体をひくつかせ、ルヴァはアリオスの唇を離した。
 唇で首筋をたどりながら両方の乳首を指で弄るとルヴァはたまらなげな声を上げる。
 鼻にかかった甘い声をいつまでも聞いていたいと思った。
 酔っているせいだろうか、ルヴァの体はいつもよりずっと熱い。
 鎖骨に歯を立て、こねまわしていた乳首を口に含むとルヴァは首をそらせて目を閉じた。
 普段からあまり抵抗を見せないルヴァだったが、ここまで抵抗しないのは初めてで何かくすぐったい気さえする。


「あ……っ、はぁ、ぁ、ん……っ」

「気持ちいいか……?」

「ん…ッ、い、い……やめない、で……」

 頭をかき抱きながらルヴァはじれったそうに膝を閉じたり開いたりしている。
 その間にも、しゅる、しゅる、とシーツの上をつま先が滑る。
 いつの間にかルヴァの頭にかけられていた布は外れて床に落ちていた。
 直に触れる事が出来るさらりとした髪の感触にアリオスは何度もそこに口づけを落とす。
 全てを許しているということを示していることがアリオスの欲をさらに煽る。
 自分の気持ちを形にするかのようにルヴァの身体を愛撫する。
 じれったいほど丹念に・・・。
 唾液で胸をべとべとにしながら腿を撫でるとルヴァは物欲しげに体を震わせた。
 足のつけ根をしつこくさすると背中が弓のように反らされる。


「焦らしちゃ……やです……っ」

「どうしてほしい?」

「ちゃんと、さわっ、て下さい……」


 熱っぽい息を吐きながら素直にねだるルヴァを見て、アリオスはごくっと喉を鳴らした。
 荒々しく衣を捲り上げ、下着を脱がせて触るとそこはもう熱く猛っている。


「すげーな。酒のせいか…。もうこんなに……」


 全体を揉みこむようにして撫でるとルヴァのつま先が反らされた。
 ルヴァ自身の先端を少し刺激しただけでアリオスの手は溢れる液体に濡らされる。
 あまりの感じように正直アリオスは驚いた。
 軽く上下に手を動かすと濡れた手から卑猥な音が立てられた。
 その音にルヴァは反応するかのように頬や目元に朱を昇らす。


「ぁ、あ……ぅっ。あぁっ、ひ……んっ」


 零される甘い声にアリオスの手はルヴァ自身を思いっきり愛する。
 優しく、そして強く。
 その動きに体を強ばらせ、歯を食いしばり、ルヴァはアリオスにしがみついている。


「ぁ、いっ、も……っ、だ……めッです……」


 そう言って動きを止めた体。
 背中に強く食い込んだ爪。
 指に絡みついた白濁。
 目を閉じて、荒い呼吸を繰り返しているルヴァ。
 唇の端についた唾液を色っぽく人さし指でぬぐっている。
 うっすらと開かれた濡れた瞳。
 しゅるりと衣擦れの音。
 ゆったりとした動きで開かれた膝にアリオスは息を飲んだ。


「アリオス……」


 誘っている。
 あのルヴァが・・・。
 清廉潔白で恥ずかしがりやで天然で頑ななルヴァが・・・。
 ごくっと喉を鳴らし、アリオスは開かれて晒されているそこを凝視した。


「や……見ないで……」


 恥ずかしそうに言い、それでもそこを閉じようとしないルヴァは潤んだ瞳でアリオスを促す。
 誘われるまま、アリオスはそこへ指をくぐらせた。
 たった一本入れただけでルヴァはぐにゃぐにゃと体を捩らせ甘く啼く。


「もう、いいですから……下さい」


 理性が弾け飛ぶような一言。
 アリオスは急かされるように身に纏っていたものを脱ぎ捨て、熱く猛った自身をルヴァの最奥へと押しつけた。


「あ……っ、ンっ、んあ、あっ」


 ず、ずずずず、と一気に力を込めて腰を押し進める。
 キツい。
 当たり前だ。
 いつものように十分に濡らして、ほどいてないのだから。
 しかし、ルヴァはさほど痛がっている様子も見せず、強くアリオスの首にしがみついている。


「動くぜ、ルヴァ?」


 一応断ってから腰を動かすとルヴァは身も世もなく喘いだ。
 その声の大きさに外にまで聞こえやしないかとアリオスの方がヒヤヒヤするほどだ。
 だけど、いつもの何十倍も愛らしい。


「……んぁっ、あ……っ、アリオス、もっと……っ、きもち……いっ、で、すぅ、あ、あ、んっ」


 ぽろ、ぽろぽろ、と目の端から涙がこぼれる。
 薄く開いた唇は、飲みきれなかった唾液に濡れて光っている。
 ぞくっと何かが背中を駆け抜けていく感覚にアリオスは震えた。
 焦点のあっていない潤んだ瞳にひどく興奮する。


「ぁ…っ、う、ふぅ…っ、ん、ア、リオ…ス……」



 首にからんだ腕に力がこもる。
 強く引き寄せられ、耳朶をねぶられ、荒い吐息と一緒に吹きかけられた言葉。


「アリ、オス…、私のこと、すき、で…すか?」


 濡れた瞳と声にどきっと心臓が大きく鳴った。


「好きに決まってンだろ」


 そう囁くとルヴァは本当に幸せそうな顔で笑った。
 こんな顔は、今まで一度も見たことがない。
 子供のように無邪気であどけない笑み。
 じん、と心にあたたかいものが広がり、それと同時にズキンと下腹部にクるものがあった。
 まったく体はどうしてこんなにも簡単にできているのだろう。
 アリオスは苦笑いを浮かべ、ルヴァに腹部を密着させる格好で律動を早めた。


「あ……っ、ぁあっ、や、はや……っ、だ、めぇ……っ」


 鼻にかかった甘い声。
 結合部が、きゅうっと縮まる。
 そのキツさにうめき声を上げ、アリオスはルヴァの中に白濁を放った。
 はーはーと息を吐きながら、ふと腹部を見るとそこはルヴァが出したものでべったりと濡れていた。
 ごぷんと内部から自身を引き抜く。
 ひくひくと閉じた瞼を余韻に震わせているルヴァにそっと口づけると彼の方から積極的に舌をからめてきた。
 酒の力と言うのは本当に素晴らしい。
 ぴちゃと音を立てて唇をはなした後、ルヴァは名残惜しそうな目でアリオスを見つめ、それから言った。


「私を……好きで、いて下さいね……」


 眠そうに、半分閉じかけられている潤んだ瞳。


「ルヴァ……」

「ここに…いなくなっても、ずっと、……で……」


 語尾をはっきりしない発音で言いながら、ルヴァは指を伸ばしてクイクイとアリオスの耳たぶを引っぱった。
 少し切なげな表情と声色で・・・。
 可愛い仕草と切ない表情にアリオスは愛おしくて仕方なくなる。


「ずっと好きでいるに決まってるだろ」

「本当ですかぁ……」

「お前が何処に行こうとも俺の気持ちは変わんねーよ。それにお前をにがしゃしねーよ」

「アリ、オス……」


 何でこんな事を言い出すのかは解っていた。
 そして、こんなに飲んでいたわけも・・・。
 きっと自分と離れることが怖くて、それをうち消したくて酒に頼ったのだろう。
 それでもきっとうち消すことが出来なくて、素直に身を委ね、言葉を欲したのだろう。
 そんなところが可愛くて、愛しい。


「不安になるな、ルヴァ。愛してる」


 そう告げて、想いを告げる唇をそのままルヴァのと重ねた。
 不安になる必要はない。
 だって、離す気も、離れる気もないのだから。
 それを伝えるために。
 

「ルヴァ?」

 
 唇を重ねたが、その先に進ませないように唇が閉ざされていることにアリオスは顔を上げる。
 名を呼びかけ、その顔を見ると唇も、目を閉じたまま、ぴくりとも動かないルヴァがいた。


「お、おい、ルヴァ?」

顔を近づけると、すやすやすやすや、規則正しい呼吸。
 眠ったのだ。
 安心して・・・。


「……まったく」


 仕方ねーなと呟いたその顔はどうしようもないくらいにゆるんでいた。
 あんなに可愛い姿を見れて、おまけにあんな可愛い言葉を聞けた。
 そして、求められたことが嬉しかった。
 言葉も、身体も、そして心も・・・。


「お前が不安になる必要なんか何処にもないんだぜ。ここにいなくなったって俺はお前のもとに行く。今までと変わらずに、な。俺はお前と同じじゃない。だからこそ、お前を愛せるんだ。この先もずっと……な」


 ゆっくりと優しくルヴァの髪を撫で、アリオスは囁く。
 そして、その後ぎゅっと抱き締めた。


「また誘ってくれよな、ルヴァ」


 おやすみ、と額にキスを落とすとそのままアリオスも目を閉じた。
 同じ夢を、未来を見るために・・・。





【END】




































第4弾