遙かなる時空の中で3 十六夜記
〜浄土〜


◆配役:♂11:♀2:計13名

春日望美(かすがのぞみ)♀:17才。白龍の神子(はくりゅうのみこ)に選ばれた女子高生。
CV:川上ともこ          怨霊を封印し、時空を越える力を持つ。
藤原泰衡(ふじわらのやすひら)♂:22才。平泉の軍を率いる冷徹な指揮官。
CV:鳥海浩輔             藤原秀衡の息子で、九郎の幼なじみ。
有川将臣(ありかわまさおみ)♂:21才。望美を守る八葉、天の青龍。
CV:三木眞一郎          望美の幼なじみで、譲の兄。
源九郎義経(みなもとのくろうよしつね)♂:22才。望美を守る八葉・地の青龍。
CV:関智一                   源氏の御曹司。
ヒノエ♂(ひのえ):17才。望美を守る八葉・天の朱雀。
CV:高橋直純   熊野水軍の一員。楽天家であり、頭のきれる青年。
武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)♂:25才。望美を守る八葉・地の朱雀。
CV:宮田幸季              九郎の親友。源氏の策士。
有川譲(ありかわゆずる)♂:16才。望美を守る八葉・天の白虎。
CV:中原茂          望美と幼なじみで、将臣の弟。望美を慕っている。
平敦盛(たいらのあつもり)♂:18才。望美を守る八葉・天の玄武。
CV:保志総一郎         平家でありながら源氏に着いた青年。
リズヴァーン♂:34才。望美を守る八葉・地の玄武。
CV:石田彰   望美と九郎の剣の師匠。鬼の一族の最後の生き残り。
梶原朔(かじわらさく)♀:18才。黒龍の神子に選ばれた女性。
CV:桑島法子       景時の妹で、望美の親友。
白龍(はくりゅう)♂:龍神ゆえに年齢なし。望美を神子に選んだ白い龍。
CV:置鮎龍太郎   純粋で、まっすぐな龍神。 
銀(しろがね)♂:24才。藤原泰衡の部下で、命令に忠実な青年。
CV:浜田賢二    実は平家の将の一人、平重衛(たいらのしげひら)。
藤原秀衡(ふじわらのひでひら)♂:63才。豪快かつ気前のいい平泉の当主。
                     泰衡の策略により、亡くなった。 
舎人(とねり)♂:30才くらい。泰衡に仕えている男性。
童女(わらわめ)♀:7才くらいの無邪気な女の子。
雑兵(ぞうひょう)♂:40さいくらい。秀衡に長く仕えていた男性。
武士(ぶし)♂:30才くらい。秀衡に仕えていた男性。

                                             
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望美♀:
泰衡♂:
銀♂:
将臣♂:
九郎♂:
ヒノエ♂:
弁慶♂:
譲♂:
敦盛♂:
リズ&舎人♂:
白龍&武士♂:
朔&童女♀:
秀衡&雑兵♂
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望美M:平泉にも春がやってきた。
     鎌倉との戦も終わり、やがて和議が結ばれることになった。
     熊野や後白河法皇も、和議のために動いてくれたようだ。
     泰衡さんはあれから忙しくなってしまったようで、会っていない。
     一度だけ、朔に教えてもらいながら手紙を送った。
     泰衡さんから返事はなかったけど、返事の代わりに、
     数日後に花が届いた。
     きっと手紙を運んだ銀が気を使ってくれたんだと思うけれど。


*****


望美:うーんっ…。いい天気だね。

将臣:もう、すっかり春だな。
    あの雪景色が、こんな風に変わるとは、想像できなかったぜ。

銀 :北の地の春のおとないは遅いものです。
   ですが、長らく待った末の春はどこよりも美しいものと存じます。

望美:うん、そうだねえ。日差しも暖かいし、風も気持ちいいし…。

ヒノエ:眠くなってきたかい?
    まぶたを落とすなら、オレの膝の上にしなよ。

望美:もう、ヒノエくんってたら、こんな時にまで…。

弁慶:こんな時、だからですよ。
    鎌倉との和議が成り、ようやく争いのない春が奥州に来たんです。

ヒノエ:今を楽しまなきゃ、いつ楽しむっていうのさ。

望美:あはは、それもそうだね。

リズ:青陽(せいよう) 二三月(にさんがつ)、
   柳青くして桃復(ま)た紅なり
   山野(さんや)に遊ぶには最もよい時節だ。
   今はこの春を満喫しなさい。

望美:はいっ、先生。

敦盛:この地は、人も自然も暖かいのだな。
    私達のような行く当てのない者をおおらかに包んでくれた。

九郎:ああ。昔っから、そうだった。
    だからこそ、これからは俺達がこの地のために尽くしたいと思う。
    まあ、今日のところは構わないけどな。先生のお許しも出たんだ。

望美:ふあぁぁ…。すごく気持ちいいな。
    こんなに気持ちいいと、帰るのが辛くなっちゃうよ。

朔 :えっ……望美。あなた……。

望美:うん。そろそろ元の世界に帰ろうと思うんだ。
    白龍も力を取り戻したみたいだし。

白龍:そうだね…。神子が龍脈を正してくれたから。  
今なら、神子達を元の世界へ帰すための道を開けるよ。

望美:やっぱりね。

譲 :…そうか、よかったな。白龍。

白龍:うん、ありがとう。譲と将臣も神子と一緒に帰るんだよね。

将臣:ま、そうだろうな。
    平家の奴らは、南で平和にやってるみたいだし、大丈夫だろ。

白龍:…譲は?京に来た時から、帰りたがっていたよね。

譲 :…それは、そうなんだ。だけど、あまりに急な話で、戸惑っているっていうか…。
   いざ、帰るとなると……さびしい…っていうか…。

望美:うん、そうだね…。

ヒノエ:だったらさ、帰らなきゃいいじゃん?

朔 :そうよ、別に今すぐに帰らなくてはならないわけでもないのでしょう。

望美:それは、そうなんだけどね…。
    鎌倉と和議が出来た今を逃すと、いつまでも残っちゃいそうだから。

銀 :神子様が望まれるなら、いつまでいてくださってもかまいません。

敦盛:こんなことを言っては、いけないのかも、しれないが…。
    私も、神子がこの世界に残ってくれるなら…嬉しく思う。

リズ:皆の気持ちはわかる。だが、神子の選択を惑わせてはいけない。

弁慶:…君と別れるのは、本当に悲しいことです。けれど……。
    神子として成すべきことを成した君を、引き止める理由にはなりませんね。

将臣:行くか残るか、お前が決めればいいさ。どうする?

望美:うん……。みんなとの別れは、悲しいけれど…。
    やっぱり、帰るよ。私の生まれた私の世界へ。だけど……。
    みんな、大好きだよ。

白龍:うん、私も神子が好き、大好きだ。
    どんなに離れても、時空を隔てても、私の気持ちは変わらないよ。

ヒノエ:最後まで素直じゃないね。「みんな」っていうのは、照れ隠しかい?
    でも、そんな笑顔を見せられたら、許すしかないかな。

銀 :ヒノエ様。たとえ、あなたでも…。
   神子様のお心を、独り占めなさらないでください。
   神子様はここにいる、皆の憧れなのですから。

望美:も、もうっ…。三人とも、最後まで恥ずかしいんだから…。

将臣:で、お前はどうなんだ?譲。

譲 :わかってるさ。…帰らないわけには、いかないってこと。
   ただ、ちょっと……。
   兄さんみたいに、気持ちの切り替えが早くできないだけで。

将臣:お前、こういうのはホント不器用だからな。

譲 :でも…帰るよ。名残惜しくたって…。

将臣:望美。譲の説得、終わったぜ。こいつも一緒だ。

譲 :…ええ、俺も帰ります。

望美:じゃあ、決まりだね。


*****


望美M:…それから、数日後。
     私達が元の世界へ帰るための時空の狭間への道を、
     無量光院に開くことにした。


*****


〜回想〜

九郎:本当に、来る気はないのか?
    今日を逃せば、もう二度と会えないのだぞ。

泰衡:見送りには銀を遣わしている。俺が行く暇はないからな。

九郎:見送れる時間ぐらい作れるだろう。

泰衡:しつこい。
    …神子殿は、俺が見送りに来るとは思っていないだろう。
    わざわざ見送るほど、深い仲でもないからな。俺は八葉ではない。
    わかったら、仕事の邪魔をしないでもらえるか。

九郎:……っ!お前という奴は……。
    …………無量光院だ。

泰衡:……?

九郎:お前の馬鹿さ加減には、つきあいきれん!気が変わったら来い。

泰衡:フ……馬鹿、か。




〜無量光院〜

譲 :こんな何もないところに、時空の狭間への道を開くのか?

白龍:そうだよ。誰も巻き込まないためには、広い場所が都合いい。

将臣:学校の渡り廊下じゃ、俺達を巻きこんじまったもんな。

白龍:あの時は…、ごめんなさい。

将臣:いいって。もう済んじまったことだからな。

譲 :兄さん……。今更白龍をいじめるなよ。

朔 :本当に…もう、帰るのね。

望美:うん。…元気でね、朔。

ヒノエ:姫君が帰るんだったら、和議なんか手伝うんじゃなかったね。

望美:そんなこと、言わないでよ。

敦盛:ヒノエ、今日は神子を笑って送り出すと、決めただろう。
    神子がこの世界のためにしてくれたことを考えれば……。

ヒノエ:今度はオレ達が神子のために…か。わかってるよ。

敦盛:神子、本当に今まで……ありがとう。

弁慶:ふふっ、僕が用意してきた言葉は、敦盛くんに先に言われてしまいましたね。
    では……どうか、僕達のことを時々でいいから、思い出して下さい。
    君が僕達を思い出す時、きっと僕達も、君を思っているから。

リズ:元の世界へ帰っても、風邪などひかぬように。
    いつまでも、八葉はお前の息災と幸せを願っている。
    将臣、譲。神子のこと、頼む。

将臣&(譲):ま、適当にな…。(はい。……必ず。)

譲 :兄さん、こんな時に何言ってるんだよ。

将臣:悪い、悪い。
    どうも、堅苦しい別れってのは苦手なんだよ。

譲 :けど、これで最後…なのに……。

白龍:譲、いいんだ。
    将臣もこの世界を別れ難く思っている。だから、苦手。そうだよね。

将臣:それなりに…な。

九郎:……来ないな。

望美:九郎さん、誰か待ってるの?




〜伽羅御所〜

泰衡:………………。

舎人:泰衡様、どちらへ参られます?

泰衡:どこということもない。夕刻には戻る。




〜道〜

雑兵:(来たか……。)

武士:(来た。あれが藤原泰衡だ。)

泰衡:春……か。知らぬうちに雪もすっかり溶けていたのだな。

童女:た〜んぽぽ、なずな、ほとけのざ〜♪

泰衡:ん……。

童女:おにいちゃんにもあげようか?
    えへへっ、いっぱいつんだんだよ。

泰衡:ああ……、花か。

童女:きれいでしょ。あっちにもっとあるんだ。
    もっと持ってきてあげるね!

雑兵:(馬から下りたぞ!今だ!)

武士:御館(みたち)の仇!お覚悟!!

泰衡:く……うっ……。伽羅御所…の者……か。

雑兵:あ、あ…あなたが…。あなたが悪いのだ!
    お、己の私欲のために…御館を……。

武士:御父君を亡き者にされるとは…っ!
    わ、我ら長年御館のご恩に預かった者。
    かかる非道を見逃すわけには参らんっ!

泰衡:フ……そうかもしれんな。思ったよりは…遅かったくらいだ。
    鎌倉との…和議を待ってくれたのならば…感謝すべきか…?

雑兵:も、もう、もうよかろう。誰ぞ来るっ。

泰衡:(……こんなものか……。いや、上出来のうち…と言ってもいいか…。
     九郎……この北の大地は、きっと…お前の居場所になるだろう。
     お前はきっと、この地を守り抜くのだろう。
     ……御館の期待を…お前ならば、裏切るまい……。)


秀衡K:小次郎、この平泉こそが浄土と言われる町をわしは作るぞ。
     お前は御曹司とともに、浄土のごとき平泉を守っていくのじゃ。


泰衡:父…上……。浄土など……私には……ゆけるはずも……。
    …………………。

童女:ほらっ、いっぱい咲いてたよ。おにいちゃん!
    あれ?おにいちゃん、どうしたの?寝ちゃったの?




〜無量光院〜

九郎:…………いや、来ないのかもしれん。気にしないでくれ。

望美:もしかして…泰衡さん?

九郎:ああ、この場所のことだけは伝えてきたから。もしやと、思ったが…。

望美:………………来ないね。

望美:(このまま、仲良くなることもできないで、さよならなのかな。)

朔 :望美をこんなに心配させるなんて許せないわ。
   きつく言っておかないと、必ず!!

望美:さ、朔っ、いいって。
    泰衡さん、忙しい人だから、来られなくてもしかたないよ。

朔 :わかっているわ。ちょっと、言ってみただけよ。
   でも、あなたを心配させたことが許せないのは、本当よ。

望美:もうっ!朔ったら。

朔 :だって…最後は、笑顔で見送りたかったから。
   淋しくなるけど…元気でね。

望美:うん、朔も…元気で。
    …そろそろ、行くね。

白龍:神子、もういいの?時空の狭間への道を開くよ。

望美:うん。お願い、白龍。

白龍:わかった。みんな、下がって…。

望美:(もうすぐ…この世界を、本当に離れる……。みんなとも…。)

望美:みんな、さようなら。元気でね!!
    みんなのこと、きっと、ずっと…忘れないよ。