■ 欲望 ■
貴方に逢いたい・・・。
逢いたいと思うのです。
でも、そこには私の知らない貴方がいるような気がして・・・。
逃げ出したくなるんです。
涙が零れるんです。
貴方に抱きしめて欲しくなるんです。
この想いを何と呼べばいいんでしょうか?
カティス・・・
*・*・*・*・*
夜が明ければ、朝は必ずやってくるもの。
その繰り返しを世界は永遠に続ける。
例外なく、聖地にもそれはあった。
夜が明ければ、朝がやってきていた。
けれど、ルヴァだけには朝はやってこなくなっていた。
愛する者を失う予兆を感じ始めてから・・・。
自ら自分の時を止めてしまっていたのだった。
閉めきった部屋の中でただ自分の心を抱きしめるルヴァ。
瞳からは止めどもなく、真珠のような涙が零れ落ちていた。
悲しみと不安がルヴァを押しつぶし、そして時を止まらせていた。
分かっていたことだった。
いつかは永遠の別れがやってくることを。
自分たちの運命を受け入れたときから・・・。
それでも、その別れを受け入れることが出来ない自分がいることにルヴァは戸惑い、そして困惑していた。
「お前には一番最初に知って欲しい・・・」
カティスは数日前、ルヴァにそう話を切りだした。
いつになく曇った笑みを浮かべながら・・・。
ルヴァはその笑みを見て、まさか・・・と思った。
そのまさかが事実であることをその後、強く抱きしめてきたカティスから知らされた。
耳元で囁かれた言葉がルヴァの胸をいたいほど締め付けた。
カティスは弱音は吐かなかった。
「ここを去ってもお前を愛しているよ」
そう言って、笑った。
でも、その笑みにはいつもの明るさがなかった。
その笑みを見てしまってからルヴァはカティスを思う故に時を止めてしまった。
何が変わるわけではないというのに・・・。
愛が覚めたわけではない。
むしろ膨らむ一方だった。
逢いたいという気持ちが膨らめば膨らむほど逢うのが怖かった。
徐々に自分とは違う世界の人になっていくカティスを見るのが辛かったから。
自分の知らない人がいるような気がしたから・・・。
自分の時を止め、ルヴァは現実から逃げ出そうとする。
幸せなままでいたかったから。
そんなルヴァの胸にある欲望が膨らんでいく。
すべてを忘れさせてくれるほど強く抱きしめて欲しい…
あの事は嘘だといって欲しい…
・・・だった・・・。
しかし、それをカティスに伝えられなかった。
涙を零すだけで何も出来なかった。
身体と心が別々のものになってしまっていたから…。
「ルヴァ」
そんなルヴァの許に全てを終わらせてきたカティスがやってきた。
もう聖地を去るだけというところまで身の上を整理してきていた。
それはカティスがルヴァを想う故にとったものだった。
ルヴァのいる部屋のドアを優しくノックし、愛しい名を呼んで自分が来ていることを知らせた。
「いるんだろ?」
「……」
カティスの問いにルヴァは返事を返さなかった。
聞こえてないわけではなかった。
ただ、それが現実か、そうでないかが分からなくなっていたのだった。
これがもし夢だったら怖くて返事を返せなかったのだった。
そんなルヴァにカティスは笑みを零す。
何とも言えない愛しさに。
その笑みを浮かべながら、閉ざされたドア越しに語り始めた。
「俺はいつでもお前のそばにいる。だから、お前はいつでも俺の側にいてくれないか、ルヴァ?」
ルヴァがどんな想いを抱いているのかをカティスは知っていた。
だからこそ、ルヴァを苦しめないようにドア越しに声をかけたのだった。
「永遠に想いは一緒だとそういって笑ってくれないか?」
そう言ってカティスは優しく微笑んだ。
徐々に染みてくるカティスの言葉にルヴァは止めていた時を動かし、そしてドアの前へと歩み寄った。
「カティス・・・私は・・・」
愛しい者の名を口にしながらルヴァは閉じていたドアをゆっくりと開けた。
そして、そこには優しく微笑むカティスがいた。
「貴方のことが・・・」
そう言ってルヴァはカティスの胸の中に飛び込んでいった。
そんなルヴァをカティスは強く抱きしめた。
ルヴァの不安を全て消すかのように・・・。
欲望を埋めるかのように・・・。
「いつまでも俺達は一緒だ・・・」
その言葉にルヴァはカティスの胸に顔を埋めながら強く頷き返した。
「いつまでも私たちは一緒ですよね・・・カティス・・・」
「あぁ、いつまでも一緒さ」
涙で潤んだ瞳で美しく微笑むルヴァ。
そんなルヴァにカティスは強く肯定の言葉を返し、そしてそっと唇を重ね合わせた。
それが二人が立てた誓いとなった。
その夜、2人は想いを重ね、誓いを永遠のものへとしていった・・・。
幸せという名の永遠に・・・。
<FIN>