BOARDING
真っ白な雪が降り続く静かな夜。
そんな夜をルヴァは宿屋の一室で過ごしていた。
その日は珍しく一人ずつの部屋が与えられ、久々に思い思いの時間を過ごしていた。
それは追いつめられていた肉体と精神に大きな安らぎをもたらすものとなった。
現在宇宙は侵略者によって危機に追いつめられていた。
宇宙の女王さえも人質に取られている状態だった。
それを救うために新宇宙の女王と守護聖、教官協力者は旅を続けていた。
大勢での旅でにぎやかな夜を過ごしていたが、今夜はとても静かだった。
そんな夜をベットの縁に腰をかけ、窓の外を見つめながらルヴァは今までのことを振り返っていた。
少し物寂しそうに微笑みながら。
そんなルヴァのもとに唐突にオスカーがやってきた。
「まだ起きてたのか、ルヴァ」
「オスカー?!」
当たり前のように部屋に入ってきたオスカーの不意な声にルヴァは驚いて振り返る。
そんなルヴァにオスカーは笑みを浮かべると靴音をならしながら近づいていった。
「俺を待っていてくれたのか、ルヴァ?」
アイスブルーの瞳でルヴァを熱く見つめ、とろけるような声でそう囁くとルヴァの隣に腰をかけた。
そんなオスカーにルヴァははにかんだ笑顔を見せる。
「そう言って欲しいですか、オスカー?」
「くっ、ルヴァにはかなわねーな」
微笑みを浮かべ、そう言うルヴァに髪を掻き上げながらオスカーは笑い返した。
二人の間にいいムードが漂い始める。
その空気にオスカーは一層ルヴァの側に近づく。
「二人きりになったのは久しぶりだよな。いつも誰かと一緒だったからな」
「そうですね・・・そういえば」
宇宙を救う旅が始まってからずっと団体で泊まることが多かった。
だから、二人きりになることが出来なかった。
必然的に生まれた二人の恋。
互いにないものを求め合うかのように想いは生まれ、愛へと変わっていった。
そして、相思相愛となっていった。
しかし、その恋に誰も気づくことはなかった。
二人だけの秘密していたから。
それが幸せに繋がっていたからでもあった。
しかし、秘密にしておくのも辛いときがあった。
それは二人きりでいれる時間がないときだった。
状況が状況であるのに関わらず二人きりを望むのは不謹慎だと思っていたが、やはりチャンスが巡ってきたなら逃したくないオスカーだった。
いくら仲間とはいえ、ルヴァを自分以外と寝泊まりすることにずっと嫉妬してきた。
ルヴァには決して悟らせはしなかったが、その感情はオスカーをずっと苦しんできた。
でも、今だけはその感情を感じずにいられることにオスカーは久々に笑顔を見せられた。
ルヴァにだけ向ける笑みを・・・。
「このときが来るのをずっと待っていたんだぜ。その瞳を独占出来るのをな」
笑顔を見せ、グレーの瞳を射抜いた瞬間、そう言うとオスカーはルヴァに覆い被さった。
そして、柔らかな唇に口づけた。
唐突な事にルヴァは驚いたが、オスカーの温もりに瞳を閉じ、ベットに身を預けた。
二人の重さにベットがきしむ。
そんな音を気にもとめずに、オスカーは今までを取り返すかのように熱く、深くルヴァに口付けた。
「・・・んっ・・・」
ルヴァの唇からオスカーから注がれる熱さによって甘い吐息が漏れる。
その声にオスカーは目眩を感じながらも深く深く口付けた。
自分の愛を注ぐように・・・。
口づけは長い時間交わされた。
静まりかえっている部屋には二人の息づかいだけが響いた。
いつまでも慣れることのないルヴァが先に唇を外すことで口づけは終わった。
荒い息を吐くルヴァにオスカーは苦く笑った。
でも、そんなルヴァだから愛しいと思う。
その想いがオスカーを次の行動に移させる。
「ルヴァ・・・」
長い口づけを交わしたその唇でその名をオスカーは熱くて甘い声で囁くと華奢な身体をぎゅっと抱き締めた。
そんなオスカーにまだ息の整わないルヴァは微笑みを返す。
「ずっとこうしたかった・・・・この腕に抱き締めたかった・・・」
ルヴァの微笑みにオスカーは顔をほころばせながら囁く。
そして、一層抱き締める力を込めた。
伝わってくる体温に心が癒される。
この旅をしている間に生まれた様々な葛藤で痛んでいた心が・・・。
心が痛むのも、癒されるのもルヴァだからなのだろう。
自分にとって特別な人だから・・・とそう感じていた。
だからこそかもしれない。
本心がぽろっと零れてしまうのは。
次の瞬間にそれは零れた。
「こんな状況においても俺はお前のことばかり考えていた。不謹慎かもしれないけどこうすることを望んでいた。そして、その先も・・・な」
「オスカー!?」
からかうような口調で本心を零すとオスカーは唇に軽く口付けた。
そんなオスカーにさっきされた口づけは平気だったはずのルヴァが真っ赤になった。
そんなルヴァは愛しいと感じずにはいられなくなるオスカー。
自分より年上なのにそう感じさせない純粋で無垢なところがたまらなく愛しかった。
だからこそ、本心を口にする。
「愛してるからしたいんだ。俺がそう望むのはお前だけだから。心も身体も欲するのは・・・な」
優しく微笑みながら囁き、そしてルヴァの柔らかな髪に触れた。
自分だけに向けられるオスカーの優しさにルヴァは瞳を細める。
そして、ルヴァの方からオスカーを抱き締め返した。
「言わなくても分かっていますよ、オスカー。私もあなたを愛してますから」
「ルヴァ・・・」
「ふふふっ」
ルヴァの口から欲しい言葉が返ってくる。
最も欲しい言葉が・・・。
細い腕がその言葉を肯定する。
最上の幸せをオスカーは感じていた。
その幸せを噛みしめるかのようにオスカーは抱き締められたまま、ベットに横たわり、ルヴァと顔を見合わせた。
「今夜はこのままでいさせてくれ・・・・な?」
「はい・・・オスカー・・・」
オスカーの囁きにルヴァはにっこり笑って返事を返した。
幸せを噛みしめたような笑みを。
そんなルヴァをぎゅっと優しく抱き締め、オスカーはアイスブルーの瞳を閉じた。
しばらくしてオスカーが小さな寝息を立て始めた。
その寝息にルヴァは穏やかな表情を見せる。
そして、オスカーの瞼にそっと唇を寄せた。
それは小さな魔法。
オスカーにだけかけられるルヴァだけが出来る魔法だった。
その魔法をかけた後、ルヴァはそっと囁く。
「どうかいつまでもそばにいさせてくださいね・・・・ずっと・・・」
そう囁いてルヴァはオスカーと同じく、瞳を閉じていった。
そして、寝息が二つへと増えていった。
外ではまだやむことを知らない雪が舞っていた。
銀世界が覆う宿で二人は互いの温もりを感じながら同じ夢を見始める。
今の状況を乗り越えられる力を生み出すかのように・・・。
二人の想いが未来へと繋がるように・・・と。
■ FIN ■