運命的な恋をした。
そして、当たり前のように結ばれた。
心はもちろん、身体も・・・
■ 卑怯 ■
ぽっかりと浮かぶ月の綺麗な夜。
その闇の中、ある屋敷の寝室に二つの影が月明かりに照らされていた。
白いシーツの上に銀と青緑の影が重なっていた。
「ルヴァ……」
白い肌に薄らと滲む汗。
頼りなく縋ってくる腕と、飛びそうになる意識に反射的に背に立てられる爪。
突き出た喉仏が快楽に仰け反り、震える。
縋るような、それでいて何かを強請るような、涙で潤んだ瞳で見上げられる。
その瞬間が堪らない。
そう思ってはもっと捩って、攻め立てて、啼かせてみたくなる。
「ん…んっ…ゃ、あッ…ア……リオス……」
ギシッ、とベッドが激しく揺れ動く音を立てて悲鳴を上げる。
ベッドの上のルヴァはアリオスの与える愛撫に震え、時折涙を啜るような悲鳴を上げながらアリオスを受け入れている。
そんなルヴァを見下ろすように覆い被さりながら、アリオスは既にルヴァの最奥まで貪るように穿ち、それでも愛し足りないとでも言いたげに何度もルヴァの内部を突き動かしていた。
「…感じるのか?ルヴァ…」
「…ん、ッ…んん…!」
耳元でいっそ卑猥なほどの口調で訊ねてやれば、ルヴァは羞恥に顔を赤らめて目を閉じ、顔を横に逸らす。
アリオスはこんな時のルヴァも好きだった。
心を和ます微笑みを浮かべるその姿はもちろんのこと・・・。
いつもと違う。
誰にも見せたことのないルヴァを見るのがこの上なく優越感に浸らせて好きだった。
「…答えろよ、ルヴァ…」
「…ッ!…や…、…ぃやッ……」
耳元で息を吹き掛けるように囁くとルヴァは嫌がる子供のように何度も小さく首を横に振って力の入らない腕でアリオスの肩を掴み、その体を押し返そうとする。
その無駄な抵抗が愛しくて、アリオスは幾らか上がって速くなった呼吸をしながら口元を楽しそうに歪め、ルヴァのさらっとした髪に指を通し、露になった額に口付けた。
「ルヴァのナカこんなに潤んで熱くて気持ち良いのに……お前は気持ち良くねーのか?」
言葉を並べながら、見せ付けるようにアリオスが大きくルヴァの体を揺さ振る。
その律動にルヴァは生理的な涙を零す。
「やっ…ぁあッ…!!」
揺す振られた体に、ルヴァがヒクッとしゃくるように息を飲みながら短く叫ぶ。
荒く熱っぽい息を孕みながら上げられるルヴァの嬌声が耳に心地良く、アリオスはどこかうっとりとした表情でその声を楽しんでいた。
ふとした時に垣間見せる表情や声や仕草…それらの全てが。
愛しい。
そう思わせる。
この世にこれ以上愛しいものがないと・・・。
「気持ち良いか?俺とのセックスに感じてるのか?」
「やっ……や、だ…ぁ……いッ…」
言えない、と弱々しく首を横に振るルヴァに意地悪く囁く。
頬に伝う涙に唇を寄せて、そっと舐める。
優しい仕草を見せながらも言葉はルヴァを攻めるような表情を見せる。
「言わねーとイカせねーよ?」
どうする?と、再び問いながらアリオスは限界に打ち震えるルヴァの根元をグッと握り込んだまままた甚振る程の勢いでその体を貪る。
「あっあ、も……ッひ…ど、…ッは…ぁあ、あッ!!」
愛しい男の意地の悪い要求にルヴァは目をきつく閉じてアリオスの思う侭に弄ばれる体に快楽と限界に耐える辛さの狭間で揺らされている。
「素直に言えよ…ルヴァ…」
答えを促すように名前を呼んだアリオスの顔をルヴァは震える手で引き寄せ、その唇に自ら小さく口付けた。
これが答えですとそう言わんばかりのキスは、僅かな熱を持ってアリオスの唇に触れる。
「……も…っ…お、願……い…アリ…オ、ス…」
―――――イカせて下さい、と。
ルヴァの唇と目が確かにそう訴えたのを認めたアリオスはどこか眩暈にも似た感覚を覚える。
声も、目も、体全部も、全てが愛しい人。
好きで、大事で堪らないものがこんな風に時折見せる愛情を目一杯に含ませた眼差しで強請るこの瞬間がアリオスには狂おしいほどに愛しかった。
「ひ、ぁっ!…あ、あぁ…やッ…は、ああッ!!」
「……ホント…卑怯だな、お前は……」
いつも折れるのは自分の方。
ルヴァに弱い自分。
堪らなく可愛い言葉と顔をチラつかせて、いつもこっちが欲しがる言葉をはぐらかすのは卑怯だと思う。
惚れた弱みということは解ってはいるけど。
それでも自分を求める言葉が欲しかった。
こんな時だからこそ余計に・・・。
「…でも、やっぱり堪んねーよ…」
それでもこうして自分の下で惜しみなく声を上げて、縋って全身で受け入れてくれているルヴァがアリオスには愛しすぎて仕方なかった。
その全てが・・・。
「…ア、リオス……や、っ…も、ダ…メ…です!!」
限界を知らせるようにルヴァがアリオスの背に腕を回し、ぎゅっと力強くしがみ付いてくる。
それを抱き返してやりながら、アリオスはルヴァの耳朶に優しく口付け、その耳元に囁いた。
「俺も……もう限界だ……」
いつからこんなに自分がなったんだろう。
そう思いながら出した言葉はそれでもどこか嬉しそうだった。
脳裏にはルヴァと出会った日の事が思い出されていた。
「愛してる」
愛情をたっぷりと乗せた言葉と一層強く打ちつけられた腰にルヴァがビクンと体を震わせたのと同時にアリオスもその中に全てを放埒した。
情交の後、ぐったりと力尽きたルヴァを見るのもアリオスは好きだった。
心が満たされた気持ちになる。
抱き締めるとその気持ちが一層強くなる。
アリオスはルヴァを優しい眼差しで見つめ、額にかかる髪をほっそりとした指で撫でた。
その優しい仕草にルヴァは愛しさを感じて微笑みを浮かべる。
「……アリオス」
「愛してるよ、ルヴァ…」
「…えぇ、私もですよ……」
互いに感じている想いを言葉にすると噛みしめるかのように抱き締めあった。
そして、微笑みを会わせた後、唇にキスをした。
その言葉が、気持ちが本物だと言うように深く深く、そして長く・・・。
その唇が離れた時、ルヴァは熱い息を吐きながら目を閉じていった。
穏やかな表情を浮かべながら寝息を立てていった。
そんな顔を見て、アリオスは笑みを零す。
「本当…お前って……卑怯だな…」
徐々に闇が薄れていく。
それを感じながらアリオスはルヴァを愛しげに抱き締める。
そして、その後自信たっぷりな笑みを浮かべて安らかに眠るルヴァに囁いた。
「いつか言わせてやるよ…俺が欲しい言葉を……必ず」
と。
< END >