chapter-01  男。   .

chapter-02  亀。   .

chapter-03  夫婦。 .





意気な少年はみかんを食べていた。
その少年はみかんの中に種を発見し、地面に捨てた。
その種は、結局、芽を出すことなく、
ただその地に乾いていった...

その半年後、ある若さが足りない男がそこへ歩いてきて、
たまたまその種を踏んだ。  もちろん、
その男は種を踏んだことなど、まったく気付いていない...

「はぁ... はぁ...」

その男は歩き続けていた。ただ黙々と、ただ延々と...
それはあたかも、ひたすら歩き続ける人が如く...
その姿には、かなり疲労の様子がうかがえていた。
男は突然立ち止まり、その場にがっくりと膝をついた。

「はぁ... はぁ...」

そしてゆっくりと後ろを、目を細めて眺めた(視力0.3)。
その方向とはすなわち、自分が今まで歩いてきた方向に他ならない。
その視線の遙か彼方には、
小さくおぼろげながら揺らめく山があった。

「はぁ... はぁ... もうあの山を出て三日にもなるってのに、
全然街が見えてこないなんて... いったいどうなってんだ...?」

事のいきさつはこうである。

−−−−−−−−イキサツココカラ−−−−−−−−
ある男が山を出発して、徒歩で街に向かっているのである。
歩き続けて疲れているのだが、なにしろ全然街に着かないのである。
−−−−−−−−イキサツココマデ−−−−−−−−


結局、男はそれから一週間歩き続けた。
しかしいっこうに街にはたどり着けなかった。

「くそっ、もうダメだ...」

男はがくっと膝をついた...
と、その時である。
男は前方にぽっかりと空いた穴を発見した。

「何だ、あのセコい穴は...」

近寄ってみると、人が一人ちょうど入れるぐらいの穴である。
そんな穴を見つけたら入ってみたくなるのが人の心理だ。
男はおそるおそるその穴に入った。
深さはちょうど、その男の背丈ぐらいだった。
それはまるで、その男のために存在するかのような穴だったのである!

幾ばくの時が流れた・・・

「さぁ、出ようか。」

男はその穴から出て、再び歩き始めた。
それからまた一週間、彼は歩き続けたのである。
男の疲労は極限に達し、もうそれ以上歩く気力を失っていた。
そして、山を出てから17日目の朝、男はとうとう倒れてしまった。
起きあがる気力も体力も到底存在せず、男はそこに倒れていた。
そこを通りかかる者は誰もいなかった。
薄れゆく意識の中で、男は考えていた。

「いつも大滝秀次が死んだと錯覚してしまうのは、
 彼が、”北の国から”で死んだ役を演じたからだ。
 だけど彼は生きている、彼はまだ生きているんだ!!」

そして男は息絶えた...
男の躯を風邪が吹きさらし、日がじりじりと照りつけ、
雨がしとしととうち、ぬらした。

まことに気の毒な話であった・・・
しかし、男がたどり着こうとしたその街は本当に存在したのであろうか。
と言うか、出発したという最初の山すらも、怪しい話である...

  //完//




この話を孫に読んで聞かせたあと、じいさまはふぅーっと深くため息をつき、
そしてゆっくりと話し始めた。

「世の中にはなぁ、努力しても何もむくわれんことがあるんじゃ。
 そしてなぁ、せっかく読んでも何のためにもならん文章もある。
 今の話がそうじゃ・・・」

孫はみかんを食べながら、

(そんなもんなのかなぁ。)

と思った。



大滝秀次氏は2012年10月2日に亡くなられました。  R.I.P.




風吹きすさぶ夕暮れ時。
あるバカ女子高生が下校途中、歩いていると、
大きめの石をふんずけてしまい、足がガクンとなった。
「っていうか、チョー運悪いって感じ。」
どこにでもある、ごく日常的な風景...。
しかし、そこに一つだけ、非日常的なことがあった。
バカ女子高生が踏んだモノは、石ではなく、亀だったのである。

「いでで、また誰か踏んでいきやがったのにぃ。しつれいなのにぃ。」

その亀はとてものどが渇いていた。
手持ちのお金はジャスト20円。

「あと100円、あと100円さえあれば、ジュースが買えるのにぃ。
 そしてそれを、がぶがぶ飲めるのにぃ...。」

という、かなり図々しい願いを持っていたことは確かである。
するとどうだろう、亀の前方にあまりにジャストなタイミングで
100円玉が落ちているではないか!!

「おおー、ラッキーなのにぃ!」

亀と100円玉との距離、おおよそ20メートル、その間、障害物なし。
亀は100円玉に向かって最短距離となるようなコースをとり、歩き始めた。
つまり、直線ルートである。
一生懸命歩いて、その距離がようやく5メートルにまで縮まった。

「あともう少しなのにぃ、がんばるのにぃ!」

ここで我々が頭に入れておくべき事は、
亀というモノは一般的に、動作が遅いという事実である。
そして、この恐るべき事実は、あまりに無情な悲劇をもたらした...。

突如後ろから走ってきたハナタレガキが、先にその100円を拾ってしまったのだ。

「100円だ、ラッキー。 ゲーセンでもいこーっと。」

くやしがる亀。

「くそーーーー、もうちょっとだったのにぃ。ゆるせないのにぃー。
 ぼくちんが、ぼくちんがこんなにのどが渇いているというのにぃーー、
 あのこわぁ、あのこわ、あの100えんを、ゲーセンでつかってしまうのにぃーーー!!」

そこで亀は気を取り直し、極めて紳士的な態度でそのハナタレガキに話しかけた。

「ときに少年、わたくし、亀というまことにつまらぬモノでございます。
 わたくし、ただいまとてものどが渇いているのでございます。
 よろしかったら、よろしかったらでいいのですが、その100円を、
 わたくしめに恵んではいただけないでしょうか。」

ハナタレガキは亀の方を見て言った。

「うるせえ、このクソガメ! あっちいけ!
 つっても、トレェからあっちいくにも時間かかるな、ぎゃはは!」

(むっかぁ〜、下手にでりゃいい気になりやがって、このガキャア、
 ぜったい殺すっ!!!)
        

「フォーメーション、ワン!!」

亀は高々とジャンプし、手、足、頭、しっぽを引っ込め、
ハナタレガキに向かって猛烈な勢いでブッ飛んだ!!

「カメニッシュアターック・スペシャルゥゥウウアアアアーーーー!!!」

ドッカァァアアーーーーーーーン!!!!

「ぐおっへぇぇええーーーーっ!! うぎゃぁぁああーーーー!!!!」

ハナタレガキの腹にカザアナが開いた。

「フォーメーション、ツー!!」

亀の甲羅がアンテナとなり激烈な電波を放射した!!

「ハイパーカメニッシュ・ビームゥゥウウアアアウオリャアアアーーーー!!!」

ズビビビビビィィーーーーーーー!!!!

「おぎゃあああああーーーーっ!! からだがぁ、カラダがああああーー!!!!」

ハナタレガキは激しく痙攣しその場にどさっと倒れた。
全身黒こげ状態。

「フォーメーション、スリー!!」

亀の甲羅の縁から無数の刃が出た!
シャキィーン!!
そして亀のカラダが高速で回転した!!

「とどめだぁぁああーーー!! ファイナル・カメニッシュ・デスラッシャァァアアーーーー!!!」

ぶぶぶぉぉおおおーーーーーーーん!!!!
ザークザクザクザクザクゥーーーーーーー!!!!

「ほぉぉーーぎゃぁぁぁぁあああああああーーーーーーーーーーー!!!!!!」

ハナタレガキ、からだ、まっぷたつ。   死亡。



「ぜえ、ぜえ、くそっ、またやっちまった...
 このガキがイケねぇんだ、俺が下手に出てんのにぃ、出てんのにぃ....」

そして亀は何もなかったかのように100円玉を拾い、自販に向かった。
自販の前には怖いにぃちゃんが3人立っていた。

「おい、そこのカメ! その100円よこせや!!」

「いやなのにぃ。 この100円は、苦労して手に入れたのにぃ。
 絶対やらないのにぃ!」

「なんだと? 上等じゃねえか、このクソガメ!!」

先ほどの三つの技で持てる力の殆どを使ってしまった亀は、
3人の怖いにぃちゃんにボカスカにやられ、
100円玉を奪われた後、全身に灯油をかけられ、火をつけられながら、
マンホールの中に捨てられてしまった・・・・・。

  //完//




この話を孫に読んで聞かせたあと、
じいさまはふぅーっと静かにため息をつき、
そして話し始めた。

「どうじゃった。」

孫は言った。

「グロかった、でもとってもためになったよ、おじいちゃん。
 要するに、見かけで相手を判断しちゃいけない、そして、
 この世は弱肉強食だってことだよね。」

「いや、違う。」

「え?」

「この話が言わんとしていることはなぁ、
 やっぱりちゅうことじゃ。」

「そうなんだ。」

孫は2個目のみかんに突入していた...。






つものようによく晴れた日の午後、
配達員がいつものようにある家に郵便を届けた。
その家の様子はおおよそいつもこんな感じである...。


「だいたい、いつもズボラなんだよ、お前は!」

笹太郎は、読んでいた新聞を投げ出して言った。

「去年の大雪で車庫の外壁がヒビだらけだろうさぁ、お前なぁ、知ってんだろが、
 選挙ポスターじゃ小さすぎてなぁ、かくせねぇーんだよ、このタコ!」
 
「そういうことはさぁ、一家の主のあんたがやるんじゃないの!
 あんたの方がねぇ、いつもおかしいんじゃないのさ。
 車乗っちゃぁ、事故ってくるし、窓ガラスはバリバリ割るし、冷蔵庫に熱湯入れて壊すし、
 水洗トイレは逆流させるわ、カーペットはたばこで燃やすわ、オヤジギャグは言うわ、
 飼ってる猫は踏み殺すわ、いびきはうるさいし、歯ぎしりするし、
 ご飯はこぼすわ、おかずは残すわ、歯はみがかないわ、顔洗わんわ、
 洗わないって言うか、いつも緑色に塗ってるし、それにねぇ、
 だいたいなんでモヒカンなのよあんたは! あとさぁ、
 いきなり踊りだしたりすんのやめてよ! キモイじゃないのよ!!」

世詩子は日頃の鬱憤にたまりかねてそう言った。

「いいじゃねえか、新しいステップをクリエイトしてんだよ!
 だいたい、恵だってなぁ、(あ、しまった...)」

「めぐみって誰よ!! あーーーっ、やっぱりあんた浮気してたのねーーー!!!
 いつも残業だ残業だって、帰りが遅くて変だと思ってたのよ!!
 だいたいあんた、働いてないし。 もーーーくやしーーーー!!
 地下に幽閉してある智郎(息子)が聞いたら、きっと私の味方してくれたでしょうね...
 もう、わかったわ!今日こそきっちり話しつけましょうよ、はなしを!!」

3秒経過。

「って言うかお前、智郎、幽閉してたのかあ!!
 行方不明だって言ってたじゃねえかあーー!!!
 俺にウソついてたんかあ、ええぇ!?
 なんて事すんだよおめえぇーー!!早く出してやれよぉぉーーー!!!」

「三日前に死んだわ...」

「ええぇーーーっ!!! まっじえぇーーーーーーっ!!!!!」

「それとお前よ〜、最近腹出てきてるけど、いったいどうしたんだよ。」

「大きなお世話ね!太ってきたのよ。」

「ウソつくんじゃねえ、そりゃ、明らかに妊娠じゃねえか!!
 いったい誰の子供なんだよ!!」



「適当なこと言うんじゃねえ、
 俺とはここ5年ゴブサタじゃねえか!!!」


彼らの日常のもめ事は、今日もまた、尽きることがなかった・・・。

  //完//






この話を語り終えた後、じいさまはふぅーっと一つため息をつき、
そして孫に話し始めた。

「実はな、あのな... じつは...」

「なあに、おじいちゃん。」

「じつは... 思い切って話そう、実は、お前は拾われたんじゃ。」

「え!? またー、よくそーゆーウソってあるよね。 ひっかからないよーん。」

「いや、ほんとじゃ。」


「・・・そ・そんな・・・。」

みかんが、ぽとりと落ちた...。
そして、その落ちたみかんを、じいさまが食べた。