表紙 うすい水色
ゾロがサンジの19才の誕生日にバラティエに流れ着く話。
冒頭部分
バラティエの副料理長、サンジは十九才になった。
バラティエは数少ない美味な海上レストランとして有名な店だ。
評判を聞きつけて、いろいろな客がやってくる。
繁昌している店なので、いつでも忙しく、大勢いるコック一人一人の誕生日祝いをしている暇などない。
それでも、コックたちは彼らなりのやり方でささやかに仲間たちの誕生日を祝っていた。
サンジの誕生日の日は、示し合わせてもいないのに、店中にいっせいにぐるぐる模様の料理があらわれる。
今日はメニューは同じなのに、至る所に奇妙な渦巻きマークのついた料理が客に配られていた。
彼らは「おめでとう」などとは一言も言わない。
誰もが知らんふりなのだが、どのコックが作る料理にもぐるぐるとソースがかけられていたり、トッピングが渦巻いていたりした。
サンジはせわしなく客に料理を配るたびにそれを見た。
それが意味するものが何かは分かった。むずがゆい気がして、じわっと心の中があたたかくなった。
うれしくなったけれど、素直に礼が言えるほどサンジは大人ではなかった。
まわりの大人達も、それを知っていたから、様子を伺いつつ、見てみぬふりをした。
この子どもはオーナーゼフがバラティエを開店するときからともにいた。
生意気で、かわいげがないが、所詮は子どもだ。大人達は、厳しく接してはいたが、特別な存在でもあった。
洟垂れ小僧が、徐々に成長し、大人になっていくのを見るのは、嬉しいようで寂しいようでもあった。
高い棚の鍋一つとれなかった子どもは、すらりとした青年になった。いつも背伸びをして黒のスーツを着て、タバコをふかして大人ぶっていた。
料理の腕もゼフにつぐほどのものになっていた。
サンジはバラティエで育った子どもだった。
子どもの客もめずらしく、このあたりで子どもを見かけることは少ない。バラティエではたった一人の子ども。
そのサンジの本当の夢を知っているのはゼフだけだった。
オールブルー。
伝説の海を思い浮かべながら、サンジはいつも眠りについた。
しかし、サンジの夢はそれだけではなかった。
十九才になった日、サンジはひっそりといくつかの願いをかけた。
オールブルーが見つかりますように。
クソうまい料理が作れますように。
おれの運命の人があらわれますように。きっと、それはすごくきれいなレディに違いないんだ。
悪魔の実を食べるなら、スケスケの実が食べられますように。
悪魔の実を食べると泳げなくなるので、海のコックとしては都合が悪いのだが、スケスケの実の魅力の前にはそんなことはどうでもよいのだ。
もちろん、多少は人のためになることもする。そして、だれにも気づかれないで女湯を覗く事ができるのだ
サンジは考えただけでどきどきして、鼻の穴がふくらみ、鼻血が出そうになった。
パラダイスだ
サンジのテンションはどんどん上がっていた。
夕方から夜にかけて、いつにも増して客が増え、考え事をする暇もなく一日が過ぎた。
日付けが変わろうとするころになって、やっとサンジは仕事を終えた。キッチンの片づけをちゃんと済まして、甲板でタバコをふかした。
ぼんやりと海を見ていると、何やら海の中にぷかぷか浮いているものに気づいた。
ちょうど水瓜ぐらいの大きさで、何かの実のように見えないこともなかった。
おおっ!! 今朝、祈ったことがさっそく叶ったのか?
もしかして、悪魔の実か?
サンジは大急ぎで、漂流物に近づき、実のようなものをつかみあげた。
重い!!
それは実にしては重すぎた。
片手で持つのは重すぎたので、両手を使い、力任せにその実を引き上げた。
実のはずのそれは、長くてでかく、ずるずるとつながっていた。海草もからんでおり、実体がつかめない。
実じゃねえのか?
新手の藻か?
サンジがじっと見ていると、とつぜんそれが動いた。
「うおっ!!」
サンジは思わずあとずさった。藻の化け物か? 海草のなれの果てか?
「・・・ここはどこだ?」
藻がしゃべった。
そいつは悪魔の実でもなく、海草でも藻でもなく、人だった。
あっけにとられているサンジを全く気にせず、そいつは海草や藻をそこいらに捨てて、立ち上がった。
明るいところで見ると、まりものような頭をし、緑色のださい腹巻きをして、腰に刀をさしている剣士だった。
サンジはがっかりした。
(続く)
いちおう18禁です
本文12ページ。うすいのでコピー本です。