Kind im Einsclummen
ゴーイングメリー号は今日も快調に航海を続けている。
昼を過ぎると、みな退屈になってくる。
一番にルフィが声をあげた。
「サンジは? もうおやつの時間じゃねえの」
腹減った・・・
側で何か細工をしているウソップが答える。
ウソップは小さな木で器用に彫り物を作っている。
「あいつ、部屋で寝てたぞ」
「ええ。何でだ。おやつが食いたい。おやつーーー」
くり返すルフィ。
後ろからナミにはたかれても止めようとしない。
「うるさいわよ。アンタ毎日毎日飽きないものね」
「サンジ、なんで寝てんだよっ。おやつも作らないで」
「そりゃあ、あいつのせいでしょ。昼間っから酒飲んでる剣士のね」
ナミは手酌で酒を飲んでいるゾロを指さして言った。
「ゾロ、サンジ君を起こしてきなさいよ」
えらそーに言う。
「なんでオレが・・・」
「あんたのせいで、サンジ君が夜更かししたんでしょ。
どうして「うまい」の一言が言えないのよ」
なおも躊躇するゾロに向かってナミはたたみかける。
「アンタのせいなのよ!!!」
いつもいつもいつも、なぜかくだらない事で意地をはりあうゾロとサンジ。
どうしてなのか。
普段いがみあうくせして、時々おそろしく気があってたりして・・・
「ゾロ行け!!!」
断言するルフィ。
しようがなくゾロは立ち上がった。
なんでオレがあのクソコックを起こさねばならんのだ。
あいつが勝手に夜更かししたんだろ。
部屋に入ると、サンジはまだ眠っているようだった。
コノヤロー、まだ寝てやがんのか。
近づいて、確かめる。
しずかに寝息をたてている。
目を閉じてぐっすり寝入るサンジは普段とは別人のようだ。
そういえば、こんな近くでこいつ見るの初めてだな。
きつい視線がない。
不遜な態度がない。
子供のような寝顔。
なめらかな頬のライン。
投げ出された細いカラダ。
ズキン。
ゾロの胸の奥に痛みが走る。
なんだ、コレ。
なんだ、この変な痛みは。
ゾロは憑かれたようにサンジを見つめた。
時を忘れるほどに。
起こさねえと。
「ん・・・」
サンジが寝返りをうつ。
ズキン。
走る胸の痛み。
ゾロの指先がサンジの頬に触れる。
サンジの目がゆっくりと開かれる。
「・・・・?」
サンジはまだ夢見心地だった。
夕べ、夜更かししてゾロをも「まいりました」と言わせるメニュウを研究したのだ。
何故か、ゾロとは折り合いが悪い。
なんでオレの料理をうまいといわねえ。
味覚はあるみてえなのに。
料理人のプライドにかけて、ゾロが感心するようなのを作ってやる。
これは勝負なんだ。
負けられねえ。
目の前にゾロの真剣な顔が見える。
いつも怒ってる顔しか見たことないような気がする。
こいつって、やっぱりオトコマエ。
なんでオレゾロの夢なんか見てんだろ。
夢のゾロなら言うかなあ。
「なあ、クソうめえだろ?」
サンジの子供のような無邪気な笑顔。
ズキン。
ズキン。
ゾロの鼓動が跳ね上がる。
サンジは考えた。
なんで、こいつ顔赤いんだ・・・
しかも、 あったけえ・・・?
キモチいいよな。
???
本物・・・・??
跳ね起きるサンジにゾロもあわてて手を放す。
オレは今何を・・・!!!!!!!!
心の中で叫ぶ。
速まる鼓動。
「てっ、てめえ、こんなとこで何してやがった!!!この腹巻き男!!!」
「てめえが来ないから起こしにきてやったんだよ、クソコック!!!」
互いに背をむけて、罵り合う。
二人とも真っ赤な顔をして。
「やんのか、コラ」
「上等だ。てめえになんざ、まけるわけねえ」
もうケンカでもするしかねえ。
サンジは混乱していた。
オレ、何考えてた???
ゾロがかっこいいとか・・・
ゾロは焦っていた・・・
何で、サンジにみとれてしまつたのか。
この感情から抜け出すためには・・・
とりあえずケンカ!!!
蹴る!
斬る!
それしかねえ。
待ちくたびれた三人の耳にまで届く音。
「あり、またやってるぜ。だけど、おやつ!!!!」
ルフィが立ち上がる。
「サンジ、おやつーーーー!!!!」
ルフィの大声はゾロとサンジの耳にも届いた。
「いけね。ナミさんにデザートだ!!!」
態度を豹変させて、キッチンに向かうサンジ。
「ナミさーーーん。お待たせしました。
これよりスペシャルデザートをば!!!!」
「おせえよ。サンジ!!!
何十分も待った!!!
だから沢山くれ!!!!」
素早く作れるおやつを準備すると、ルフィはもう御機嫌だ。
「うめーーーー」とルフィ。
「いけるな・・・」とウソップ。
「・・・」考えるナミ。
サンジ君が来るまでに20分。
何があったのか。
ケンカが始まるまでの時間。
空白の時間。
あやしい。
ゾロとサンジ君のケンカしすぎなとこも、普通じゃない。
バカバカしすぎて口だしする気もしない。
恋。
愛。
磁石のようにひきつけられる、たった一人の相手。
誰も逃れることはできない、奇跡。