百のKISSと千の溜息
 

side   ZORO
 
 
 

最近あのアホコックが気になってしようがねえ。
何故なんだ。

海に出たらおれたち5人だけになる。
おれたちは起きるのも寝るのも一緒だ。

だから色々なことがわかる。

オレは他人に干渉したりはしない。

たいていルフィが騒いでいる。
サンジはしようがねえな、という感じで笑っている。
たまにオレも加わる。

おれたちのキャプテン。
こいつとならどこまでも進める。
そう思う。
バカだけどすげー奴。

ウソップはいい奴だ。
てめえが危険なことはしやしねえが。
だからオレにもつっかかってこない。
何となく遠巻きにしている。
そういう感じ。

ナミはなかなか癖のある女だ。
ルフィよりよっぽど船長みたいだ。
あいつにも夢がある。
何も問題はねえ。

問題はサンジだ。
何かというとつっかかってくる。
キレやすい。
気がつくとやりあってる。

別に張り合いたいわけじゃない。
でもオレは最強の戦士になるんだ。
負けられねえ。

オレは剣士だ。
好きだとか嫌いだとかそういう感情は不要だ。
そんなものにとらわれてはいけない。
分かっている。

でも、サンジを見るとどうしてだか考えちまう。
オレはあいつが好きなのか。
オレはあいつが嫌いなのか。

落ち着かなくなる訳は何だ。
この曖昧な感情は何だ。
 
 

「てめえ、昼間っから飲んでやがんのか」
見るとむっとしたようなツラをしたサンジがいた。

「酒が足りなくなったらてめーのせいだ」
「ああ?まだいっぱいあるじゃねえか」
まだ瓶が並んでいる。
「一日10本飲んでみろ。あと10日ぐらいしかねえよ。よこしな」
そう言うとサンジはまだ封を切ってない瓶をとりあげた。
「おい・・・」
くそ。
しかし、サンジの言うことももっともだ。
だがこいつはナミが言えば全部飲ませるだろう。

「全く。てめえは、男にはつめてーよな」
「あたりめーだ。何でレディとてめえが一緒なんだ」
オレはまだあんまり飲んじゃいねえ。
「あんだけ使われて、情けなくないのか」
「あんだと。レディのお願いを聞けねえやつなんて、騎士じゃねえ」
「・・・・」
アホだ。
あまりにアホすぎて、返す言葉もない。
本気だから始末に悪い。
こいつ絶対女にひどい目にあわされる。

「女は一人でいいんだよ」
女は無用。
どうしてもいるなら一人でいい。

「何を言う。レディは沢山いるんだ。それをてめえ・・・
あっ、てめえナミさんを狙ってるな。
くそー、許せん。
確かにナミさんはかわいい。
確かにナミさんはナイスボディだ。
でもぜってーにダメ。
ダメなもんはダメ」

アホかっちゅうの。
こいつ地に足がついてねえ。
まるでガキ。

「てめえ、女とちゃんとやったことあんのかよ」
何でここまで軽いんだ。
サンジはむっとしたようなツラをした。
そしてニヤリと笑った。
「たりめーだ。ああ、やりてーなあ。オレは女にゃやさしいぜ」

「へえ。そんなんでちゃんとできんのかよ」
「おれあ、大人だぜ。何だってできるさ」
「どうだかな」
すぐにぽーっとなるくせに。
すでに目がハート。
タバコの煙もハートだ。

「キスもうめえし」
「へえ、そうかい」
「数えきれねえ位してるぜ。どうだうらやましいだろ」
「・・・」
「てめえなんかしたこともねーだろ」
この野郎。
むかつく。

「ああ、そういうてめえ何回ぐらいしたんだよ」
サンジはしばらく考えて言った。
「百回ってとこかな」

それが何だってんだ。
そんな意味のないキスいくらしたって同じだろうよ。

意味のないキス。

バカだよてめえは。
何百回したって何千回したって何にもならねえ。
けどだれもこいつには教えてくれなかったんだな。

想いはそんな軽いもんじゃねえって事を。
キスなんて必要ないのに。

「じゃ百一回目はオレがしてやる」
オレは言葉で色々言うのは苦手だ。
人に何かを分かってもらおうなんて思ってない。
分かりたいやつだけ、分かれ。

だけどオレは知りたい。
こいつがオレの何なのかを。

「は?」
サンジは面くらったようなツラをした。
けどオレだってそうだ。
何でこいつにこんなことをしようと思うのか。

オレはサンジのツラをじっと見た。
こいつの顔はこんなだったか。

サンジはオレをじっと見ている。
オレも見入られたようにサンジを見た。

ゆっくり顔を近づける。
オレはサンジをじっと見る。

そして。

オレにとっては幾つめかのキス。
あいつにとっては百一回目のキス。

ゆっくりと。

急がなくていい。
オレらしくないけれど。

オレにとっては軽くないキス。
百のうちの一つなんかにゃさせねえ。

百の嘘はただ一つの真実には勝てねえ。

ゆっくりと唇を離す。
オレはこいつともっとキスができる。

サンジは真っ赤な顔をした。
急に立ち上がると部屋から飛び出していった。

参ったな。
オレにも分かってしまった。
追い詰められたのはどっちだ。

よりによって。
あのアホに。
特別な想いを持ってしまった。
キスより先をしたい。
あんなアホコックに。

くそー。
思わず溜息がもれる。

最悪だ。
最悪だ。

何だってこんなことに。
しっかりしろ。
ロロノア・ゾロ。
動揺するな。

くそー。

最悪だ。

いつまでも残るあいつの唇の感触。
目を閉じても浮かぶ瞳の色。