百のKISSと千の溜息
 

side  SANJI
 
 
 

最近ゾロがよくこっちを見てやがる。
何故なんだ。

海に出てからかなりたつ。

海に出たらおれたち5人だけになる。
バラティエとは違う5人だけの世界。

来る日も。
来る日も。

おれたちは起きるのも寝るのも一緒だ。
だから色々なことがわかる。
 

いつもルフィが騒いでいる。
騒いで、食って、笑う。

こいつがおれたちのキャプテン。
何かと手がかかる。
だがこいつの夢はいい。
こいつと話してるとオレまでつい夢を言いたくなっちまう。
バカだけどほっとけねえ奴。

長ッパナはこまかい奴だ。
てめえに都合の悪いことはしねえ。
けっこう気の合う時もある。

ナミさんはいい。
かわいい。
美人。
スタイルもいい。
ナミさんを見ると鬱陶しい気分もふきとんじまう。
やっぱりレディに限る。

問題はゾロだ。
いつもマイペースで、てめえだけえらいってツラしてやがる。
気にくわねえ。
で、気がつくとやりあってる。

別に張り合いたいわけじゃない。
だけど何故かじっとしていられねえ。
黙ってると負けるような気がする。
負けられねえ。

時々、こいつってカッコいいなと思う時がある。

何考えてんだ。
一番カッコいいのはオレだ。

なのにあいつがカッコいいだなんて。
眩しいだなんて。

落ち着かなくなる。
ゾロのせいだ。

みんなあいつが悪い。
オレあ悪くない。
 
 

オレは何だかイライラしていた。
厨房を覗くとゾロがいた。
また酒飲んでやがる。
足りなくなるぐらい飲むんだ。こいつは。
「てめえ、昼間っから飲んでやがんのか」
オレはむっとした。貴重な酒を。
「酒が足りなくなったらてめーのせいだ」
「ああ?まだいっぱいあるじゃねえか」
まだ瓶が並んでいるが何日かしかもちやしねえ。
「一日10本飲んでみろ。あと10日ぐらいしかねえよ。よこしな」
オレはゾロの目の前のまだ封を切ってない瓶をとりあげた。
「おい・・・」
ゾロは不服そうに言った。

「全く。てめえは、男にはつめてーよな」
「あたりめーだ。何でレディとてめえが一緒なんだ」
こんなに飲んで何言いやがる。
「あんだけ使われて、情けなくないのか」
「あんだと。レディのお願いを聞けねえやつなんて、騎士じゃねえ」
使われるって、レディのお願いを聞くのは当然のことじゃねえか。
「・・・・」
ゾロが白い目でオレを見てる。
てめえには分かるまい。

レディがいなけりゃ世の中闇だ。
そんなことも分からねえとは。
まあ、こいつは剣バカだし。
ライバルは少ない方がいい。

「女は一人でいいんだよ」
急にゾロが言い出した。
一人って、誰のことだそりゃ。

「何を言う。レディは沢山いるんだ。それをてめえ・・・
あっ、てめえナミさんを狙ってるな。
くそー、許せん。
確かにナミさんはかわいい。
確かにナミさんはナイスボディだ。
でもぜってーにダメ。
ダメなもんはダメ」

くそ。
ちょっと剣士だと思いやがって。
くそ。
ちょっとカッコいいと思いやがって。
余裕見せやがって。

「てめえ、女とちゃんとやったことあんのかよ」
オレはむっとした。
でもこいつと違って経験豊富だ。
余裕だ。
余裕。
「たりめーだ。ああ、やりてーなあ。オレは女にゃやさしいぜ」
もててやさしい。これでこそ騎士。
「へえ。そんなんでちゃんとできんのかよ」
「おれあ、大人だぜ。何だってできるさ」
「どうだかな」
てめえみたいな愛想なしじゃねえ。
バラティエで色々したからな。

「キスもうめえし」
「へえ、そうかい」
「数えきれねえ位してるぜ。どうだうらやましいだろ」
「・・・」
「てめえなんかしたこともねーだろ」
ぜってーに勝ってると思う。
こいつ自分から仕掛けるようにゃみえねえし。
恐いし。
カッコいいとは思うけど。
レディはおっかない男は嫌いだからな。

「ああ、そういうてめえ何回ぐらいしたんだよ」
オレはしばらく考えた。
「百回ってとこかな」
どーだ。
まいったか。
すげーだろ。

いい男はキスが上手い。
これはどの客が言ったんだっけか。
 
 
 

「じゃ百一回目はオレがしてやる」
 
 

「は?」
オレは一瞬意味が分らなかった。
多分余程間抜けなツラしてたと思う。
 

ゾロがオレをじっと見た。
真剣な眼差し。

前を見る時の鋭くて真直ぐな眼差し。
やっぱりこいつってカッコいい。

オレはバカみてえにゾロを見てた。
動くことなんか考えなかった。

ゾロが顔を近づける。
剣士の瞳でずっとオレを見たまま。

そして。

ゆっくりと。
ゆっくりと唇が重なる。

心臓が高鳴る。
何してるんだ。
何でゾロはこんなことする。
何でオレはゾロしか見えねえんだ。

目がそらせない。
オレだけを見ている目。

何でこんなことになった。
バカになんかしてない。
真剣な目。

本気。
ゾロは本気。

心臓が高鳴る。
オレは動けねえ。

ただゾロを感じる。
どうすればいい。

ゾロの強い気がオレにまで伝わってきそうだ。

ゆっくりと唇が離れる。
何故だか名残惜しく感じる。

そして我に返る。
オレ今どうしてた。

女みてえにキスされてぼーっとしてた。
羞恥で顔が熱くなる。

オレは部屋から飛び出た。

なんでキス一つでこんなに心臓がどくどく言うんだ。
今までしたキスでこんなになったことはない。

なのに。
何でゾロのが・・・

いてもたってもいられない。
どうしたらいい。
オレはどうすりゃいいんだ。

くそ。

忘れろ。
考えるな。

何でゾロはあんなことを。
あいつの本気の瞳。

オレは知ってる。
オレはあの目が好きだ。
戦うものの目。
誰だってあの目の虜になるだろう。

もう一度、あの目で見つめられたら。

オレはどうしていいかわからない。
何を言っていいのかわからない。

たった一度のキス。

なのに消せねえ。
あいつの熱が。
身体中に残ってる。

どうしてなのか。
オレはどうなっちまったんだ。

消せない感触。
消せない残像。

消せない感情。