sweet   stroberry   pie

side  ZORO
 
 
 
 
 
 

久しぶりに陸についた。
ほぼ一ヶ月ぶりだ。

毎日、毎日、海ばかり見ていた。

だが、海は同じようでいて、いつも違っていた。
静かな海。
荒れた海。
 
 

凪いだ波を見ながら、オレは自問する。
あせっている?

漫然と過ごしていて剣士になど、なれるのか。
船の上では、心を鍛えるのに専念することだ。
 

仲間達は何も考えてないように、見える。
ルフィは「なるように、なる」といってこだわらない。
ナミは毎日、海図をにらんでいる。
ウソップはいつもの詭弁をふるう。

そして
サンジは毎日メシを作る。

このままでいいのか。
キャプテン・ルフィには何の不満もない。
おもしれえ奴だ。

何が満たされないのか。
何が欲しいのか。

オレは、迷っている。
自分の居場所がわからねえ程に。
 
 
 

町に着いたらみな、それぞれ思い思いの場所に散っていった。
オレたちはあまり干渉しねえ。
好き勝手だ。

オレは刀を見に行った。
たいしたのはねえ。

酒を飲んだが、陽気なやつらが話しかけてくる。
面倒になって、オレは何本か瓶を買って、船にもどった。
この町では、いろいろ買い出しするから2.3日はいることになるだろう。

デッキに座り、町を眺める。
ガキの頃、オレのいた町に少しだけ、似ていた。
 

剣士になりたかった、ガキの頃を思い出す。
そして、
くいな。

感傷か。
バカバカしい。
 
 
 
 

「てめえ、何思い出にひたってんだよ」
不意に背後から声がした。

サンジの声。
まさか、こいつがここにいるなんて思わねえか、オレは多少あせった。
不覚・・・。

「てめえこそ、何してやがる」
サンジはにやりと笑うと、手に持っていたものを見せた。
苺だ。

「ここの苺、すげーうめえんだ。つい、買っちまったもんでよ」
嬉しそうにしやがって。
でも、こいつを見直す。
町ではナンパしかしねえような気がするが。
いや、確かにそれのみの時もある。
女にゃからきし弱い。
すぐ目がハートになるし。
いいなりだし。

「なあ、てめえ、パイ食いてえだろ?」
「・・・」
オレは甘いものは苦手だ。
酒だってつまみがなくてもいい。

「甘味なくて、ぜってー旨いから、食うよな?」
必死で、言ってる。
でもな。
てめえだって、知ってるだろ。
そういうのは、他の三人に食わせりゃいいんだって。
 

「ホントだって」
あまり気は進まないが、こんだけ言ってるんだ・・・
しょうがねえな。
「1つだけなら・・・」
そう言うと、サンジはすげー嬉しそうなツラをした。
オレはちょっと混乱した。
やべえ。
こいつ、かわいいかも。

「おーし。実は今焼いてるんだ。待ってろよ!!!」
厨房にもどって行く後ろ姿を見ながら、オレは浮わついてる自分を感じた。

いつもと違う環境。
いつもと違う時間。

落ちつかねえ。

10分くらいたつと、サンジが盆に菓子を載せてやってきた。
「できた!!!ぜってー、今まで食った中で一番クソうまいから、食え!!!」

オレの苦手な、サクサクした菓子だ。
くそ、食うなんて言うんじゃなかった。
でも、サンジがあまりに嬉しそうなんで、つい言っちまった。
約束は守らねえと。

サンジは、オレが食うのを待ってる。
期待されてるのが、わかる。
くそー。
ガキが一生懸命、夢を追うような幼い表情。
こいつって、こんなツラもできるのか。
何だか、緊張する。
なんで、菓子一つ食うのに、落ちつかねえんだ。
食うしかねえ。

オレは一気にかぶりついた。
噛みしめる。

さくり。

柔らかな歯ごたえ。

・・・これなら食えるかも。

「どうだ・・・?
クソうめえだろ」

「ああ」
確かに、この味なら、オレでも食える。
苺の味がそのまま残っているし。

サンジはガキみてえに笑った。
「もっと、食えよ」

いつもなら、何故かケンカになってしまう。
気づいたら、やりあってる。

でも、オレはこいつが嫌いじゃない。
アホだと思うことはよくあるが。

最近、こいつが気になってしようがない。
嫌いの反対は、何だ?
認めたくねえ。

だけど、こういうこいつは、すげーかわいい。
そう思ってるてめえ自身に唖然としつつ。

いい、と思うのでなく。
認めるのでなく。

誰にも持ったことのない感情。
止まらない、感情。
 
 
 

差し出した、サンジの手首を掴む。
「オレは、てめえが食いてえな」

サンジは一瞬で見事な程、真っ赤になった。
「菓子よりてめえがいい」
そう言ってやると、困ったような上目づかいでオレを見る。
誘ってるような表情。
身体に悪いぜ。
 
 
 

ゆっくりと、菓子の盆をとりあげ、床に置く。
サンジ。
オレには甘い菓子はいらねえ。
 
 
 

その代わりてめえを食わせてもらうから。