sweet   stroberry   pie

side  SANJI
 
 
 
 
 
 

久しぶりに陸についた。
ほぼ一ヶ月ぶりだ。

オレの仕事は海の上でも、陸の上でも同じだ。
ただ、うまいメシが食わせればいい。

そろそろ食材が尽きかけていたので、オレはほっとした。
食材管理もオレの責任だ。

ここはでけえ町だ。
色々なものが揃っている。

オレはまず食材を確保することにした。
レディは夢をくれるが、食材がないと夢見るどころではない。

オレは色々な店をまわり、注文をしていった。
ここには2.3日いる予定だ。
だが、オレたちは海賊だ。
いつ何が起きるか分らない。
どうしても必要なものはすぐに手にいれることだ。

いくつか店をまわっていた時、店頭に苺をたくさん並べている店を見つけた。
旨そうだ。
一つ食ってみる。
「クソうめえ」
オレは衝動的に山盛り買っちまった。
早速、船にもって帰る。

船には当然ながらだれも帰っていなかった。
ルフィはまたなんか食ってるだろう。
ナミさんは買い物か。
長ッパナもいろいろ回ってるんだろう。

ゾロは・・・
あいつは多分酒でも飲んでるんだろう。
 

さて。
何を作るか。

保存用に苺のジャム。
とりあえず苺のパイを作ることにする。
これなら翌日でも食える。
ホントは焼きたてが絶品なんだが・・・

オレは腕によりをかけて、小麦粉をこね、バターを混ぜた。
ああ、みんなに食わせてえなあ。
こういう時、オレってホントに料理が好きなんだなあと思う。
これが終わったら、レッツナンパだ。

ほぼ終わり、オーブンをセット。
後は焼くだけだ。

ひと休みしようとデッキに出た時、町の方を見ながら酒を飲んでるゾロを見つけた。
神妙な顔つきで景色を見ている。
 
 

「てめえ、何思い出にひたってんだよ」
声をかけると、ゾロは微妙に表情を動かした。
読めないやつ。

「てめえこそ、何してやがる」
ゾロが訝し気に言う。
あのなー。
オレがいちゃいけないのかよ。
「ここの苺、すげーうめえんだ。つい、買っちまったもんでよ」
誰かにパイを食わせたくてたまらないオレは素直に苺を見せた。
どうだ、すげーうまそうだろ。
でもって、ホントにうめえんだ。

「なあ、てめえ、パイ食いてえだろ?」
「・・・」
ゾロは甘いものは苦手だ。
酒だってつまみもなしで飲んでやがる。

「甘味なくて、ぜってー旨いから、食うよな?」
でもこれはゾロにだって食える。
甘味も抑えてあるし。
なんたって、苺がすげーうまいんだ。
自信作だ。
だから、ゾロにも食って欲しい。

「ホントだって」
オレはなおもすすめた。
いつもオレの菓子をあんまり食わないゾロ。
それって悔しいし。
ぜってーに旨いって言わせてえ。
それにその通りなんだからよ。
いつになくしつこくすすめる。
て、いうか、いつもならすすめてる間にルフィが全部食っちまうから。

「1つだけなら・・・」
しぶしぶという感じだが、ゾロが食う事を認めた。
やったぜ。

「おーし。実は今焼いてるんだ。待ってろよ!!!」
オレはあわてて厨房に戻った。
よーし。
すっげーうまいのを、てめえだけに食わしてやる。
ゾロ、てめえのために作ってやる。
 

いつもと違う環境。
いつもと違う時間。

オーブンをセット。
なんか緊張する。
10分がすげー長く感じられる。
やっと焼き上がる。

なかなか好い感じ。
「できた!!!ぜってー、今まで食った中で一番クソうまいから、食え!!!」
まだ暖かい苺パイを盆にのせると、早速ゾロのところへ持っていく。

オレはゾロが食うのをじっと待ってた。
ちくしょー。
ちょっとドキドキしてる。
久しぶりにガキの頃、初めて客にメシだしたときの感覚を思い出す。
あー緊張する。

ゾロは一気にかぶりついた。

さくり。

「どうだ・・・?
クソうめえだろ」

しばらく間をおいて返事があった。
「ああ」

だろ?
オレは嬉しくて笑った。
ほら、てめえもそう思うだろ?

「もっと、食えよ」

オレはゾロにうめえって言われるとすげー嬉しい。
誰よりも嬉しい。
やったぜって気になる。

レディに対する感情とは全然違う。
優しくする必要はない。
守る必要はない。

だけどゾロに向かって流れていく感情を止めることはできない。
認めてくれ。
オレを見てくれ。

オレはゾロに何をして欲しいのか。
オレはゾロに何をしたいのか。

惹かれている。
どうしようもなく。

ゾロを自分のものにしたいなんて思っちゃいない。
強靱な精神を持った孤高の剣士。
 
 
 
 

一つ食い終わったゾロにパイの載った盆を差し出す。
ゾロの手は、菓子でなくオレの手首を掴んだ。
「オレは、てめえが食いてえな」

オレは恥ずかしさのあまり赤面した。
「菓子よりてめえがいい」
どうしたらいいんだ。
極上のストロベリーパイ。
オレにはこれ以上差し出せるものはない。
ないはずだ。
 
 
 

パイを並べた盆が取り上げられる。
うまいのに。
絶対の自信作。
最高の料理。
 

食いてえ奴に食わせてやるのがオレの仕事。
それが一番食わせてえ奴の食いたいものなら何だって料理してやろう。
 
 
 
 
 

だけど、食われるってのも大変だ。