side ZORO
その街にはオレはたいして用はなかった。
店は多い。
他のやつらは色々やってるんだろう。
しようがないので、一杯飲んで、船に戻ることにした。
夕暮れ時。
街には明かりがともり始める。
道行く人も足速だ。
オレはある店先で見覚えのある姿を見つけた。
黒いスーツ。
金髪。
くわえタバコ。
サンジはしきりに指差して何か言っている。
何かの実を指さして。
買いたいらしい。
店の親爺はいかにも好きものそうな奴で、サンジの肩を抱いたりしてやがる。
サンジは実を見て、まだ何か言ってる。
店の親爺は笑いながら何か言った。
サンジはすげえ、嬉しそうなツラをした。
結局、その実を買ったようだ。
なぜかオレは不愉快になった。
オレはそれからまた飲み直した。
おもしろくねえ。
船に帰ったら、みんな飯を食ってた。
「なー、ゾロ、この実、初めて食うけどうめえぞ」
ルフィが嬉しそうに言う。
あの実だ。
「いらねえ」
オレは、デッキの方に行った。
むかつく。
もやもやした感情。
オレは不愉快な気持ちでデッキに座っていた。
「おい」
サンジが皿を持って立っていた。
「めずらしい、デザート見つけたんだぜ。
てめえの為に、大サービスで残してやった。
食わねえと、損するぜ」
あの実だ。
食う気なんかしねえ。
「いらん」
サンジはむっとしたツラをした。
「オレは食わん。さっさとその皿もってけ」
「何だと。てめえ」
サンジはケリを繰り出す。
オレも斬り返す。
いつものことだ。
何度かやっているうちに皿が床に落ちた。
実が床に散らばる。
「・・・・」
しばらく二人の動きが止まる。
サンジはさらに頭に血がのぼったようだ。
「今日という今日は、許せん」
思いっきり蹴ってきた。
このヤロー、本気かよ。
てめえのケリがマジで入ったら、どうなると思ってんだ。
このボケ。
オレはサンジの足を強引に掴んだ。
バランスを崩したサンジが床に叩き付けられる。
その上にオレはのしかかった。
こいつは足技さえ封じてしまえば、こっちのもんだ。
おれはザラザラした気分になっている。
「あんな買い方したデザートなんていらねえ」
「あァ?」
サンジは何のことだか分からねえようなツラをした。
「てめえ、あん時近くにいたのかよ!!!
何で金もって出てこねえ!!!
オレが、30分もねばって買ったの知ってんのかよ!!!
許せん!!!」
暴れようとするサンジの身体を床に繋ぎとめる。
「何も分かってねえ!!!てめえは!」
キレている。
オレはこいつの怒るわけが分からねえ。
分からねえ。
自分の感情ですら分からねえのに。
行き場のない怒り。
やり場のない感情。
これは何だ。
オレをいたたまれなくさせるこれは。
指先の力を込める。
オレはサンジを繋ぎ止める。
視界に映るのはサンジの姿。
今はそれだけしか映せない。