視界

side  SANJI
 
 
 
 
 

その日オレはめずらしい食材を見つけた。
見たこともない異国のくだもの。
さんざん買い出しした後だから、あまり手持ちの金もねえ。
 
 

だが欲しい・・・
金あんまりないけど。

「1000ベリー? 冗談じゃねえよ。兄さん。それじゃ商売あがったりだ」
店の親爺はなかなか売るとは言わねえ。
太ったいやな親爺。

「とにかく、1000ベリーしかねえんだよ」
くそー、いつもなら買えるのに・・・
だから、なれなれしくしてきたが、オレは放っておいた。
みょうにべたべたしやがる。
肩だいてきたりして。

くそー。
我慢だ。
 

この食材をあきらめきれねえ。
「なあ、いいだろ?」
オレは限界まで下手にでる。
くそー。
 
 

「まけたぜ。若造。1000ベリーでいいわ」
えらいべたべたされた気はするが・・・。
でも、べつにへるもんじゃなし、まけてくれるんなら・・・。
 
 

オレはかつてなく、下手な人間になって、くだものをゲットした。
ちょっとパイナップルに似ている。
悪魔の実ではなさそうだ。
悪魔の実は1000ベリーじゃ買えねえ。
 
 

オレは船に帰った。
「遅いわよサンジくん」
ナミさんっ。
待っていてくれたんですか・・・

「メシー」
「腹減った・・・」
ああそういうこと。
 

オレはデザートはその実にした。
うすくスライスしてみる。
うん、結構うまい。
 
 

みんなでうまそうに食ってるとゾロが帰ってきた。
なんかすげー機嫌悪い。

「なー、ゾロ、この実、初めて食うけどうめえぞ」
ルフィは嬉しそうに言う。

「いらねえ」
そう言い捨てると、一人デッキの方に行っちまった。
何だってんだよ。
メシ食ったのかよ。
せっかく人が苦労して買ったスペシャルデザートを食わんとは。
 

オレはほっとこうかとも思ったが、どけてあったデザートを特別に食わせてやることにした。
大体片づけを終えてデッキに向かう。
 
 
 

ゾロは座りこんでじっとしてやがる。
目が据わってる。
 

何かあったのか?
でも、こいつは口出しされるのを好まない。
人の意見なんざ聞きやしねえ。
いつだって、やりたいようにやってる。
むかつくくらい。
 
 

「めずらしい、デザート見つけたんだぜ。
てめえの為に、大サービスで残してやった。
食わねえと、損するぜ」

ゾロはちらりとオレを見た。

「いらん」

むかーっ。
せっかく人がここまで言ってやってるのに。
食わんとは。
許せん。
 

「オレは食わん。さっさとその皿もってけ」

オレは我慢の限界に達した。

「何だと。てめえ」
ゾロめがけてケリを繰り出す。
 

ゾロも斬り返してくる。
何度かやってるうちに皿が落ちちまった。
せっかくのデザートが床に散らばる。

「・・・・」
しばらく二人の動きが止まる。
くそお。許せんーーーーーー。
このボケ。
アホ。
死ね。

てめえのせいで。
貴重なデザートが!!!
ゾロは斬り返してくる。

「今日という今日は、許せん」

くそー。
むかつく。
むかつく。
むかつく。

何だって、こいつとは、こんなことばかり。
どうして思い通りにならねえ。

こいつがオレをキレさせる。
どうすることもできないイライラ。
オレの前に立ちはだかるゾロ。
蹴ちらせてしまえたら。
 

思いっきり蹴ったつもりだったが、いきなり足を掴まれた。
オレはバランスを崩し、床に叩き付けられた。
その上にゾロがのしかかってくる。
 

くそー。
オレはこうこられると弱えんだ。
足技がつかえねえから。
こいつ、バカみてえに力強えし。
 

「あんな買い方したデザートなんていらねえ」
ゾロがそう言った時、オレは何の事だか分からなかった。

「あァ?」
オレはしばらく考えた。
「てめえ、あん時近くにいたのかよ!!!何で金もって出てこねえ!!!
オレが、30分もねばって買ったの知ってんのかよ!!!
許せん!!!」
 

ゾロは強引にオレの身体を床に繋ぎとめる。
だけど。
てめえに何が分かるんだ。
「何も分かってねえ!!!てめえは!」
無性に腹が立った。
 

オレの苦労なんてこいつにとっちゃ「無意味」だ。
分かってもらおうなんて思っちゃいねえ。
ただ、分かり合えない・・・。
 
 

ゾロの怒り。
強引な指先。
強引な感情。
 
 

だけど、分かり合えない。
てめえには、分かるまい。
 

オレがどんなに食材を愛しているか。
どんなに幸せな気分で今床に落ちているデザートを船に持って帰ったかを。

ナミさんに食わせて、
ルフィに食わせて、
ウソップに食わせて。

ゾロ。
てめえにも食わせたかった。
 
 
 

オレの身体はゾロとぴったりくっついてる。
側に感じるゾロの存在。
けれど。
心はゾロに背を向けている。
 
 

視界に映るのはゾロの姿。
だが、それだけを見て生きてはいけない。