厨房裏
 

消せない想い
 

side ZORO
 
 
 
 
 
 

サンジは朝から少し変だった。
オレにはもう分かる。
こいつの不安定な時。
だがいつも何も言わねえ。
いつもの様にナミに使われ、ウソップに軽口をたたく。

だけど変だ。
 
 

夜。
サンジが片づけをするのを待つ。

サンジの表情はやっぱり冴えねえ。
「おい」
声をかける。
「やろうぜ」
そう言うとサンジは自分の部屋に向かう。
オレはその後についていく。

何かいつものサンジじゃねえ。
何を急いている。

こいつは良くしゃべるようでいて、肝心なことはいつもちっともいわねえ。

部屋に入るとサンジが唇をあわしてきた。
濃厚なキス。

いつもやりはじめるとオレ達は理性をなくしてしまう。
てめえの快楽だけを追いかけてしまう。

今日のサンジはいつもより急いでいる。
オレはいつものように奴の肌にふれる。
もう馴染んだ感触。

こいつとオレはお互いに高まっていく。
「早く・・・」
サンジは足を開く。
オレはゆっくりと体を埋めていく。
サンジが緊張するのがわかる。

時々思う。
こいつはホントにこういうことが好きなのかって。
感じてるのは間違いない。
だけど、いつも苦しそうなのに。

オレは激しく動く。
サンジは強くしがみついてくる。
一つになる。
体も、心も。

「ゾロ・・・」
サンジがオレの名を呼ぶ。
今だけはこいつはオレのもんだ。
オレはこいつのもんだ。

オレは高みに昇りつめていく。
サンジが何か声を上げた。
互いに頂点を極め、緩やかに堕ちていく。

終わってもサンジはオレにしがみついたままだ。
オレはそのままでサンジの汗にぬれた肌に手をはわす。
「・・・さわんな」
サンジのくぐもった声がした。
「足・・・さわんな」
オレはサンジの右足をなでていた。
こいつの足はしなやかで長い。
 

右足。
 

オレは思い出した。
あのコックのじいさんの右足が義足だったことを。

オレは詳しいことはしらねえ。
だが、あのじいさんがこいつの為に足を犠牲にしたらしいことは知ってる。

「おい、てめえ、何思いだしてやがるんだ」
サンジは何も言わねえ。

こいつは何かを溜め込んでる。
ごまかせるとでも、思ってんのか。
オレは足をさわるのをやめなかった。

サンジはオレの手を振り払おうとした。
だがこんな体勢で何ができる。

「やめろ・・・」
サンジは本当に嫌がってるようだった。
だが、わけも言わねえ。
素直に何か言うようなやつではない。
それはわかってる。
だが、おもしろくねえ。

オレは人の弱味につけこむようなことは嫌いだ。
人の弱味に関心はない。

だけど。

知りてえ。
もっと。

だけど。
今日のこいつはオレを見ていない。

オレじゃない、誰か。

サンジの頬をなでると、暖かい液体が指先を濡らす。

涙。
こいつが胸の奥底に隠しているものは、何だ。
こいつは不安定な部分を持っている。
だけど、普段はわからねえ。

「今、テメエを抱いてるのは誰だ?」
サンジの手に力が入る。
「オレのことだけ考えろ」
そして何も考えなくなる高みにのぼりつめる。
動物のように求め合う。
言葉も感情もなにもいらない所まで。
オレ達はそれでいい。
 
 
 

忘れちまえ。

過去の何か。
そんなものにひきずられて何になる。
過去なんて今を守っちゃくれねえ。
過去なんて未来を守っちゃくれねえ。
オレ達には今しかねえ。

サンジは安らかな寝息をたてている。
窓をあけると月明かりにほのかに照らされる寝顔をオレはじっと見ていた。
 

オレに重ねてる誰か。
オレはそいつにも負けられない。