厨房裏
 

消せない想い
 

side  SANJI
 
 
 
 
 
 

オレは朝から何をやっても面白くない。
年に一度はいつもこうなる。

嵐のあった夜。
もう10年も前のことだ。

どうなるわけでもない。
わかってる。
 
 
 

「ねえ、サンジくん。あたし、みかんジュースが飲みたいな」
「はっ。ただいま」
ナミさんの頼みを聞いている間は忘れている。
「おれも」
長っパナが言う。
「てめえ、器用に飲むもんなあ」
「なんだと、こら」
「サンジ、昼メシまだかー。肉だろ、肉」

話をしていると気がまぎれる。
 
 
 
 

夜。
いつものように片づけを終える。

「おい」
ゾロが立っていた。
「やろうぜ」
オレはそう言ってゾロに背を向けた。

オレとゾロはいつの間にか特別な関係になっていた。
こいつと話をするのは、苦手だ。
いつもケンカしちまう。

だけど、身体を合わせている時は気があってると思う。
バカみてえだ。
こいつと、オレ。
笑えるよな。
なんで、こうなったのか。

もう、どうだっていい。

オレは、部屋に入るとゾロにキスをした。

待てない。
待てない。

何も考えたくない。

オレはゾロを愛撫する。
早く高まりたい一心で。

「早く・・・」
オレは足を開く。
自分が何をしているかなんて、もうどうでもよかった。

考えたくない。
考えたくない。

オレはゾロにしがみつく。
一つになる。

「ゾロ・・・」
思わず声が出る。
息が上がる。

ゾロに刺激されてオレも高まっていく。
快楽の世界。
何も考えない。
ただゾロを感じていればよい。
オレは内部にゾロを感じ、頂点を極める。

夢見心地からゆっくりと意識が明瞭になっていく。
まだだ。
まだ足りない。

オレはベタベタしたのは嫌いだ。
だけど、ゾロから離れられなかった。

ゾロはいつになくやさしく、オレの身体をなでていた。

「・・・・さわんな」
ゾロは何の事だか良く分らないようだった。
「足・・・さわんな」

右足。

「おい、てめえ、何思い出してやがるんだ」

右足。
やめてくれ。

オレはゾロの手を振り払おうとした。
だけど、ゾロに組み敷かれていてままならない。

右足。
大切な、右足。

「やめろ・・・」
耐えきれず、オレは言った。
 
 

それがどれほど大切なものか。
クソジジイの足。

どうして、何も思わないでいられる。

クソジジイ。
誰よりも大切だった。
ジジイの足が元通りになるなら、オレは喜んで何でもしただろう。

オールブルーよりも大切なもの。

クソジジイ。
ゼフという名すら呼べなかった、オレ。
チビナス。
あんたにとっては、ガキでしかなかった、オレ。
ずっと、あんたの側でいたかった。
いつか、きちんとあんたに認められたかった。

罪の意識。

クソジジイ。

おれは、もう一度あんたに会えるのか。
オールブルーを見つけるまでは会えない。
胸を張って会いたい。

クソジジイ。
クソジジイ。
クソジジイ。

あんたに会いたい。
オレは何と大切にされていたことか。

何一つわからなかった。

ゾロの指先がオレの頬をなでる。
だけど、オレの涙は止まらなかった。

どうして今頃気づく。

「今、テメエを抱いているのは誰だ?」
オレは何も言えなかった。
「オレのことだけ考えろ」
耳もとでゾロが囁く。
オレは身体を震わせる。
ゾロのこの声に弱いんだ。

ゾロはオレの弱いところを知ってる。
そこを触られると、オレの意識は飛んじまう。
言葉も感情も記憶も全てない場所へ。
オレたちは求め合う。
全てを忘れて。
 
 
 
 
 

オーナーゼフ。
あんたはオレの全てだった。
父であり、師であり、敵であり。
離れたくなかった。

もう、戻れない。

愛しい愛しい場所。
愛しい愛しい人。