R20
悪の華
XS

第1章  遠い昨日の記憶  

禁じられた遊び(XS)
Xanxus16-Squalo14
R18(XS)
4



 
ゆりかご事件。
後にひそかにそう呼ばれるようになったクーデターは、
一瞬のうちに始まった。
ヴァリアーの戦闘能力をもってしたら、
ボンゴレ本部の制圧などたやすいものだった。

九代目の守護者たちは弱体化しており、戦える者は少なかった。

本部の奥深くまで入り込んだスクアーロは、九代目の攻撃を受けて立ち上がることもできず、
柱にもたれてザンザスの戦いを見つめ続けた。

ザンザスは思いのほか力のある九代目に驚いていた。
「まさか、ここまでできると思わなかったぞ、老いぼれが!!」

「家光はお前を殺すなと言ってくれた。
だが、これだけの犠牲を出した以上、ボスとしておまえを生かしておくわけにはいかん。
なぜだ・・・なぜ、お前は・・・」
九代目はやさしい哀れむような目をしてザンザスを見つめていた。
いかにも大切だといわんばかりの目つき。
それにだまされたのだ。
信じたオレがおろかだったのだ。
憎しみと怒りが身体中に満ちあふれ、ザンザスは叫んだ。
「血なんて繋がっちゃいねえからだ!!」
それはずっとザンザスが心の中で叫び続けていた怒りだった。
何をしていても心から消えることのない事実だった。

手に入れられないものなら、最初からそう言えばよかったのだ。
それなのに、何食わぬ顔をして歓迎して、
さも大事な存在であるようにふるまい続けた。
だまされたのだ。
ザンザスはだまされたのだ。
実際は、少しも大事ではなかったのだ。

九代目にも、分かっていた。
ザンザスは決してボンゴレリングを手にすることはできない。
でも、九代目にとっては、大切な存在だった。
ザンザスを一目見て、心を動かされた。
その子の内側にある炎に感嘆し、自らの側に置きたいと思った。
息子として慈しみ、その成長を楽しみ続けていた。
これはただの子どもなのだ。
邪な感情など、持ってはいない。
ただの親と子として接し続けた。

それなのに、こんなことになった。
何故なのだ?
何がいけなかったというのだ?

九代目とザンザスの炎がぶつかった。
零地点突破の氷がザンザスの身体を包み込んでいく。

何だ、これは!!
ザンザスの叫びは、誰にも届かなかった。
氷がまわりを取り囲んでいく。
徐々に視界は失われていった。
ザンザスは心も身体も氷の中に閉じ込められ、
動かぬ人になってしまった。

戦いの場にかけつけてきた、嵐の守護者コヨーテ・ヌガーは、
氷の中に閉じ込められたザンザスと、
その氷の前で膝をついている九代目を見て、茫然とした。

どうして、こんなことに?
他に方法はなかったのか?

続いて駆けつけてきた雲の守護者ヴィスコンティは、
声もなく立ち尽くしていた。
九代目は、いつも温和な表情の老人だった。
ガナッシュはボンゴレの若獅子と言われた沢田家光と同年代だ。
九代目と最初の守護者たちとはかなり年が離れている。
どんな時でも、あわてず誰にでもやさしい方だ。
それが・・・なぜ、こんな・・・。

「九代目・・・この子は、どうしますか?」
コヨーテ・ヌガーは、柱にもたれて荒い息をしているスクアーロを指さした。
放っておいたら、おそらく死ぬだろう。
ザンザスとこのスクアーロは二人でここまでやってきた。
ゆりかご事件の首謀者はザンザスなのはまちがいない。
スクアーロは、ザンザスよりも確か二つ年下なので、まだ14才だ。
だが、年齢で甘くみてはならない。
この子どもは、剣帝テュールを倒したのだ。
もし、ザンザス一人だったら、ここまで急に事は運ばない。
この子は危険だ。
しかし、ボンゴレにこの力は必要だ。

九代目は青ざめて弱っているスクアーロの姿をじっと見た。
「ドクターを呼びなさい」

「私が連れていきます」
ガナッシュは、スクアーロの身体を抱き上げた。
まだ成長しきっていない、細い身体だった。

スクアーロの傷は致命的なものではなく、
ボンゴレ医療班の手当により、
すぐに傷は回復した。

スクアーロは長い長い夢を見た。
スクアーロが目覚めた時、まわりには誰もいなかった。







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