R20
悪の華
XS

第4章  遠い明日の誓い Squalo32-

九代目の死注(XS   家光×スクアーロ、九代目×スクアーロ)
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スクアーロが意識を取り戻した時には、九代目の葬儀は終わっていた。
手当てはルッスーリアあたりがしたのだろう。
頭に包帯が巻かれていた。

「あら、気がついたのね」
予想通りルッスーリアが顔を見せた。
ここはヴァリアー内の医務室のようだった。

「ボスは?」
スクアーロは、そう問いかけた。
ルッスーリアはゆっくりとうなずいた。
「まだ、荒れてるけど、大丈夫よ。
ずっと引きこもっているわ。
ボスの心を鎮めるのは、時間しかないと思うわ」
ルッスーリアは、ゆっくりとスクアーロの髪をなでた。

スクは、ボスの怒りを受け止めた。
スクがいなかったら、ボスの怒りはどうなっていたか分からない。
この子は、ボスのためなら本当になんだってする。
それがいいことでも、悪いことでも。
「スク、あなたもちょっと休みなさい」
スクアーロはしばらく無言のままだったが、ぼそりとつぶやいた。
「これで、終わったのかぁ」

ザンザスの過去はこれで消えたのか。
スクアーロの過去はこれで消えたのか。
取り残されたままの憎しみや怒りをどうすればいいのか。
それは誰にもわからない。





九代目の葬儀から一週間後、
ザンザスは重い腰を上げ、
その墓を訪れることにした。
歴代のボンゴレたちが眠るその特別な場所に入れる者はごく少数の許可されたものしかいない。

ヴァリアー幹部も、葬式に出ていない手前、
全員揃ってボンゴレ本部に出かけた。

「ザンザス、待っておったよ」
九代目の側近であり、嵐のリングを所持していた老人が、ザンザスを待っていた。
ザンザスは、その老人がコヨーテ・ヌガーと呼ばれていることは知っていたが、本当の名は知らない。
九代目の守護者たちは、もうほとんどが生存しておらず、
この嵐の守護者と、雲の守護者のみしか残っていなかった。

何も知らなかった幼いザンザスはこの老人のことも信じていたものだ。
この老人も、ザンザスの血のことを知っていたに違いないのだ。
それなのに、何食わぬ顔をしてよき師のようにふるまったのだ。
老いぼれはくたばったが、こいつらとて許せるものではない。
許せないが、明らかに老いて弱りつつある老人に手を下すのもいまいましかった。

その墓はボンゴレの聖域であり、許された者しか入れない。
老人は、掟通り、息子であるザンザスのみを墓に案内し、外で待つヴァリアーたちに近づいた。
スベルビ・スクアーロは真っ黒な隊服に身を包み、
ザンザスの消えた墓の方をにらんでいた。
墓に入ることを許されるのは、血縁者と、直接の守護者と、特別に愛した者だけだ。
本来ならば、この銀の男は葬り去るべきなのだ。
闇に咲く、悪の華。
刺があり、刺されたものはその毒で死ぬ。
ザンザスが紅なら、スクアーロは白。
異端だが、たとえようもなく美しい存在。
我々にとっては目障りでしょうがなかったが、それを育てたのは九代目だ。
九代目はザンザスを愛しておられた。
それは、我々も認めざるを得ない。
スクアーロなど愛しておられたはずがない。
分からない。
私には分からない。
あの方の本当に望まれたのは、決して手の届かない人。
あれほど、温和で優しい方でありながら、愛する者だけは手に入れることはできなかった。
皮肉なものだ。
どうしてあの方は、苦しみながら亡くなられなければならなかったのだ。
あの方は、愛欲だけ支配することができなかった。
それだけは、どうにもできなかったのだ。


ザンザスは歴代ボンゴレの肖像のかかった墓の一番奥にある九代目の墓の前に立った。
おだやかな笑みを浮かべている老人の姿が飾られていた。
ふざけるな。
聖人君子のようなツラをしやがって!!
貴様のせいで、オレは苦しめられ、煮え湯を飲まされ続けた。
善人づらして自分の考えをおしつけた。
くたばったからって、憎しみが消えたわけじゃねえ。
怒りが治まったわけでもねえ。
くだらねえ。すべてがくだらねえ。
こんなところにいたって、何にもなりやしねえ。
ボンゴレはオレを選ばなかった。
与えるかにみせかけて、奪われた。
絶対に許すことはできねえ。

ザンザスは形だけ持って来た花束を投げ捨てると、
九代目の墓に背を向けた。
入ったと思ったら、すぐに出て来たザンザスを見て、
ヴァリアーの幹部たちは急いでその後を追いかけた。

九代目を守護する老人は、その場を離れようとするスクアーロを呼び止めた。
「スペルビ・スクアーロ、私は貴様を殺すべきだったかもしれん」
スクアーロはちらりと老人を見たが、表情一つ変えずに言った。
「なんでだぁ、病死だろうがぁ。年寄りでも下半身だけ元気で迷惑したのはこっちだぜぇ」
スクアーロは、そっちが呼びつけていたのに何を言っているんだという表情をしていた。
「貴様は、あの方がどんなに・・・」
老人は言いかけて、口をつぐんだ。

ザンザスが怒りの炎を燃やした目で、九代目の守護者を睨んでいた。
スクアーロは、踵をならし、くるりと向きを変えた。
長い銀の髪が流れ、去って行く残像がいつまでも老人の目に焼きついていた。

時は止められない。
静かで平和だった九代目の時間は、
28年前のあの日から狂いはじめたのだ。

あの狂った女が、あの赤い目の子どもを連れて来た日から。







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