ただ一度の BIRTHDAY CAKE |
ゼフ・サンジ
■3■
ゼフは大粒の涙をぼたぼたとこぼすサンジの目の前にそのケーキを差し出した。
あれは、初めて名を聞いた時。
「オレにはサンジって名があるんだ!!!
チビナスって言うな!!」
「本当の名かどうか、
あやしいもんだな!!」
「3月2日生まれだからだよ!!」
サンジはその時しゃべりすぎたのに気付いたのか、
急に黙りこんだ。
サンジにとって、
その話題は触れたくないものだったのだろう。
二度と誕生日のことを口にしなかった。
コイツの親の事なんて、
オレにはかかわりがねえ。
どうでもいい事だ。
だが、なんて簡単な名前の付け方。
同じ年頃の子供は、
ハナを垂らした客としてレストランに来るというのに。
あわれみなんて必要ねえ。
それは無駄なことだ。
あわれんだからといって、
何も持たぬ子供が何かを得るわけではない。
環境が変わるわけではない。
だから、
それは無駄なことだ。
「あんなに小さいのに、
もう働いてるなんてえらいわねえ」
「あの子は可哀相ね。
親元から離れて、
一人ぼっちで働いて」
何もしらねえ客どもは勝手なことを言う。
ただちらっと見ただけで、
コイツの何が分かる?
甘やかしは、
人を堕落させる。
自分の人生は自分でつかめ。
自分の手と足だけを信用して進め。
サンジ、
お前は強くなれ。
オレは甘い言葉なんざ持っちゃいねえ。
だが、
一度くらいはいいだろう。
仕事以外では作らないケーキ。
海賊どもはケーキなんざ欲しがらねえ。
バカバカしいことだが、
仕事以外で誕生ケーキなんざ作るのは・・・。
・・・初めてだ。
クソくだらねえ。
だが、こいつはガキだ。
お子さまだ。
ガキにはケーキだ。
甘い菓子とか、
チョコレートが好きなクソガキだ。
ガキだから、
一度だけ。
一度だけ作ってやった。
「クソサンジ。
食いやがれ」
ゼフはそう言うと、サンジとケーキを残したまま、
キッチンを後にした。
サンジは泣き続けていた。
ジジイが・・・。
ジジイが、
作ってくれた。
オレのために・・・。
作ってくれた。
オレは、
忘れねえ。
ジジイがどうやって作ったかを。
やり方を全部見せてくれた。
忘れねえ。
ジジイが教えてくれたこと。
だって、
こんなにうれしい。
これは、
夢なんかじゃねえ。
これはオレのケーキなんだから。
生まれて初めて。
初めてもらったバースディケーキ。
うれしい。
うれしい。
うれしい。
バカみてえだ。
涙が、止まらねえ。
だって、
ケーキがあるんだ。
名前もちゃんと書いたケーキが。
ジジイが作ってくれたケーキが。
料理は魔法だ。
ただの材料から、
奇跡のような品物をつくる。
オレ、
あんたのような料理人になりてえ。
あんたをこえる料理人になりてえ。
そんでもって、
バラティエを守るんだ。
そんでもって、
ジジイを守るんだ。
オレは忘れねえ。
それから10年がたった。
オレは20になった。
年とったからって何も変わらなえ。
誕生日なんて日常のひとこまにしか過ぎねえ。
クソジジイはもう側にはいねえ。
大人サイズのケーキ。
オレは忘れねえ。
今から思えば、
どうってことのねえ材料。
だけど、
オレにとっては、
唯一無比のケーキ。
ジジイは教えてくれた。
料理は食材なんかじゃねえことを。
派手だからいいってわけじゃねえことを。
オレは覚えている。
あの味を。
あの作り方を。
あの喜びと。
あの嬉しさと。
オレの体に宿ってるあのケーキ。
オレの手は、あれと同じものをいつでも作れる。
だけど。
たった一度のバースディ・ケーキ。
オレの心の中から生涯消えることはねえ。
蹴られてばかりだったバラティエ。
文句ばっかり言ってた。
しょうがねえよ。
オレに素直にものが言えるはずはねえ。
命より大切なクソジジイ。
オレはあんたの側でずっといてもよかったのに。
あんたはそんな事望んじゃいなかった。
あんたに生かされた命。
あんたが祝ってくれた命。
だから、
命をかけて見つける。
夢の海。
オールブルー。
オレたちの夢。
はるか海の彼方にある夢。
この海のどこかで。
オレがいて、
あんたがいて。
オールブルーもある。
まってろよ、
ジジイ。
オレはオールブルーを見つける。
夢を叶える。
まってろよ。
いつか、
見つけてみせる。
それがオレの恩返しだ。
あんたはオレに過ぎたものをくれた。
命を。
そして祝福を。
誰にも歓迎されなかったオレを認めてくれた。
・・・ちっ。
なんだかクソ感傷的になってやがる。
がらにも無く。
こんな感情はキッチンを出たら忘れちまおう。
・・・なつかしくなんか、ねえ。
・・・かえりたくなんか、ねえ。
ジジイに・・・
ジジイに会いたくなんか、ねえ。
いつか会いに行ってやる。
オールブルーを見つけて。
その時まで、
クソ元気でいろよ。
必ず見つけて、
あんたに報告に行くから。
オーナー、ゼフ。
その時まで、
また同じ夢を見よう。
また同じ海を見よう。
end
というわけで、
サンジバースディ祝でございます。
どちらも愛に溢れてるのですが、
二人とも意地でも、
「かわいい」とか、
「尊敬してる」とか、
「大切だ」とか言えない。
意地っ張りで素直でないところがゼフサンて感じ。
ていうか私の中のゼフサンはこういう感じ。