新入り幹部の憂鬱






ミーの名はフラン。
最近、やっと才能を認められて、
泣く子も黙り、どんな強面のマフィアでも裸足で逃げ出すと言われる
ボンゴレ特殊暗殺部隊の幹部になった。
ヴァリアーは、ボンゴレの誇る天才暗殺集団であり、
みなヴァリアークオリティと言われるほどの希有の能力の持ち主だ。
ミーは実際に幹部に昇格してみて、驚いた。
大人げないのだ。
ボスのザンザスを筆頭に、
恐ろしく大人げなく、
すぐに物が投げられ、ナイフが飛び交い、手や足が出る。
特にボスのヴァリアー内暴力はすざまじく、
一番のターゲットは作戦隊長のスクアーロだ。
殴る蹴る、
髪をつかむ、
コップを投げつけるなど、日常茶飯事だ。
隊長はそのたびにアホみたいに大声をあげ、
わめきちらす。
それがうるさいと言って、ボスはまた殴る。
ベル先輩や、ルッスーリアは器用によけるのだが、
スクアーロ隊長は隙だらけで、
まったく空気を読めず、
ボスの機嫌を逆なでするようなことばかりする。
この人たちって、ミーぐらいの年のころからの主従関係だと聞くけれど・・・。

「ボスとスク?
あら、いつもあんなよ。
いいわねえ、いつも仲良しで」
ルッスーリアはうっとりしたように言うけれど、
どうみても仲良しには見えない。
「そうねえ。
ここでうまくやっていく秘訣は、
ボスに逆らわないことと、
スクちゃんにちょっかい出さないことよ。
あんたは子どもだから、大丈夫。
大人の問題は見て見ぬふりをすることよ」
自称母であるルッスーリアは小指を立てて笑った。

「ザンザス様とスクアーロ?
くだらん。
スクアーロより、オレの方が百倍いい男だ。
ザンザス様はなぜ、あんなカスを相手にするのか!!
納得できん!!!!!!!」
レヴィ・ア・タンは顔を真っ赤にして怒鳴りはじめた。
この人、すぐ興奮して盛り上がるんだよなあ。
ミーはついていけない。
「あんなに雄々しくて立派な男は、ザンザス様をおいてほかにはいない!!
十代目を継ぐのは、ザンザス様だ!!
オレはあきらめんぞ!!」
あまりにも盛り上がりすぎるので、
ミーはそっとその場を離れた。

ミーは気になるので、
それから数日は、
そっとボスとスクアーロ隊長の様子を伺った。
よく見ていると、
スクアーロ隊長がうるさいから殴られている時もあったが、
めずらしく、大人しくじっと座っているのに、
「目障りだ」などと言って、
ボスがスクアーロ隊長の髪の毛をひっぱっていることもあった。
確か誰かが「ボスの趣味は銃の手入れと、スクアーロいびり」と言っていた。
趣味なのか。
ミーには良く分からない。
確かに、スクアーロ隊長のロン毛はきれいだ。
ちょっと触ってみたくなる気は分かる。

その日はたまたま広間に、
ミーとベル先輩と、スクアーロ隊長がいた。
ミーは何となく言ってしまった。
「スクアーロ隊長、その髪触ってみたいんですけど」
スクアーロ隊長はぽかんとした顔をした。
「はあ?
何なんだあ、てめえは・・・。
別にいいけどよ・・・」
「だって、きれいじゃないですか」
ミーは正直に言った。
隣でなぜかベル先輩が固まっている。
ミー、何も変なこと言ってないのに。
許可が出たので、
スクアーロ隊長の髪を触った。
長くてつやつやでさらさらで本当にきれいな銀の髪だ。
「ゔぉおおおおおい!!
もう、いいかあ?」
突然、至近距離で怒鳴られて鼓膜がびりびりした。
耳が痛い。
このアホ隊長は、まったく加減というものを知らない。
黙ってりゃ人形みたいなのに、
しゃべると台無しだ。
「ししし。
王子、知らないからね」
ベル先輩が妙に距離を置いて様子を見ている。
「何がだあ?
髪触るぐらいだあ。
オレの髪なんて他に触りたがるのはボスぐらいのもんだあ」
ボス?
何でここでボスが出てくる?
ミーはぎくりとした。
「ししし。
王子、フランがどうなってもいいけど、
とばっちりはごめんだからね。
それに、もういたずらできる年じゃね?」
ミーは開いた口が塞がらなかった。
何言ってるんだ、この人たち。
「こんなガキが何だってんだ?」
スクアーロ隊長は、
ミーを指差してせせら笑った。
間違いなく、バカにされてる。
見下されてる。
「ふーん。
でも、お前、ボスとのはじめてはそいつぐらいの年だろ?
あと、ヤマモトがお前狙い始めたのも、
そんくらいの年だろ?」
ベル先輩が、
ミーをちらりと見て言った。
ミーはまだ14です。
汚れてません。
それなのに・・・。
「・・・そうかもしれねえが、
そんな物好きは、ボスとヤマモトぐらいだあ。
それに、ヤマモトとはヤってねえぞお!!
オレがヤってるのはボスだけだぁ!!!」
スクアーロ隊長は、
大声で叫んだ。
ミーは、聞いてはいけないことを聞いてしまい、青ざめた。
ええ、それって性的に食われてるってことですよね。
あの過剰な暴力は、
まさかまさかまさか、
愛の一環ですか?
好きだから?
ガキ大将が、
好きな子の髪の毛ひっぱるアレですか?
ミー、ついていけません。
「・・・まさか・・・、
ボスとスクアーロ隊長は恋人同士なんですか?」
ミーはつい聞いてしまった。
どんなにびっくりしても、
知りたいものは知りたいし、
ここまで来たら、
毒を食らえば皿までだ。

スクアーロ隊長は平然と答えた。
「はあ? ボスとオレの間にそんな感情なんてあるもんかあ。
手っとり早いからヤってるだけだあ」
ベル先輩が溜め息をついた。
「手っとり早いから、スクアーロだけを相手に、ずっと、ね」
「そうだあ。
後腐れないし、刺客かと心配しなくてもいいし、無駄に孕まねえしなあ!!
だから、ずっとオレで我慢してるんだあ!!
そう、ボスが言ってた。
オレを好きになる確率は0パーセントだそうだ。
今でも・・・きっと0パーセントだ」

ミーはしばらく言葉が出なかった。
ありえない。
あのボスが適当な相手で満足することなどありえない。
肉一つでもいちゃもんつけ、
嫌いなものや気に入らないものには見向きもしない。
ミーですら分かる。
100パーセント気に入っているはずだ。

「おい、カス。
大声で何をくだらねえことをわめいてやがる」
いつの間にか、ボスがいた。
自分の部屋から一日中出ず、
ひきこもり大好きで、
ろくに動きもしないボスが、いた。
ミーは何かいいつくろおうとした。
ボスの目は赤く輝き、憤怒の光をたたえている。
ミー、危険です。
ボスの目が、
ミーを見据えた。
凄い目だ。
こんな男には、誰もかなわない。
さすがのミーも、
こうやって向かいあうと、
格の違いを思い知らされる。
ボスは、ミーをじろりと見ると、言い放った。
「散れ」

ミーと、ベル先輩は、あわてて広間から逃げた。
「ししし。
殴られないなんて、
お前、ボスに気に入られてるな」
ベル先輩は楽しそうだ。
ミーはもう心労でげっそりなんですけど。

「何があっても見て見ぬふり。
見ざる言わざる聞かざる。
ここでいたけりゃ、そうしろ。
ま、しばらくはボスににらまれるかも。
つまらない相手と戦うより、よっぽどスリリングだ」
嫌です、ミーはあんな男に睨まれたくない。
息もぬけない。
でも、精神力は確かにつきそうだ。
あれ以上に恐い存在なんてない。
ヴァリアーの隊員はつねにその圧力下にいて、鍛えられる。
ヴァリアークオリティは嫌でも生まれそう。

「ししし。
後で覗きに行かね?
凄いから」
ベル先輩は、楽しそうに笑った。

ミーも確かに見たい。
でも、見てしまったら、
もう戻れない。
ミーはベル先輩と違って汚れてませんから。
まだ、清純さが売りですから。
でも、ちょっと見てみたい。
いや、いけません、いけません。
ミーにはまだ早すぎる。

ミーの憂鬱の材料がまた一つ増えた。
幹部もなかなか楽じゃない。







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