「フランの興味」 
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(25巻・ルッスーリア三丁目ネタ) 
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ミーの名はフラン。新入り幹部です。
ヴァリアー本部にさらわれて来てから、もう半年がたちます。
ここから出ていけないこともないんですけど、なんとなく興味深い人たちがいるので、ヴァリアーにいます。

一番興味深いのはボスです。
おっかなくてわがままでヴァリアー内暴力すさまじいのですが、本気になると凄いらしいんですね。
ミーはまだ本気の姿を見てませんから、一度見たいんです。
先輩の王子(仮)のアニキとの戦いでは本気を出したみたいなんですけど、ミーたちは見損ねてしまいました。
ミー以外のヴァリアーの幹部たちって、みんなこのボスに惚れてるみたいで、ボスの言いなりなんです。
確かにかっこいいけど、ミーにはよく理解できません。

ルッスーリア先輩はオカマだから、素でボスが好きみたいだし、変態雷男レヴィは、妄信的なほどの熱狂的ボスフェチみたいです。
ベル先輩は、おっかなくてかっこいいって言ってましたけど。
でもベル先輩は、どちらかというとボスよりスクアーロ隊長のほうが好きみたいなんですけど。
わざと、スクアーロ隊長にからんで、怒らせたりなんかしてます。

今日は、ミーがスクアーロ作戦隊長と一緒の任務です。それがなんだか気に入らないみたいなんですよね。
さっきも変なナイフを三本ほど刺されました。捨てましたけど。
「ゔぉおおおい、フラン、行くぞぉ!!」
「・・・スクアーロ隊長、そんな大声で言わなくても聞こえます」
「ゔるせえぞぉ!! 新入りのくせに文句言うなぁ!!」
「・・・ミーの鼓膜が破れたら、隊長のせいですから」
「ゔぉおおおおい!!!! いつ破ったぁ!!!」
うるさくて耳を覆いました。
スクアーロ隊長は、アホでうるさいところを覗けば、結構気にいっています。
ヴァリアーを出ていかない理由は、ボスのこともあるけれど、スクアーロ隊長のことも気になるからです。
二代目剣帝を名のるだけあって、剣の腕は凄いです。
なんでもヴァリアーを継ぐはずだったらしいのに、ボスにその座をゆずったらしいのです。
スクアーロ隊長はボスに文句ばかり言って殴られたり、物をぶつけられたり、髪をひっぱられたりしているのに、ボス至上主義らしいのです。
いつもなんだかんだいって、ボスのいびりを一身に受けているのに、へこたれず、常に突っ込んでいく感じです。
鮫だから脳みそが少ないと、ベル先輩たちは真顔で言っています。
ミーにはよく分からないんですが、ボスとスクアーロ隊長はただならぬ関係らしいのです。
「今日のターゲットは、こいつだぁ!! 女より男の方が好きらしい。
こいつのタイプはこんな感じの男だぁ!! せいぜいいい夢見させてやれぇ!!」
「ミー思うんですけど、・・・これ・・・スクアーロ隊長に似てませんか?この男の好みのタイプ・・・」
ミーは隊長の持って来た数枚の写真を見ました。
この写真の男たちより、どうみても隊長の方がよっぽどランクが上です。
「どこが似てるんだぁ!!! オレはこんなふやけてねえぞぉ!!」
スクアーロ隊長は、全く心外だという表情で叫びました。
「・・・一応、傾向は把握しました。これなら、ミーが来る必要なかったかもしれません。別にそのままでいいですし」
スクアーロ隊長は不思議そうな顔をしながら、資料の写真をひっこめました。
ターゲットが現われると、ミーは仕事を始めました。
ターゲットの男をひっかけるために見せる幻術には「無口な隊長」を用意しました。
ターゲットの男は、スーツ姿のスクアーロ隊長(幻)を見たら、一瞬で食いついてきました。
食い入るようにスクアーロ隊長(幻)を見ています。
「ゔぉおおおおい!! あの幻術のやつ、オレに似てないかぁ?」
「しっ、ミーの気が散るから静かにしてください。隊長に少し外見が似ているだけです。隊長よりずっとエレガントです」
「ゔぉおおい!!」
スクアーロ隊長は悔しそうにうなりました。
あんな外見だけ真似した人形みたいにつまらない美形にはなんの価値もないのですが。
時々、エロモードで色気だだ漏れのくせに、本人には全く自覚がないのです。
スクアーロ隊長(幻)にも本人の色気をイメージしています。
ターゲットは蕩けるような笑みを浮かべ、隊長(幻)の肩を抱いています。
隊長(幻)はちょっと顔を赤くしたりして、恥じらいを見せています。
ミーの側でタイミングを計っているスクアーロ隊長は眉をひそめ明らかに不愉快そうです。
でも、ミーは知ってますから。
時々、ボスに何か言われてこんな顔してるじゃないですか。黙っていると、モデルみたいじゃないですか。
隊長(幻)はターゲットに人払いをさせると、都合のいい場所に導いて、楽々仕事ができるように誘いをかけました。
スクアーロ隊長は、気配を消してターゲットの背後に忍び寄り、ゆっくり刃をターゲットに当てました。
ターゲットは、振り返り、驚きに目を見張りました。
無理もありません。今、抱きしめて愛撫しようとしている相手がもう一人いるのですから。
ターゲットは惚けたように隊長を見つめ、振り下ろされる刀を見ました。男は陶酔した表情のまま、生命を失いました。
本望でしょう。愛したい者に殺されるのは。静かに刀を振り下ろすスクアーロ隊長は、美しい死神にしか見えません。
「ゔぉおおおい!! 任務完了だ!! 帰るぜぇ!!」
それまでの静謐で神秘的な空間は一瞬にして破られ、ミーは耳を塞ぎました。
「スクアーロ隊長、静かにしてほしいんですけど。
ミーが耳が痛くて仕事できなくなったら、報告書に、幻術でなく、隊長みずからがターゲットをたぶらかしたと書きます!!」
「はぁ?」
隊長は意味不明という表情です。
「ボスにまた拷問室に呼び出されても、ミーは知りません」
ミーの言葉に、隊長は真っ赤になりました。
まったく、このアホ隊長ときたら、ガード緩すぎです。自覚なさすぎです。
拷問室でボスが何をしたかバレバレじゃないですか。
ミーですら、簡単につけいれそうです。ベル先輩が、からかう気持ちが分かります。
でも、よく考えたら、ボスとできているのならば、幻術でスクアーロ隊長を出したのもまずいのでは・・・。
報告書には、どんな幻術だったか書かねばならないはずです。
「ミーは、真面目に仕事をしました。恨むなら、隊長がターゲットの好みだったことを恨んでください。ミーには関係ありませんから」
「ゔぉおおい、オレは何もしてねえぞぉ!!」
スクアーロ隊長はごまかすことすら思い浮かばないらしいです。
本当にアホです。ボスがいびるのも無理はありません。
まあ、隊長がどんな目に会おうと、ミーには関係ないんですけど。
でも、隊長がどんな報告書を書いて、ボスがどう反応するか楽しみです。
とばっちりさえこなければ、二人がどうなるのか見逃せません。
ミーが思うに、隊長はやっぱり拷問室に呼び出されると思います。
なんだか面白そうなので、もう少しヴァリアーに居ようかと思います。




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