「フランの興味」 
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(25巻・ルッスーリア三丁目ネタ) 
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ミーがスクアーロ隊長との任務を終えた翌日、ミーはボスの部屋に呼び出されました。
ボスはいつものようにえらそうに椅子にふんぞりかえっていました。
机の上には、スクアーロ隊長が出したと思われる報告書が乗っていました。
お世辞にも達筆とはいえない字は、断じてミーが書いたものではありません。
「ボス、話って何ですかー? ミー忙しいんですけどーーー」
ボスは不愉快そうにスクアーロ隊長が書いた報告書を指さしました。
「このカスザメの報告書にある、ターゲット好みの銀髪成人男子ってのはどんな男だ?」
銀髪という記述だけでボスが誰を思い浮かべているのか想像できます。
スクアーロ隊長の幻術に関する表記はいつも適当のようで、それが原因で殴られたりグラスをぶつけられたりすることも多いようです。
「ボスが怒らないと約束してくれるなら、その通りの幻術を見せてもいいですけどーー」
ボスの眉がぴくりと動き、不穏な空気が漂いました。
ミーはこれまでにカッ消されかけた部下なども見てきました。
ボスの怒りを買うとろくなことになりません。
ベル先輩などはそれを楽しんでいるところがあるのですが、ミーは変態ではありませんので、あえて怒らしたくはありません。
ミーの言い方から何か感じるものがあったのか、ボスはしばらく黙り込んでから、重々しく言いました。
「見せろ」
ミーは正直者なので、仕方なく、ターゲットに見せたのと同じ幻術を見せました。
スーツを着たスクアーロ隊長(幻)は静かに立ち、嫣然とほほえんでいます。
「身近に隊長がいたので、ちょっと参考にしてみました。隊長も了解済みです」
ミーはきっぱりと言い切りました。
スクアーロ隊長はたぶん妙に自分に似ているぐらいにしか感じてなかったようですが、こうして見ると、やはりちょっと刺激が強いかもしれません。
ボスは不快そうな顔をしていますが、それでも幻術の隊長をカッ消そうとはしていません。
ミーの上司はスクアーロ隊長なので、もちろん責任はミーでなく、隊長がとってくれるはずです。
「ふん。そいつを消して、スクアーロを呼んで来い」
「分かりました」
ミーは急いで隊長を探しました。
スクアーロ隊長は談話室で、ルッス先輩やベル先輩と一緒にのん気にカードをしていました。
声がでかいので、どこにいるかすぐに分かります。
「スクアーロ隊長、ボスが呼んでいます」
「おお、フランかぁ? お前も呼ばれてたんだよなぁ。何の用だぁ?」
「さあ、ミーは知りません。ミーの用はもう済みましたから」
隊長は、やりかけのカードを机の上に置くと、すばやく立ち上がりました。
「ししし、新しい任務じゃね?」
ベル先輩が、楽しそうに言いました。
「んまーーー、スクちゃんだけの任務かしら?」
ルッス先輩も、好奇心を隠しきれないようです。
「ゔお゛おおおぃ、どんな任務だぁ!!!!」
スクアーロ隊長は足音も荒く、ボスの部屋に向かいました。ベル先輩はカードを机に並べました。
「ししし、王子の勝ち!!!」
「うっそーーー、カードもあんたなの?!!
拷問室じゃなかったわ!!! もう、わたしとしたことが読み間違えるなんて!!! 
ボスったら、拷問室で楽しめばいろんなことができるのに!!!
フラン、あんたボスにスクちゃんがきれいなだけのぬるい幻術見せたんじゃないの?
ちょっとお仕置きしたくなるような幻術を見せないとだめじゃない!!」
「ししし、お前の幻術、まだまだでなくね?」
ミーはカチンときました。
この人たちが何で賭けをしようとどうでもいいことなんですが、なんでミーまでまきぞえをくわなければいけないのか。
しかし、さすがは長年の仲間です。
スクアーロ隊長のあいまいな任務報告からだいたいのことを推測していたようです。
「もう!! お仕置きの方が絶対素敵なのに!!!!」
ルッス先輩は心の底から悔しそうにいうものの、身体をくねくねさせています。
ミーはため息をつきました。
この性格と容姿でなければかなり好きな生き物なんですが・・・。
「ししし、スクアーロがいなくなったから、お前続けろよ」
墮王子は笑いながら、ミーにカードを押しつけてきました。
「あら、フランちゃんも参戦ねぇ!!! じゃあ、今度は、スクがどれぐらいでボスの部屋から出てくるか賭けましょうよ!!!!!」
ミーは嫌です。そんなもので賭けなどしたくありません。
「じゃ、王子は夜まで!!!」
「あらん。今日はボスの好きな牛肉のステーキよ♡ 私がボスのために買ったのよーーーー♡ だから、夕食までに出てくるわよ!!」
ルッス先輩と墮王子がミーの方をじっと見ています。
ミーはしょうがなく答えました。
「おやつの時間には出てくるんじゃないですかーーーー?」
まだ、昼過ぎです。
いくらなんでも、そんなに二人でひきこもるはずはありません。
「ししし、負けたやつがAランクの仕事をゆずるようにするといいじゃん」
「まあ、素敵!! 殺しがいがあるわね」
この人たちはいかれてますから、難易度の高い仕事ほどしたがるんです。
ミーはそれなら負けた方がいいんですが。
ミーは疲れることは嫌いなんです。
だいたいボスはいつでもスクアーロ隊長を好きにしているはずなので、いまさら何を特別にするっていうんですか。
しかし、予想に反し、スクアーロ隊長はなかなかボスの部屋から出て来ませんでした。
夕食の時、ボスだけ食堂にやってきましたけど・・・。
ミーは失敗しました。賭けは隊長がいつ出てくるか、でしたから。
「むっ、スクアーロのバカがおらんな!! 何をしておるのだ!! あのバカは!! ボス、気にせず食べましょう!!」
空気を読めない雷隊長がわめきました。
ボスはレヴィ隊長を無視して無表情で肉を食べています。
新入りのミーから見ても、これは相当機嫌がいいようです。
「ボス、おいしい?」
ルッス先輩が座っているのにくねくねしながら言いました。
ボスは返事をしませんが、文句を言わないところを見ると、やっぱり機嫌がいいようです。
スクアーロ隊長は食事が終わりかけてもあらわれません。
「ベルせんぱーい、ミー思うんですけどーーー、スクアーロ隊長が明日の朝まであらわれなかったらーー、勝者なしですよねーーー」
「何、お前、王子に逆らうわけ? もう、この時点で王子の勝ちって決まってるじゃん」
「まあ、そういえばそうだわね。フランちゃんてばお利口ね!!!」
「るせえ」
盛り上がりかけたベル先輩とルッス先輩はボスの一言で静かになりました。
本当にボスはおっかないです。
でもまあ、確かに男前だしかっこいいし、そのカリスマ性はすごいんですけど、暴力的すぎてミーはちょっとついていけません。
でもヴァリアーにいるのは、やっぱり今後の展開が気になるからです。
スクアーロ隊長がいつ出て来てもミーには関係ありません。
一緒の任務の時はちょっと困ります。
ボスは加減など知らないし、スクアーロ隊長は隠したりごまかしたりできないし。
ミーは清らかな青少年ですから。




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