と 小 さ き 掌 の 君 に |
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シャンクス・サンジ
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翌晩。
サンジがモップがけをしているとまた「アイツ」がいた。
楽しそうにサンジが掃除をしている様子を見ている。
「手伝ってやろうか?」
「いらねえよ!!」
「なー、手伝わせろ」
大人が子供にするには妙な会話だった。
でも子供のサンジには分からない。
「お前、片手で出来んのか!!」
片手。
大海賊の頭が片手。
なら、もしかしてジジイも海賊を止めなくて済んだのかも。
シャンクスを見た時から繰り返し浮かんでくる思い。
言ってしまってから、しまったと思った。
サンジは自分の言葉にうなだれた。
オレ、ひどいこと言った。
目にははっきりと後悔の色が浮かんでいる。
シャンクスはサンジに近づいた。
「何だって、出来るさ」
そう言って、サンジのモップを取り上げる。
サンジの小さな掌には似つかわしくないほどの大きなモップ。
昼間、店で聞いた。
オーナーはサンジのために片足になったのだと。
この子は頑張っている。
こんな小さな掌で。
こんな小さな体で。
似つかわしくない言葉。
似つかわしくない動作。
小さな唇にやわらかなキスをおとす。
サンジは驚きに目を見開いた。
イマ、コイツ、何ヲシタ?
「オレの手は夢にくれてやったのさ」
揺るぎのないシャンクスの瞳。
サンジの全てをみすかされるような瞳。
不意に涙が溢れてきた。
バラティエを開店してからはどんなことがあっても泣かなかったのに。
涙を見られたくなくて海賊の胸に顔を埋めた。
やさしい手が背を撫でる。
「・・・泣いてなんか・・・泣いてなんかねえ!!」
シャンクスはそういいながらぼろぼろと泣くサンジの体を抱きしめた。
思いもかけぬ愛しさを感じる。
「・・・ジジイが!!ジジイの足が!!海賊が出来たかもしれねえのに・・・オレのせいだ」
泣きながら喋るサンジから、飢餓の島のことや、ゼフの足のことを聞き出した。
罪の意識に押しつぶされそうな子供。
この子供は「赫足のゼフ」の見つけた、最後の宝。
大切な、大切な、宝。
ゼフほどの海賊が人を見間違えることはない。
そして、このシャンクスも。
誰でもが持つことのできない夢という「宝」を持った子供なのだ。
壊れやすい程に美しい光を放つ。
「オレの船に来るか?」
シャンクスの言葉にサンジは首を横に振った。
今は何の力も持たぬ子供。
生と引き換えに課せられた枷はあまりにも重い。
それをサンジは自分で断ち切れるのか。
それとも誰かが断ち切るのか。
オレなら、この子を甘やかしてしまうだろう。
厳しさがゼフのせいいっぱいの愛情表現なのだろうが。
ああ、でもゼフも甘やかしてるよな。
「クソジジイ」なんて言わして許すのはこの子にだけだろう。
半殺しだろう、普通は。
ポケットを探ると、金のチェーンが入っていた。
取り出して、サンジの小さな手に握らせる。
「何・・・?!」
「大海賊から海のコックへのプレゼントだ。大人になったら、ベルトにでもつけな」
驚いたサンジは涙に濡れた目のままでシャンクスを見た。
本物の海賊からの贈り物。
本物の海賊。
本物の贈り物。
そして、オレは本物のコックになる。
「・・・うん」
「男の原点は・・・・ああ、ええと・・・そうだ!!
騎士道だ!!」
「騎士道? よく分からないけど、コック仲間に聞くよ!!」
シャンクスはサンジの頬にキスをした。
それから唇にも。
「それからこういうことは、誰とでもしたらダメだ!!」
「女の人は?」
「駄目だ!!レディを見守って尽くすのが男だ!!」
「うん」
間に受けているサンジにシャンクスは色々なことを教えた。
サンジは何の疑問も持たずに素直に聞いていた。
その成果は後にあらわれる。
良いことであれ、良くないことであれ。
その記憶は失われることはない。
人生の中のたった数日。
それが人を変えることもある。
離れていると想いは募る。
よせる波のように静かにわき上がり、消えていく。
ただ愛しさは残る。
どれほど時が経とうと。
どれほど地が離れようと。
溢れ出るような、愛しさが存在する。
心の中にある大切な想い。
それは誰に見せるものでもない。
けれども決して失われることはない。
愛しさを忘れずにいれば。
願えばいい。
時の彼方で再びめぐりあうことを。
夢の彼方で再びめぐりあうことを。
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そして、あのサンジの腰の鎖はシャンクスからのプレゼント、
意味不明の騎士道もシャンクス指南のせい、
という無理難題なオチっぷり。
サンジは可愛いけどバカな子なので、一度間違ったことを覚えると訂正不能っちゅうか・・・。
(既にどうみてもかなり間違ったことを覚えているし)