十年後の記憶


XS



標的282より
****************************************************************************************


「ゔぉおおおい、何だこりゃあ!!!!!」
スクアーロは傷だらけの身体を起こし、大声でどなった。
スクアーロの頭の中に、とつぜんありえない記憶が入ってきたのだ。記憶の中のスクアーロは32才になっていた。
ミルフィオーレという聞いた事もないマフィアと戦っていた。
そんなはずはない。
スクアーロは22才で、ここはまだ病院だ。
少し前に、ボンゴレリングをめぐり、沢田綱吉と戦い、ヴァリアーは敗北を喫した。
リングはうばったのだ。
それなのに、リングはザンザスを拒否した。
ザンザスは、ボンゴレの地位だけをめざして生きてきた。
ゆりかご事件を起こしたあと、8年間氷の中にいて、やっと出てきて戦ったというのに、ボンゴレリングを手に入れることはできなかった。
ザンザスはあんなに強く、二世にそっくりなのに、ボンゴレの血を受け継いではいなかった。
スクアーロは、それを知っていた。
御曹司は、本当は御曹司ではなかった。
でも、スクアーロにとっては、だれよりも御曹司で、仕えるべき男は、ザンザスしかいなかった。
待って待って、待ち続けて、やっと目覚めたザンザスは相変わらず冷たくて尊大で暴力的だったが、
スクアーロがついていきたいと思うのはザンザス以外にいない。
剣として、今度こそ役に立ちたいと、そう思ったのに、叶わなかった。
オレが、あいつを十代目にしてやりたかったのに、無様に山本武に破れた。
たしかに驕りがあったのかもしれない。
山本の能力は誤算だった。あのガキは、いい太刀筋をしており、鍛えたらいい剣士になる。
鍛えてやりてえぐらいだが・・・、だからって、本当に十年後のオレは山本武を鍛えたのか?
オレは二代目剣帝を名乗り、山本武に勝負の記録を送りつけ・・・実際に手合わせすらしてやっていた。
ゔぉおおおおおおい!!!!
ザクロとやらに敗北を喫しかけながら、ユニとかいう小娘と沢田綱吉とその守護者のカスガキどもを護ろうとしていた。
ザンザスに誓った左手をもっと斬られていた・・・。
戦いのためにすべてを賭けるのは当たり前だ。
もともと義手だしなあ。
死んだって別に後悔しねえんだが・・・。
・・・でも・・・一番やべえのは、戦いの記憶ではなくて・・・ボスが、とんでもなくエロくなってたってことだ。
いつでも椅子にえらそうに座りやがって、ふんぞりかえって!!!
・・・で、オレがベスターの世話をしたり、一緒に酒を飲んだり、肉を焼いたり、身の回りの世話をしたり・・・。
ゔぉおおおおおおおおおおおおい!!!!!!!!
・・・ボスが、オレの髪をひっぱったり、でこピンしたり、お仕置きしたりしていたぁ!!!! 
それ以外のときは、オレがボスのひざに乗ったり、チュウしたり・・・。
だってよお、34才のボス、すげえすげえかっこよかった。
ゔぉおおおおい、どうなってんだあ!!!!! 
あれじゃあまるで・・・!!!
スクアーロは、病院のベッドに突っ伏した。
スクアーロの声で、看護士がかけつけてきたが、それどころではなかった。
ボスとラブラブだった!!!! 
あきらかに、いちゃいちゃしていた!!!!
顔は赤くなり、動悸は高まり、頭がぐらぐらした。
明らかにあれは「剣」の範疇を越えていた。
それなのに、嫌ではなかった。むしろ嬉しい。
「ゔぉおおおおおおおおい!!!!!」
スクアーロはどうしていいか分からなくなってまたしても叫んだ。
「るせえ、カスザメ!!!!」
聞き慣れた言葉と同時に、頭にガツンという痛みが走った。
スクアーロはベッドから落ち、床に叩き付けられた。
スクアーロのそばには、赤い目を煌煌と輝かせたザンザスが立っていた。
強く殴られたため、めまいがして、鼻血が出た。
「・・・あ・・・ボス・・・」
スクアーロはぼんやりザンザスの姿を見上げた。
ザンザスは、さきほど脳裏にあらわれた34才の姿ではなく、髪を立ててふきげんそうな顔をした24才の姿だった。
いつものように機嫌が悪く、人を見下した態度をとっている。
殴られて流血したり、痣になるのもいつものことだ。
十年後の記憶とやらがおかしかったのだ。
あの記憶がどうかしているのだ。
ありえねえ、あんなこと。
スクアーロは思い直して、ザンザスをじっと見つめた。
スクアーロにじっと見られたザンザスは、ややたじろいだ。
ボンゴレリングに拒否され、することもなく屋敷にこもっていた時、突然妙な未来の記憶があらわれたのだ。
ミルフィオーレとかいうカスマフィアと、白蘭というドカスによって、十年後のボンゴレは危機を迎えていた。
未来の沢田綱吉は、カスなりに策をたて、ミルフィオーレを撃退した。
その時に、いまいましいことに十年後のヴァリアーは、味方のような形で動いていた。
オレは十年たっても、あいつらなど認めねえ。
それなのに、クソミソカスザメは、すっかり協力者になり、刀のガキにみずからの戦いの記録を送りつけ、
ジャッポーネまで出向いてやって剣を指導してやがった!!!!!
このオレをクソボスよばわりし、好き勝手してやがった!!! 
オレの匣兵器のベスターの世話をするのはあたり前だが・・・妙にエロくさくなってやがって、常に誘うような姿を見せていやがった!!!! 
ドカスの分際でどういうことだ!!!
黙ってじっといると、いつまでも眺めていられるぐらいの容姿になっていやがった!!!! 
こんなうるさく落ち着きがねえくせに、極上の霜降り肉みてえになっていやがった!!!! 
カスザメがでれでれしやがるせいで、このオレまで、何かでれでれして虫酸が走るほど甘ったるい雰囲気にどっぷりと浸かっていた。
ありえねえ!!! 
このオレがカスザメに触れたいがために、デコピンしてみたり、こちらを見て欲しいがために、髪をひっぱってみたり!!! 
おのれおのれおのれ、なぜ極上の娼婦のようになっていやがった!!!!!!  
中味はあいかわらず空っぽだったくせに、腕の中に抱き込むといい香りがして、手触りもよかった>
こいつのせいでオレは常に盛っていた!!!!  
頭が悪いので、誰かれなしにその気にさせていた!!!!
許せねえ!!!
 いらいらしたり、カッとした時は、とりあえずカスザメをボコるしかねえ!!!
ザンザスは、床に倒れているスクアーロを蹴った。
スクアーロはうめき、身体から炎が立ち上がらんばかりになっているザンザスを見上げた。
・・・やっぱりボスは怒っている。
オレなんかとあんなことになっていたのが、気にいらねえんだ。
オレはお前の「剣」だからなあ。
ザンザスはスクアーロを殴ったり蹴ったりしていたが、我に返って動きを止めた。
騒ぎをきいて駆けつけてきたルッスーリアが、顔を見せた。
「イヤーーーン、ボスってば、相変わらずバイオレンスで素敵ねえ!!!! 
おほほほほ、スクってば、血だらけでぼろぼろよーーーー」
ルッスーリアは素早くスクアーロを助け起こし、ケガの具合を見た。
鼻血が出ているが、鼻は折れていない。
痣は残りそうだが、内蔵までは痛んでいない感じだった。
スクアーロは、意識もはっきりしていない状態で、ぐったりしていた。
ザンザスは奇妙な表情で、血だらけのスクアーロを見下ろしている。
ボスってば、どうしていいか分からないのね!!! 
十年後は、ボスとスクはどうみても夫婦だったもの!!!!
十年後のボスはそれは色っぽくて、スクは婀っぽくて、もう無敵カップルだったわよねえ。
さすがヴァリアークオリティよーーーー!!!!!!
これから楽しみよだわ!!!!!

***********************************************************************************************
こんにちは、十年後の記憶。
ミルフィオーレとの戦いを知ったあたりの二人です。
とにかく動揺しまくっていると思います。



top