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「幻の海 → 王国の海 → 虹 」と続く話です。先に本編「王国の海」をお読みください。

 王国の海 番外編  
 



 

ゾロとサンジ王国を去った後の話
2年後




 
 
 
 
 
 

今年も桜の季節がやってきた。
王国の桜は今年も美しく咲きみだれていた。
明るい月の夜、
ナミはその桜の下である男を待っていた。
 
 
 
 
 

ナミは数々の情報文に目を通し続けていた。
最近、王を狙う不穏な動きは増し、
王子であっても安全ではない。
ルフィ王子の側近たちを狙う不穏な動きも増して来た。
最近のナミはルフィの必要とする情報を集め、
ルフィのために働いていた。
陰謀や暗殺に関する情報がほとんどだが、
それにまじり、真に欲する情報も得ることができた。
 
 
 
 

ゴールド・ロジャー王国は、
相変わらず繁栄を続けていた。
王は再び自ら外征に乗り出し、
新しい領地を次々に支配下にしており、
あまりこの地に留まることはなくなっていた。

現在、久しぶりに王は自分の館に帰ってきていた。
館に帰った王はどこに出かけるわけでもない。
何にも執着しない孤高の王。
人はみなそう思った。
野望だけが全てで、
そのためなら何も必要としないと。
花を愛でたり、
動物を愛でたりするのは、
われわれの王には似つかわしくない。
民たちはそう思っていた。
 
 
 
 

王の心は何一つ変わってないかのように見える。
どんな存在が通り過ぎても、
動かされない強さ。
それは、まるでこの桜の木のようでもある。
人々に畏敬され、
尊敬され、
彼らをひきつけて止まない絶対的な存在。

今年も桜の時期がやってきて、
王国の桜はたとえようもない美しい花を咲かせている。
それは、不変の存在だ。
 
 
 
 
 
 

最近、ルフィは大人になった。
今では、王と堂々と話ができるようになった。
あの事件は無駄ではなかった。
王の「愛人」に懸想していたルフィ。
愛人はある日、とつじょ姿を消し、
ルフィは「失恋」し、大人になった。
それを父である王と話できるほど、大人に育った。
 
 
 
 
 

木の下で待ちくたびれたナミは、
懐深くしまってあった手紙を手にとって、
幾度も読み返した文をながめた。

「ココヤシ村に見なれない緑頭の剣士と金髪の男があらわれ、
悪者を退治していった。
乱暴者だったが、
ココヤシ村の人々は救われた」

ナミはその情報文を書いた男を知っていた。
ナミは幼い頃は捨て子として育てられていた。
やがて、ナミの父が王となり、
かつて愛人に産ませた子どもを捜し始めた。
ナミはその男を父と思ったことはなかった。
ゴールド・ロジャーにほろぼされた、
にわか仕立ての王。
王女として育てられる前にナミは貧しい海ぞいの町にいた。
その時、そこにいた恩人の男だった。

ナミが書いた手紙の返事にはこう書かれていた。

「元気か、王女さま。
いや、ナっちゃんでいいんだったな。
ナっちゃん、あの二人は乱暴者だったが、いいやつらだった。
緑頭の剣士がゾロ、コックという金髪がサンジという名だ。
ナっちゃんの捜していた男たちに間違いない。
我々は礼をしようとしたんだが、
その前に、二人でどこかの町へ消えちまったようだ。
まさか、ナっちゃんがあの二人のどちらかに気があるなんてことはないとは思うが、
あいつらは止めといたほうがいい。
ケンカばかりしていたが、
あの二人はお互いを大切に思っていたから、
他のものの入るすきなんてないと思う。
それより、ナっちゃんさえ良ければ、
となり町にいい男がいるので紹介するので、
いつでも連絡をくれ」

ナミは読むたび涙が出そうになった。
「バカね、ゲンさん。
相変わらず、おせっかいなんだから」
 
 
 
 
 

手紙をルフィに見せたら、
じっと見て、
「そうか」
とだけ言った。
 
 
 
 
 
 

ゾロとサンジ君は元気でいるんだわ。
二人でずっと一緒にいるんだ。
きっと、きっと幸せになって、
もう二度と離ればなれにならない。

よかったね、サンジくん。
よかったね、ゾロ。
もう、大丈夫だ。
 
 
 
 
 
 
 
 

ずっとその木の下でいると、
黒装束の男が近づいてきた。
「お待たせしました」

「久しぶりね、ギン」
ナミはかすかにほほえんだ。
2年前の今日、
サンジはここから姿を消した。
ギンにも内緒で。
 
 
 
 
 
 

ナミは黙って、ゲンさんの手紙をギンに渡した。
うすぐらい月明かりの中、
ギンは懸命にその手紙を読んだ。

ナミはその手がふるえているのを見た。
その目に涙が光るのを見た。

この男は、
サンジを愛していた。
決して報われぬことを知りながら、
サンジからは何も求めず、
全身全霊でサンジを守っていた。

振り向いて欲しくないの?
自分のものにしたくないの?
常にそう思っていた。

サンジとともにギンも苦しんでいた。

ナミはそれに気づいていたが、
いたわりの言葉も、
なぐさめの言葉も、
はげましの言葉も、
何ひとつかけることはできなかった。

ギンには誰ひとりサンジのことでなぐさめるものもいないのだ。
今も、たった一人で生きている。
 
 
 

「良かった・・・」
ギンはぼそりと言った。
 
 
 
 

「あなたは、彼を手にいれたかったのでは?」
ナミはずっと聞きたかったことを聞いた。
ギンは今は、ゴールドロジャーの側近として働いている。
それで満足なの?
あなたの一番大切なものは、
ここにないというのに。
 
 
 
 
 

「オレが手にいれたら、
あの人を窒息させちまう。
サンジさんがいると、
オレは他のものが何も見えなくなるからだ。
だから、あの人は、
遠く離れて見える『虹』でいいんです」
 
 
 
 

ナミは沈黙した。
もう、サンジもゾロも手の届かないところに行ってしまった。
ならば、『虹』でいいのかもしれない。
 
 
 
 
 

ギンは静かに咲く桜を見上げた。

この木のもとで、
サンジさんとゾロは出会い、
愛しあい、
二人で手をとって、
この地から去った。

だが、サンジさんが苦しむ世界。
もうそれは見たくない。
 
 
 
 

ゾロを憎んだこともあった。
殺そうと思ったこともあった。

あんたのためなら、
燃えつきてもかまわないと思った。
だが、これでいいんだ。
全ては真実とともにある。

誰より高く、
あなたを思う。
輝きをあつめ、
想いのすべてをささげる。
 

いくら季節が流れても、
オレはあなたのことを思う。

叶わぬ願いは、
この胸からこぼれては落ちる。
時はかなでて、
思いはあふれる。
 
 

記憶の中の傷だらけのサンジさん。
それでも、想う。
あなたのことを。
いつも見てたから、
どんなことでも忘れることはない。
 
 
 
 
 

咲き乱れた花は雪のように大地にふりそそぐ。
そそがれた愛で癒されることができるなら、
しあわせはすぐに手に入る。
 

だが、どんな愛もサンジさんの心を癒すことはできなかった。
サンジさんは、
オレの愛など必要としてはいなかった。
王は、
間違いなくサンジさんを愛していた。
だけど、
サンジさんはそれも見ようとしなかった。
ルフィ王子も、サンジさんのことが好きだった。
誰もをおそれ、
誰からも逃げていたサンジさんが愛した、
たった一人の相手、
それがロロノア・ゾロだ。
 
 
 

誰も愛そうとしなかったサンジさんは、ここでロロノア・ゾロに出会った。
運命の相手。
いいことばかりではない。
それは嵐や雨の連続のようなものだ。
だが、二人はそれに耐え、こらえぬいた。
ただ相手のことを思うという、
純粋さだけで。
王は、サンジさんがゾロを好きで好きでたまらないことを知っていた。
そりゃ、ちょっと見てたら、
すぐに分かるほどだったからな。
だから、
王は、
サンジさんとゾロを見のがした。
そう、分かっていたのに見のがしたのだ。
ゴールド・ロジャーは大した男だ。
オレはこの王のもとでも働くことをほこりに思う。
 
 
 
 
 

分からないのか、
サンジさん。
あんたは、もう祝福されているんだ。
誰もが、
あんたたちを許し、
あんたたちが幸せになることを願っている。
 
 
 
 
 

いつかそれに気づくといい。
 
 
 
 
 

うつむいてばかりだったあんたは、
やっと前を向いて歩き出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

歩き出したその瞳へ、
終わらない未来をささげよう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

end
 



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