そこはゆらゆらゆれる船の上。
水面まばゆくゆれる季節。
「きみ、名前、なんていうの?」
「・・・さんじ」
「サンジちゃんか。いくつ」
「みっつ」
「このお船にずっと乗ってるの?」
「うん」
「おとうさんやおかあさんもこのお船?」
「ううん」
「ああ、こいつは親がいねえんだよ。それで、船長が拾ってさ」
「そうなの。こんなに小さいのにね」
「ガキだけど、こいつは結構お手伝いするしな。
そうだ、サンジ。マドモアゼルに料理もってきてさしあげな」
「りょうり?」
「何か作ってこいよ。お前の好きなもんでいいからよ」
「そうね。あたし何か食べたいわあ」
「うんっっっ。つくる」
「行きやがった。ガキがいちゃやることもできねえ」
「ふふ。そうね。でも、ほっといてもいいの?」
「いいんだよ」
ゆらゆらゆれる船の上。
ぬけるような青空。
雲がゆっくりと流れていく。
「おねーしゃん。りょうり」
「おねーしゃん」
「いっけない。寝ちゃってた。あれ、あの子じゃない。やだ、ホントに何か作ってる」
「じゃ、おれは仕事にもどるぜ」
「ちょっと・・・やるだけやって。ああもう。あんたとは別れてやる!!どいつも、こいつも・・・」
「おねーしゃん、いた」
「あ・・・ら。サンジちゃん、いたの。全然気づかなかったわ」
「はい、りょうり」
「あんた・・・いいわよ。食べるわよ。そんな気分じゃないけど」
「どしたの?」
「ごめん・・・おいしいわよ。あんたの料理。前の男との子供、あんたくらいの年なの・・・」
「あんた、いい子ね。わかんないよね。こんな話したって。あの子の代わりに抱きしめさせてね」
「いたいよ・・・」
「いつでも、後悔してた。あの子は元気かって。だけど、一度捨てた子供には会えない」
「おねーしゃん、おかーしゃんなの?」
「私、あんたのおかーしゃんならよかったのに・・・」
「さんじにはおかーしゃんはいません」
ゆらゆらゆれる水の記憶。
かすかな思い出の記憶。
なくならない記憶。
抱き締められた感覚が水の奥深くに沈む。
水面のはるか奥にひっそりと。