桜協奏曲
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

その島は、しずかで人の気配のないところだった。
ぽつんと離れた小島だから、
住んでいる島民もあまり多くないのだろう。
まったく人の気配がしない。

彼らはのんびりと島を歩いていた。
島全体が、公園のようになっていて、
あちこちに満開の桜の花が咲き乱れている。

風にふかれて、
はらはらと桜の花びらが散る。
それは雪のように、
空を舞い、
ふわりと地に落ちた。
ほのかにうす桃色の花びらは、
雪と違い冷たくはない。
だが、その木からは、
年に一度しか花びらが散ることはない。
桜の花吹雪はその瞬間にしか存在しない。
年に一度だけ、
それもその場にいるものしか見ることのできない桜。
 
 
 
 
 
 

「エッエッエッ、ドラムで見て以来だ。こんなきれいな桜」
チョッパーは感動を隠さずに花を見上げていた。
あの時の花吹雪に似ている。
けれど、あの桜はどんな桜とも違う。
年に一度ですらない。
生涯ただ一度の美しい花。
それをヒルルクは咲かしたのだ。
だから、あれ以上に美しい桜をチョッパーは知らない。

「だめだろ、チョッパー、忘れたのか?
去年は宴会したろ!!!」
ルフィはそう言いながらも、
すばやく周りに食い物がないかを捜していた。

「そうそう、木に登ってだな・・・。
このウソップ様は平気だったが、チョッパー、お前木から落ちたろ。
トナカイも木から落ちる・・・。
瀕死のトナカイを助けたのは、このキャプテンウソップ様だ!!!」
力説するウソップを残して、
他のクルーはどんどん歩いて行くのだが、
ウソップは気づかずしゃべり続けていた。

「まあ、きれいだわよね」
ナミはここでは金もうけができそうにないので、
ちょっとがっかりしていた。
「そうだわね」
冷静にロビンも答える。

「桜の下を歩くナミさんも素敵だーーーーーー!!!!!
ロビンちゃんも素敵だーーーーーーー!!!!」
サンジはハートをとばしながら、
うきうきと歩いている。

花見は好きだ。
去年は花見弁当を作って、
みんなで宴会をやった。
サンジは宴会が好きだ。
みんなが楽しそうだから。
みんなが幸せそうだから。

ゾロはその様子を見て、眉間にしわをよせた。
サンジがイベント好きなのは知っている。
花見だとか、キャンプファイアーだとか、
催し物があるとがぜん張り切る。
それはまだいい。
だが、このうかれっぷりはどうだ。
女どもには何ひとつ変化がないというのに、
サンジ一人がうかれている。
・・・何が素敵なんだ。
魔女みてえなナミと、
得体のしれねえロビン。
なんでここまでメロメロになれるのか・・・。
なんで毎度毎度こうアホ全開になるのか。
っていうか、
てめえは誰のもんなんだ。
オレのもんじゃねえのかよ。
オレの腕の中に入ってくるくせしやがって、
ふらふらと女ばかり見てやがる。
 
 
 
 
 
 
 

しばらく歩いていると、
公園のまん中に小さな茶店のようなものがあった。

「メシーーーーー!!!!!」
ルフィが転がるように駆け込んで行ったが、
そこには置き物のようなバアさんがいるだけだった。

「いやいや、何年ぶりの客じゃろうな。
ここには、だんごとか食べ物は置いておらんのじゃよ。
見たところ、この国のもんじゃないな、あんたら。
貸し衣裳でも着てみるかい、おじょうさん方」
「あら、着物ね。
着てみようかしら・・・」

「ロビンちゅわんも着ればいいのに。
絶対似合うはずです!!!!」
サンジはきらきらと目を輝かせて、
ナミの着替えを今か今かと待っていた。

ルフィはバアさんから借りた、「墨と筆」というものにすっかり夢中になっていた。

「・・・琴か」
ゾロはかたわらに置いてあった琴に目を止めた。
くいなが良く弾いていた。
確か「さくらさくら」という曲だった。

「おや、お前さん、琴を知っているのかい?
イーストブルーの楽器だが・・・」
バアさんの言葉に疑いを持たないチョッパーが反応した。
「弾けるのか!!!!ゾロ?」

「ほう・・・」
バアさんも間にうけた様子でゾロの方を見た。
ゾロは速攻で否定しようとした。

その時だ。
「へー、まさか『弾けねえ』なんて言わねえよな」
ナミを待ちくたびれたサンジが、
ゾロの方を見て意地悪い笑みを浮かべていた。

「ゾロ、弾けんのかーーーーー!!!!!
すごいぞ、その楽器はこの天才楽士ウソップ様でもなかなかの難易度で・・・」

「あら、イーストブルーでは武道とともに、
雅の道も鍛えるのではなくって?」
離れて本を読んでいたロビンまでが会話に加わり、
いつの間にか、ゾロが琴が弾けることになっている。

「すげえな、ゾロ!!!!
弾いてくれ!!!!!」
いつの間にか用意されていた敷物の上に座らされた。

ルフィは脇目もふらずに、
神に字を書いている。
『しかのアイス』
『しかの丸焼き』

目はちらちらとチョッパーを見ている。
昨夜、夜遅くまで薬を調合していたというチョッパーは、
ルフィの書いている字にも気づかず、
うとうととしはじめた。

いつの間にか眠ったトナカイを見て、
ゾロは横にあった座ぶとんを敷いてやった。
サンジはその様子を見て、ムっとした。
ゾロのやつ、
いつもチョッパーにばっかり親切にしやがって。
・・・オレにもちったあ、優しくしやがれ!!!!
だいたい、そのヘンな縞柄の服はなんだ?

いつもいつも修業ばっかしやがって、
飯食って酒飲むばかりで・・・。
レディみてえに、
キレイでもカワイクもねえくせに・・・。
マリモのくせに、オレの事見やがらねえのはどういうことだよ。
このナイスガイでビューティホーなオレ様が、
てめえの相手してやってもいいと思ってんのに、
知らんふりしやがって!!!!!
だから、オレだってつい、
つっかかるような事ばっかり言っちまう。
全部、マリモのせいだ。
悪いのはゾロだ。

ムカムカしながら、
ゾロの事を考えていたが、
着物を着てあらわれたナミを見た瞬間、
ゾロのことはサンジの意識からふっとんだ。
「ああっ、ナミさん!!!!!!!
なんて着物が似合うんだーーーーーー!!!!!
ナミさん好きだーーーーーー!!!!!
美の女神とは貴女のことだーーーー!!!!!」
ハート目でナミのほうにふらふらと寄って行くサンジを、
ナミは無感動に見た。
「サンジ君、邪魔」

「そんなナミさんも素敵だーーーーー!!!!」
相変わらずな二人を誰も相手にするものはいない。

ゾロはなんとなく琴を手にしたままで、
うかれていたサンジの事をじっと見ていたことに気づいた。
・・・いかん。
不本意だが、
クソコックに気をとられていた。
最近、こういうことが多い。
だから、あまり見ないようにしていたのだ。
気になってしょうがねえし、
あまり側にいすぎると、
いろいろシたくなってしまう。
それで、サンジには近寄らないようにしていたのだ。
そのせいで、サンジが不機嫌になっていることなど、
ゾロは全く気づいてはいなかった。

「なあ、ゾロ、弾いてくれよ」
ウソップが期待のまなざしでゾロを見ていた。

・・・・。
弾いたことねえ、こんなもん。
だが、くいなは簡単に弾いていた。
・・・なら、ちょいと弾いてみるか。

ゾロの心の中では『さくらさくら』のメロディーが流暢に流れていた。
たしか、右手はこうで、
左手を動かして・・・。

ゾロは弾いた。
ギュギュギュ。

ヘンな音が出た。
ん?
おかしい。
なんか、くいなの弾いてたのとは違う・・・。
そう思ったが、
また少し弾いてみた。
キュー。
ますますヘンな音が出た。

「ギャーハッハ!!!!!!
なんだよ、ソレ!!!!
それが曲かよ!!!!!」
サンジが膝をたたいて笑っていた。
ウソップも大笑いしていた。

・・・てめえ・・・、
笑うんじゃねえ。
ムカついて、また琴を弾いてみた。
ギューーー。
ますますヘンな音が出た。

「似合わねえ!!!!!!
まりもに風流は似合わねえ!!!!」
転がるほど大ウケのサンジにゾロはカチンときた。

「ああ、てめえ、うるせえぞ!!!!」

「ギャハハハ!!!!
今の音聞いたか?
ギューって・・・。
ギューって行ったぞ!!!」
笑い転げるサンジを見ていると、
ゾロはますますムカムカしてきた。

この野郎・・・、
もうカンベンしてやらねえ・・・。
ちっと痛え目に合わしてやる。
アホにはお仕置きが必要だ。

いきなりゾロは立ち上がると、
笑い続けるサンジを抱えて、
すたすたと歩き始めた。

「オイ!!!!
何しやがる!!!」
ばたばたと暴れるサンジを無視して、
ゾロはずんずんとルフィ達から離れて行く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ウソップは消えて行くゾロとサンジの様子をじっと見ていた。
・・・ゾロ、すげえ怒ってたよな。
あいつら、また暴れる気か?
あわわ、とばっちりは止めて欲しい。
オレは何も知らねえ。

「放っておきなさいよ」
ナミはちらりと消えていく二人の方を見てから、
何ごともない口調で言った。
・・・バカバカしい。
あいつらの痴話喧嘩にかかわったって、
ちっともお金にならないわよ。
まあ知らないふりしといて、
またお金もらってもいいわよね。
よし、これでお茶の立て方はかなり慣れてきたわ。
そのうちこの特技を生かして稼げるかもしれないから、
知識は多いほどいいものね。

ニコ・ロビンは再び読みかけの本に目を戻した。
あれで隠しているつもりなのかしら。
すごく分かりやすいわね、コックさんも剣士さんも。
ふふ。
静かなものね。
たまにしている暴れるケンカとは違うみたいね。

今頃は何をしているのかしら?

ここは特別な空間だから、
すこしハイになってもしようがない。
こんな雪のように桜の散る日はめったにないから、
すこしぐらい羽目を外しても許されるわよね。

桜がすべてを覆いかくしてくれる。
美しい思いも、
悲しい思いも。

争いも憎しみもいつかは消えるもの。
愛も喜びも同じなのかしら。

ひとつひとつ、
しずかに落ち、
重なる花びらは、
緑の地を桜色に染めあげる。

それは美しい喜びの瞬間。
今という奇蹟の瞬間に祝福を。
出会いも別れも、
自分では選ぶことができないから、
この瞬間、瞬間を感じるしかない。

潔く咲いて、
潔く散る花びら。

それは、まるで彼らの生き方のよう。
至福の瞬間は自らが掴みとるもの。
彼らはそれに向かって進んでいる。

夢はそれぞれの胸の中にある。
愛もそれぞれの胸の中にある。

桜吹雪の中、
私たちはそれぞれの夢を見る。
奇蹟を、
冒険を。
偉大なる歴史を。
隠された真実を。

夢は生きる力をくれる。
 
 
 
 
 
 
 
 

はらはらと散る桜の下、
ルフィは筆を動かし続けていた。
ナミは茶を入れ、
ウソップはそれを飲んだ。
チョッパーは眠り続け、
ロビンは時おり、彼らの様子をながめていた。

ゾロとサンジは、
桜吹雪の中、
互いの存在を確かめあった。
 
 
 
 
 
 
 
 

確かなものは手の中にある真実。

目に見える花びら。
あたたかい空気。
流れゆく風。

のばせば触れられる互いの存在。
 
 
 
 

花だけが全てを見ていた。
花だけが全てを知っている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

end
 
 


WJ269話「協奏曲」扉絵から妄想
ていうか、あまりにゾロサンだったのでつい・・・。
この後、ゾロサン裏編もヤるべきか?
ていうか、ゾロサン的にはそっちが本編て気もしないでもないですが、
別にいいか・・・とも。

クソショウセツ
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