桜二重奏
 


 
 

ZORO★SANJI
 
 
 
 
 
 
 

ゾロは目前のサンジの痴態に我を忘れた。
野望も、自制心も、信念すら消えた。

あるのはどろどろした欲望と、
身体を満たそうとする獣のような本性。

容赦なく残忍で、
情けをかけず、
目的を果たす。

人としての迷いや、甘さが抜け落ちた存在。
ひとはそれを魔獣とよんだ。
 

人がどう言おうと、オレには関係ねえことだ。
だが、このアホはオレをイライラさせる。

大切なはずなのに、
めちゃくちゃに陵辱してやりたい。
いつからオレはこんなケダモノになった?
サンジと出会ってからだ。
サンジに触れてから、こうなった。
自制心がどこかにふっとび、
欲望に突き動かされてしまう。
肉欲に支配され、
目の前の相手を無茶苦茶に犯してしまう。

ゾロは情動に支配され、
サンジの肢体を貪った。
いくらでも沸き起こる欲望。
精を放つたびに満たされる身体と、
広がっていく空洞の心。

傷つけたいわけじゃねえ。
オレのものにしたいだけだ。
ただ、オレだけのものに。
他の誰もが視界に入らないようにしたい。
それが苦痛や陵辱だなんて間違っている。
なのに、止められねえんだ。
サンジを目の前にすると、箍がはずれる。
 
 
 

春の日射しは、
やわらかくその地に降り注いでいた。
墨がひっくり返って、
大騒ぎになったナミとルフィとウソップにも、
眠るチョッパーにも、
本を読むロビンにも。

抱き合うゾロとサンジにも、
等しく光はふりそそぐ。
 
 
 
 

一瞬の桜の満開の時。
それは、あまりにもはかなく、
ひらひらと舞う花びらは、
サンジの肌に降りそそぐ。

その妖しの空間は、
ゾロの感覚をさらに過敏にした。
触れるものすべてが、
刺激になる。
目にうつるものすべてが、
快楽の要素となる。
 
 
 

サンジはすでに焦点を失ったとろんとした目つきで、
無防備に肢体を投げ出していた。
こいつはオレのものだ。
幾度となく抱いて、
幾度となく確認した。

もっとサンジの痴態が見たい。
まだ、足りねえんだ。

ゾロにはこの場所も、
時間も、
どうでもよかった。
ただ存在するのは目の前にいるサンジだけ。
浮遊する空間のなかで、淫らに抱き合えばそれでいい。

船では、思うままに抱くことができない。
ここでは、それができる。
秘められていた欲望があきらかになる。
秘められていた感情もあきらかになる。

なんで、コイツなんだ。
腰にさす刀が三本であるように、
サンジを抱くのがしっくりくる。
だったら、ぐちゃぐちゃ考えても仕方ねえ。
だが、こいつは刀とは違う。
ムカつくことばかり言うし、
勝手に動くし、女にはメロメロになるし、
どうしようもねえほどのアホだ。
常に、ふらふらして隙だらけだ。

こんだけ抱いて、
泣かせて、エキまみれにしても、
離れた瞬間に憎まれ口をききやがる。

オレあもう、待ちくたびれた。
てめえも、そろそろ観念しやがれ。
 
 
 
 
 
 

ゾロが我にかえると、
そこはしずかな空間がひろがっていた。

サンジはぐったりと身体の力を抜いて、
いつも強い光を帯びている瞳は閉じられていた。
こうして目を閉じて横たわっていると、
出来のいい精巧な人形のようだ。
 
 
 

・・・オイ、またヤりすぎちまったか?
こいつ意外に体力ねえよな。

サンジが体力がないわけではないのだが、
自分が常人離れしていることなど、
ゾロは考えもしない。

ゾロはそっとサンジに舞い落ちる花びらを払った。
邪魔だ。
やわらかな髪に、
頬に、
胸に、
降り注ぐ花びら。

ゾロはそれを無心に払いつづけた。
 
 
 
 

サンジは風のように肌にふれる、
あたたかいものを感じ、
身じろぎした。

かすかに目をあけると、
ゾロが真剣な顔でサンジを覗き込み、
すばやく手を動かしていた。

???

・・・何してんだ、まりものくせに。
 
 
 

ゾロは目をあけたサンジに気づいた。
ぼんやりとゾロを見上げるサンジ。
ゾロの動かしていた手が止まった。

無防備で、幼い子どものような姿。
この顔を見ることができるのは自分だけだ。

「てめえは他のやつに渡さねえ」

サンジはかすかな笑みをうかべ、ゾロにたずねた。
「邪魔するやつは?」

「斬る!!!」
何の迷いもないゾロの言葉。

ばっかじゃねえの。
オレには何億人という愛しのレディがいるのに。
ばっかじゃねえの。
クソ真剣な目しやがって。
敵と立ち向かうときのような、
まっすぐ迷いのねえ視線。
そんな目でみるな。

斬るだって?
てめえ、バカだよ。
・・・しょうがねえな。
あんまりてめえがバカだから、
オレがつきあってやるしかねえだろ。

「じゃ、邪魔されねえように、せいぜい修業するんだな」

「おう!!!」
自信満々のゾロの顔をサンジはじっと見つめた。
なんで、そんなに嬉しそうなんだよ。
ちぇ、しょうがねえよな。
この桜の花がいけねえんだ。
この花のせいで、
オレまでが、流されてもいいかって気になってる。

今だけの誓いかもしれねえのに。
いいや、ゾロは誓いを変えることはねえ。
約束バカだから。

そうさ、オレは恐いんだ。
ゾロに全てを変えられてしまうことが。
けどよ、もう変えられちまってるか。
身体も心も、ムカつくけど、ゾロを欲しがっている。

オレを離すな。
オレを愛してくれって、
ずっとずっと思っている。

サンジはゾロの胸に顔をうずめて、
小声でつぶやいた。
「・・・離すんじゃねえ」
耳まで赤くなっているサンジをゾロはそっと抱きしめた。

「約束する」
また一つ、新たな約束が増えた。
 
 
 
 
 

きっとこの約束は、
どれほど後になっても忘れることはないだろう。

桜の下で誓った真実。
これは幻なんかじゃない。

桜の季節がめぐり来るたびに、
思い出す誓い。
 
 
 
 

桜の花びらの下には、
秘められた真実が眠っている。
 
 
 
 
 
 
 

ナミとロビンは、いつまでたっても帰ってこないゾロとサンジを見つけ、
ため息をついた。

雪のように花びらをつもらせたまま、
抱き合って眠る二人。

「あらあら、お熱いことね」
ロビンの手が、しずかに二人を抱き上げた。
 
 
 
 
 

二人きりの時間は短い。
目覚めると、また戦いと冒険の日々が始まる。

夢を叶えるために、彼らは進む。

ゾロとサンジは眠りの中で、
果てしない夢を見る。
大剣豪の夢を、
オールブルーの夢を。
そして、お互いの夢を。
 
 
 
 
 
 
 
 

end


WJ269話「協奏曲」扉絵からの妄想・裏編
表の「桜協奏曲」のゾロサン編です。
 
 

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