「魔獣化ゾロの
起爆剤」

早川えむり


 
 
 
 
 
 

ロロノア・ゾロはいつものように甲板に寝転がっていた。
久しぶりに着いた陸にみな下りてしまい、
今、船に戻っているのはゾロ一人だった。

この島はあまり治安がよくない。
刀を研ぎに出たゾロはそう感じ、
妙な胸騒ぎを覚えた。
用のないゾロは、いつになくあっさりと船に戻り、
誰もいないゴーイングメリー号で昼寝をした。
 
 
 

何も起きるはずはねえ。
何も。
 
 
 
 

そのうち、ルフィとチョッパーが戻り、
ナミとロビンも無事に戻って来た。
だが、買い出しに行ったはずのサンジとウソップがいっこうに戻って来ない。
 
 
 

遅い。
本来ならとうに戻っていてもおかしくない。

ゾロはイライラした気分を押さえるため、
刀を抜いた。

刀を抜くということは、
ただの遊びや修業ではない。
ゾロは鍛練の時はめったに刀を抜かない。
戦いの時か、
真に精神を統一する時だけだ。

だが、何度か例外がある。
その中のひとつが、サンジだ。

サンジはくだらないことでゾロにからみ、
ムカつくことばかり言う。
あまりに腹がたつので、
サンジに対して剣を抜いたことが何度か会った。

斬ってやる。
本当に斬ることなどできないのに、
あの男を時々斬りたいと思う。

気にいらない存在であったはずなのに、
いつの間にかサンジはゾロの心の中まで深く入り込み、
自分は絶対にサンジを斬ることはできないだろうということに、
ゾロは気づいていた。

ゾロに見せる生意気な顔、
女たちに見せる惚けた顔、
敵にみせる憎たらしい顔、
チョッパーやウソップに見せる親しみのこもった顔。
サンジはいろいろな顔を持っている。
明るく社交的なコックは、
どんな船に乗っても、どんなレストランに行っても十分やっていけるだろう。
そのうちに、サンジの料理には
料理以外の思いやりのようなものがたくさん入っていることに気づいた。

ナミのための料理、
ロビンのための料理、
チョッパーのための料理。
ルフィは肉さえ出せば大喜びだが、
サンジはゾロのためにもいろいろと工夫した料理を持って来る。
もうゾロが忘れてしまったような郷土料理を必死に作って来たりする。
サンジはその気持ちもすごいのだが、
実際に味もいい。
 
 
 
 
 

ゾロは陸にあがって食べる料理より、
ずっとサンジのメシの方がうまいと思っていた。
ある日、
ある島のメシ屋で、何気なく、
「てめえのメシの方がうまい」
と言った。

するとサンジはぽかんとした顔をして、
それから実に嬉しそうに笑った。

ゾロはその笑顔に見愡れた。

それから、ゾロは時々サンジの様子を見てしまうようになった。
そして、幾度となくサンジに見愡れた。
ゾロが見愡れてしまうのは、
ふとした時にみせるひっそりとした笑みだったり、
料理を作るときの幸せそうな表情だったりした。

それが特別な感情であることにそのうち気づいたが、
ゾロとサンジの距離は変わらなかった。
あいかわらずケンカをし、
ののしりあった。

ゾロとサンジはまったく正確も行動も違って、
かみあわないことばかりだ。
なのに、どうしてこんなに惹かれるのか。
どうしてこんなに気になってしまうのか。

ゾロはサンジのせいで自分の気持ちが揺れて、
安定しないということに気づいていた。
サンジの存在は自分にとっては危険だ。
危険だけれどもはや目をそらしたり、見てみぬ振りをしたりすることはできない。
 
 
 
 
 

ゾロが剣を振っていると、
誰かが物凄い勢いで近づいてきた。
 

「大変だ、サンジが!!!!!!」
ウソップが泣きながらメリー号に走りこんできた。

「女子どもをかばって!!!!」

それ以上ウソップの言葉を全部聞かなくても、
だいたいのことは想像できた。

ゾロはウソップをかつぐと、
急いで走り出した。
 
 
 
 

バカが。
てめえは、
いつだって隙だらけだ。

女には無条件にかしずいて、
心を許した人間はとことん信じる。

強いケリを持ってるし、
ちょっとやそっとじゃどうこうできるタマじゃねえ。
外見だけ見てサンジをなめるやつは、
必ず地に叩き付けられて、
認識をあらためる。

なのに、危なっかしい。
だいたい弱点が多すぎる。
女にゃからきし弱いし、
虫も駄目だってんだからな。

さぞかし、あのレストランで大事にされたらしい。
あのおっさんに大事に守られていたんだろう。

くそっ!!!
なんで、
オレはついて行かなかった。

オレが守らねえで、
誰が守るんだ。
てめえ一人守れねえで、
何が大剣豪だ?
 
 
 
 

ゾロは走り続けた。
目的の地まではかなり距離があったが、
時がもどかしく感じられた。

ゾロは血のにおいをかいだ。
そこか!!!!

男たちがとりかこむ中、
血だらけのサンジが倒れていた。

ゾロはウソップを投げ捨て、
サンジの身体を起こした。

「・・・てめえ、もっとやさしくできねェのかよ・・・」
青ざめた顔ながらも、サンジがうっすらと目を開けた。

ゾロは安堵するとともに、
サンジをとりかこんでいた男たちに激しい怒りを感じた。
 
 
 
 
 

刀を抜き、
ゆらりと立ち上がった。
 
 
 
 

「てめえら、許さねえ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 
 
 

ゾロは刀を抜くと、
腕にまいていたバンダナを頭に巻き付けた。

「ひぃいいっ、こいつ、まさか!!!!」
「黒いバンダナ、三本の刀・・・・、魔獣ゾロだぁぁぁあ!!!!!」
叫んだ男はその瞬間、腕を切られて転がった。

「ぎゃああああ」
逃げようとする男たちに次々と太刀が浴びせられてゆく。

魔獣化したゾロを中心に、
血の海が広がって行く。

そこは人の領域ではなかった。
近づく者は全て死ぬ。
生き残るのはロロノア・ゾロただ一人。

逃げる者は容赦なく太刀を浴びせられ、
勇気を出してゾロに剣を向ける者は瞬殺された。

ひたひたと流れる血は魔獣の世界を広げていく。
それは真っ赤に染まった修羅の世界だった。
 
 
 
 
 

「あわわわわわわわ」
ウソップはあまりのすざまじさに腰を抜かし、
じりじりとあとずさった。

ゾロの戦いは何度か見たことがあったが、
ここまで凄まじいのはなかった。

男たちの血飛沫を浴び、
赤く染まったゾロはもはや人には見えなかった。
獣と化したゾロは、
何も聞こえず何も見えてないようだった。
 
 
 
 
 

「もう、止せ」
 
 
 
 
 

成りゆきを見守っていたサンジが声をかけると、
ゾロの剣がぴたりと止まった。

男たちの誰もがもう反撃しようとする気も持っていなかった。
これ以上の殺戮はただの虐殺でしかない。
 
 
 
 

ゾロは刀を鞘にしまうと、
そっとサンジを抱き上げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 

えむりさんのサイト「えむりんルーム」で2000を踏み、
すかさず申告し、
ステキイラストをいただきました。
 
 
 
 

絶対、「てめえら許さねえ」とか言ってると思ったので、
ゾロ魔獣化文を捏造。
起爆剤は同時に鎮静剤でもあるということで。
 
 
 

サンジが何されてボロボロになってるかは御想像にお任せします。



 
 
 

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