匣兵器の憂鬱

(続・大漁丸の悲劇・アーロ視点)
標的235「修業開始」より


その匣兵器の凶暴な鮫に「アーロ」という名をつけたのは、主であるスペルビ・スクアーロだ。
主スクアーロは、アーロから見ても、強くて凶暴で美しかった。
その強さでアーロを制したが、同じ隊服を着た隊員達ですら恐れ怯えるアーロに「かわいいなぁ」とか「かっこいいぜぇ」という言葉をかけてくれ、なでてくれたりする。
その主の上司の名はザンザスと言う。
とてつもなく強い男であることは、アーロが最初に会った時から分かっていた。
最初は、ザンザスは主スクアーロの敵なのかと思っていた。
ヴァリアーのボスであるというその男は、主スクアーロにものを投げつけ、殴り、髪をひっぱり好き放題していた。
ザンザスの匣兵器はベスターという強いライガーだ。
アーロは敗北すら覚悟して戦うべきかと思ったが、主スクアーロがそれを止めた。
主が受け入れているのならしょうがない。
そのうちに、ザンザスが主スクアーロにいろいろするのは日常茶飯事であり、
大けがやキズが残ったりしないように手加減をしているということに気づいて来た。
ザンザスが主スクアーロにするのは、殴る蹴るだけでなく、昼間っから部屋にこもってつがっている時もある。
どうやらザンザスは主スクアーロをメス代わりにしているようで、主もそれを受け入れているようだ。
もともとオス同士なので、単なる快楽行為としか思えないのだが、ザンザスは主スクアーロとしょっちゅうそれをしている。
主はそんなことばかりしているせいで、他のオスにも狙われやすくなっているのに、本人はまったく気づいていない。
「オレの身は自分で守れるぜぇ!! オレは二代目剣帝だからなぁ!!」
酔うとそう大声でわめくが、その時すでに隙だらけで、「ザンザス所有」だから無事でいられることにはまるっきり気づいていない。
ザンザスはいつかアーロに、「このバカカスザメを守れ」と言った。
言われなくても、守るつもりだが、ちゃんと主スクアーロの心配をしていると分かって、アーロも安心した。
普段はクソミソカス扱いだが、つがった後で、主スクアーロの意識がない時など、あのザンザスがそっと銀の髪を撫でていたりするので、実は大事に思っていることはベスターもアーロも知っている。
だが、肝心の主スクアーロはそれに気づいていない。

今回日本までアーロに乗って行くと言い出した時は、さすがのアーロも驚いたが、
主スクアーロがあまりにうれしそうなのでがんばることにした。
途中で台風の雷雨に会ったときはどうなることかと思ったが、うまいぐあいに大漁丸という船が近くにおり、
主スクアーロとアーロはそこで休むことができた。
主スクアーロは、弱そうな船員たちですら食い入るように見つめていることに全く気づかず、若造の前で寝顔を見せていた。
アーロが威嚇していなかったら、何かされているかもしれない。
海に出る前、主はザンザスとつがいの行為をしてきたばかりのようで、けだるげな様子だった。
漁船の男たちが反応するのも無理はなかった。
その船は運良くまぐろ漁船で、アーロは倉庫にあった新鮮なまぐろをすべて食べつくし、日本に向かうことにした。
日本には、「ヤマモトタケシ」と「ハネウマディーノ」がいる。
ザンザスが特に敵視している二人なのだ。
ヤマモトは子ども返りをしているようだが、それでも油断できない。
ディーノはいつでも主スクアーロにアタックしている。
ザンザス不在の今、主スクアーロを守るのはアーロだけなのだ。
あの二人は、いつでも、アーロが外に出ている時は、うまく言ってアーロを匣の中にしまわせようとしている。
主スクアーロは、その不穏な空気に驚くほど気づかない。
ずっと威嚇し続けるのも憂鬱だが、もし何かあっても困る。
主スクアーロは、ヤマモトもディーノも気に入っているので、油断は禁物だ。
浮気が発覚すれば、間違いなくアーロはザンザスにかっ消されてしまう。
そうならないように威嚇し続けるしかない。
こんなことをなぜしなければならないのか憂鬱に思うが、
主スクアーロの銀の髪や白い肌に触れることができるのはザンザスとアーロだけだということは、誇りに思うのだ。




モドル