はじめてのクリスマスプレゼント
 
 
 
 

ZORO × SANJI
 
 
 
 
 
 
 

ゴーイングメリー号は順調に航海を続けていた。
数々の冒険を続け、
せわしない日が続いていが、
ここのところは何もなく、みなのんびりと過していた。
それぞれに変わらない毎日を過しているようだった。

だが、その中で一人、あやしい動きをしているやつがいた。
サンジだ。
ゾロはサンジがあたりをうかがうようにして、
こそこそ何かをしていることに気づいていた。
いや、ゾロだけではない。
ナミやロビンはとっくに気づいているだろう。

カレンダーの日付けを見ると、
今日は12月24日だ。

・・・きっとあれだな。
クリスマスだろ・・・。

あいつはイベントが好きで、誕生日のたびに気合いを入れた料理をつくる。
ウソップの時も、
ルフィの時も、
ナミの時も、
オレの時も、そうだった。

なんとかいう神が生まれた日らしい。
オレはそういうことには興味がねえ。
神の生まれた日のどこがめでてえんだっていいたいが、
あのアホはきっかけさえあればいいらしい。
ルフィやウソップもそっちのほうだから、
明日は宴会でもするのだろう。

ゾロはそれがおもしろくなかった。
宴会は嫌いじゃねえ。
酒も好きだし、
豪勢な料理がでるのもいい。

だが、許せねえことがある。
そういうイベント日の前になると必ずサンジが言うのだ。
「今晩は忙しいから、てめえの相手はできねえ」、と。

ゾロとサンジは一応、
なんというか恋人同士のようなものだ。
最初は酔っ払って、そういう関係になったが、
何度もくりかえしているうち、ゾロは気づいた。
オレはどうやらサンジのことが好きらしい。

ことあるごとに言い争い、ケンカになるが、
それなのに気になってしようがない。

憎まれ口をききながらも、
気づくと側にいて、
他のやつとは絶対にしないようなことをしている。

もっと側にいてえのに、
サンジは違うのか?

サンジはネコみたいなやつで、
追えば逃げるし、
逃げているかと思うと、急にすりよってきて甘える。

今日もヤろうと思ったが、
どうやら逃げられたようだ。
よっぽど準備がしたいのだろう。
普段ならゾロには飲ませない高価な酒を特別に出して来たくらいだ。

ちっ、しょうがねえな。
ゾロはいつになく眠れず、
おき出してデッキの方に向かった。
男部屋のクルーはもう全員寝静まっているが、
サンジだけは戻ってこない。

ゾロはキッチンにまだ明かりがついているのを見て、
ため息をついた。
もう25日になる時間だ。
いったい、いつまで・・・。

そっとキッチンを覗き込んで、
ゾロは驚いた。

サンジは真面目な顔をして、
真っ赤な服を着ていた。
袖や首のあたりには白いもこもこしたものがついている。
同じく赤い帽子をかぶると、
ポケットからとりだした、
白いものをあごにつけた。

・・・なんだ、こりゃ・・・、
いや、サンタクロースだ。
よく店先でこんな服装をして商品を売っているところを見かけたが・・・。
サンタクロースのひげは、白くてふさふさしたやつだろ・・・。
なんであいつのつけているのは、
リボンをつけた三つ編みなんだ・・・。
まるでありゃ、バラティエのおっさんのヒゲじゃねえか・・・。
 
 
 
 
 
 
 

あぜんとつったったまま様子を伺うゾロに気づきもせず、
サンジは嬉しそうな顔をして、
ヒゲをなでた。

クソジジイのヒゲだ。
これがオレにとって、最高のサンタのヒゲなんだ。

チョッパーは一度もプレゼントをもらったことがないって言ってたから、
オレがサンタになって、
チョッパーにプレゼントをやるんだ。
欲しがっていた、めずらしい薬草をこっそり買っておいたからな。
ナミさんには宝石、
ロビンちゃんには資料をしまえるしゃれた箱、
ウソップには工具、
ルフィには肉、
そしてゾロには・・・。

そう考えた時、
窓の外にいるゾロと目が合った。
 
 

うおっ、
何のぞいてやがんだよ!!
しまった!!!!!
見られちまった!!!!!
オレがサンタだってことがバレちまった!!!!
 
 

サンジはものすごい勢いでキッチンのドアを開けると、
中にゾロをひきずりこんだ。

「やい、てめえ!!!!
ことわりもなく覗くんじゃねえ!!!!
・・・あ、いや、
サンジはどこかに行った。
オレはサンタクロースだ!!!!!」

ゾロのシャツをつかみ、
兇悪な表情で言うサンジにどう返答していいか分からず、ゾロは無言のままだった。
 
 
 
 

・・・あれ、もしかして、ゾロの奴、オレだと気がついてねえのか?
サンタクロースそのものの服に、
ヒゲもばっちりだもんな。
そこの袋にはプレゼントも入ってるし・・・。
そうか、アホだからわからねえんだ。

「ロロノア・ゾロ君、オレ・・・いや、わしはサンタクロースなんじゃあ・・・」
突然、語り口調になったサンジにゾロは汗を流した。

アホだ・・・。
なんちゅうアホだ・・・。
帽子かぶってたって、目立つ金髪と巻眉見えてるっつうの・・・。

「良い子のみんなにプレゼントを持って来たのじゃ。
だが、わしに会った事は内緒じゃ。
サンタクロースがここに来たことを知った以上、
共犯なのだ!!
誰かに行ったら最後・・・、
てめえは二度と・・・、
あ・・いや・・・ゾロ君は二度と夜食に酒を飲む事ができなくなるだろう」

・・・あァ?
共犯って・・・。
てめえ、いいことしてんだろ。
けど、酒くれねえのは困るな。
 
 
 

「ならば、わしはしばし贈り物をとどけてくるので、
ここで大人しく待っているように。
そうそう、君へのプレゼントはこれのようだ!!!
ちゃんと『ロロノア・まりも・ゾロ君へ』って書いてある。
ミドルネームも入ってるぞ」
そういうと、巻眉のサンタはゾロに包みを押し付けた。

・・・何がミドルネームだ・・・。
こんなの書くやつは世界広しといえど、一人しかいねえだろよ・・・。
ゾロは激しく脱力した。
 
 
 
 

「それでは、さらばまりも君、
今見た事は夢だから、
この記憶は3秒後に自動的に消滅する!!!」
そう言うと、巻眉のサンタはあわててキッチンを出ていった。

・・・バレバレだっての。
ちらりと見えた袋には『ナミさんへ』『ロビンちゃんへ』と書いてあったのだ。
どうせ置くのも、
女部屋の廊下かなんかだろうに・・・。

アホだな・・・。
そう思いながら、
ゾロは包みをあけた。
それにはこの前の島で見つけたものの、
高くて買えなかった地酒が入っていた。

・・・あのアホ・・・、
奮発しやがって・・・。

サンジはいつだってそうだ。
自分のためでなく、人のために一生懸命になる。
それでいて、まったく見返りを求めない。
 
 
 
 
 
 

ゾロはプレゼントなど欲しくはなかった。
いつもいらないと言っていた。
だが、ここに無理矢理おしつけられた初めてのクリスマスプレゼントがある。

酒は好きだ。
だから、嬉しい。

だが、それ以上に、あのアホを可愛く感じる。
チョッパーのために、懸命になって考えついたのだろう。
必死でごまかそうとしやがって・・・。

アホだな。
アホだ。

でも、愛しい。
すげえ愛しい。

ゾロはサンジが選んだ酒をじっと見つめた。
オレはこれを大切にする。
この酒を味わって飲む。
そして、サンジを大切にする。

あいつを守れるように、もっともっと強くなる。
ゾロはサンジに何がやれるか考えた。
自分は何一つ準備などしていない。
だけど、あいつに何かやりたい。

考えたら、心の中はサンジでいっぱいになった。
他に何も入るすきまがないほど誰かを思うのは初めてだった。

ゾロは考えながら、サンジが帰ってくるのを待った。
 
 
 
 
 
 

サンジはこっそりとあたりを見回しながら、
プレゼントをくばっていた。

サンタの衣装を着てるから、
もし見つかっても分かるはずがねえ。
ガキのころ、オレもだまされたもんさ。
ジジイがわざわざサンタの服を着てオレにプレゼントをくれるはずがねえと、
かたくなに信じていたからな。

でも、嬉しかったな。
初めてのプレゼント。
ジジイからもらったものは全部とってある。
形のあるものは大事に使い、
形のないものは心の中に忘れずに持ち続けてる。

だから、今度はオレがやるんだ。
だってオレはもうプレゼントはもらってる。
バラティエでジジイから、
これ以上はない贈り物をもらってるから。
 
 
 
 

サンジは女部屋の廊下にナミとロビンのプレゼントを置いた。
それから男部屋に行き、プレゼントをハンモックの頭元に置くと、
サンタの服をかくした。
寝ようかと思ったが、気になって、
キッチンのゾロの様子をこそこそとのぞきにいった。

ゾロはまだ酒を飲んでいなかった。
じっと酒瓶を手にして、
サンジがはじめて見るくらい幸せそうな顔をしていた。

それを見ると、
サンジは胸が熱くなった。
・・・よかった・・・。
ゾロの奴、すげえ嬉しそうだ。

へへへ、やっぱりあの酒にしといてよかったぜ。
 
 
 
 

じーっと覗いていると、
ゾロに気づかれた。
入って来いというように、
手招きされ、
サンジは躊躇した。
・・・でも、知らんふりすりゃいいか。
さっきも気づいてねえみてえだったし・・・。
 

「飲むか」
ゾロはそう言うと、その酒を開けた。

「・・・そ・・・その酒は何かなぁ?
オレは見た事ねえけど・・・。
って、その包みは何だ?
なになに・・・『ロロノア・まりも・ゾロ君へ』だって?
うおっ・・・サンタさんが来たのか!!!
すげえな、ゾロ!!!
サンタさんは、良い子のとこにしか来ねえんだぞ!!!」

べらべらと喋るサンジは急にゾロに抱きしめられた。
・・・えっ、何?
 
 
 
 

「酒、ありがとよ。
けど、オレぁ、てめえにやるもんがねえ・・・。
てめえが喜ぶもんが何かも分からねえ・・・。
オレに分かるのは、
てめえに惚れてるってことだけだ。
てめえを離したくねえってことだけだ。
オレもてめえに何かプレゼントやりてえけどよ、
何か欲しいものあるか?」
ゾロはぎゅうっとサンジを抱きしめた。

これは誓い。
これは約束。
もっとてめえに近づきたい。
もっとオレの側にいて欲しい。
 
 
 
 

サンジはゾロの言葉に涙が出そうになった。
オレはゾロが好き。
ゾロもオレが好き。

不器用で一途で口下手な剣士。
メシを食ってもうまいとも言わねえ。
オレを抱いても好きだとも言わねえ。

そりゃ、いつも言ってくれるなんて思ってねえ。
けど、たまには言って欲しい。
ナミさんやルフィはいつもオレの料理がうまいって言ってくれる。
オレは、ゾロに言って欲しいんだ。
けど、無理に言わせるのは間違ってるよな。
いつかきちんと言ってくれるよな。
今、オレに惚れてるだの、離したくねえだの言ったように・・・。

もう何度もヤってるけど、
初めて言われた。
すげえすげえ恥ずかしくて、
すげえ嬉しい。

だっててめえの言葉にはウソはねえから。
アホみてえに思ってることしか言えねえって知ってるから。
 
 
 
 

ゾロ、オレももらったよ。
クリスマスのプレゼント。
それはてめえの『心』。
こればっかりは、どんなに求めても手に入らないものだ。
これって、てめえがオレにくれた初めてのクリスマスプレゼントだよな。
 
 
 
 

「なあ、しようぜ」
二人はどちらからともなくキスをした。
やがてキッチンの明かりは消え、
すべては闇の中に隠された。

ゾロとサンジが二人ですごす、初めてのクリスマス。
それは幸せに満ちていた。
 
 
 
 

星の落ちてきそうな美しい夜空がしずかにメリー号を見守っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

その頃、バラティエではやっとクリスマスの仕込みを終え、
みなが仕事を終えていた。

「野郎ども!!! 今日はここまでだ!!!」
ゼフの言葉に、コックたちは眠い目をこすりながら解散した。

パティとカルネは自室に消えていくゼフの後ろ姿を見送った。
「オーナー、寂しそうだよな」
「そりゃ、この日には毎年サンジのためにサンタの格好までして、プレゼントやっていたからな」

バラティエのコックたちはみな、知っていたけれど、口に出さなかった。

幼いサンジがサンタからプレゼントをもらって、
どれほど有頂天になっていたか。

そのうち、サンタがゼフだということを知り、
どれほど一生懸命に、
『サンタさんへ』のお返しのプレゼントを作っていたか。

口喧嘩をして、ののしりあって、
「出ていってやる!!」
と言った小さなサンジに送られたのが、
ゼフの最初のプレゼントのバッグだった。
 
 
 
 

「ありゃ、泣けたよな。
サンジはあのバッグに入るものだけを持ってバラティエを出たもんな」

「オーナーも、サンジがお返しに枕元に置いていたものは全部まだ持ってるよな。
オーナーが時々している、
あのすりきれたヒゲのリボン、
あれがサンジが最初に小遣いで買った『サンタさんへ』のプレゼントだなよ」

パティとカルネは明かりの消えた厨房を見た。
もう、ここにはサンジはいないけれど、
ありありとその姿を思いだす。

サンジを連れ出して行った、
麦わらの少年と剣士の手配書は厨房の片隅にひっそりと貼ってある。
一億ベリーと六千ベリー。
あいつらはただ者じゃなかったんだ。
 
 
 
 
 

噂に伝え聞く、麦わら海賊団の冒険と武勇伝。
オーナーはそれを聞くと、すこし満足そうだ。
サンジのことはほとんど分からない。
いずれ、手配書が出回る時が来るのだろうか。

それが待ち遠しくもあり、
心配でもある。

だけど、あいつが幸せなら、それでいいんだ。
オレ達もそうだし、
何より、オーナーゼフがそう思ってる。
 
 
 
 

知ってるか、サンジ?
オーナーはお前のために、
今年も小さなケーキを焼いていたぞ。
 
 
 
 

お前がいないのは分かってるけれど、
心の中にはちゃんと存在しつづけている。
 
 
 

だから、いつかここに帰って来い。
オレたちは待っているから。
 
 
 

夢を叶えて、笑顔で帰ってくることを。
 
 
 
 
 
 
 

Merry   X'mas
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



20031224
バラティエとメリー号とすべての人々の幸せを祈って

クソショウセツ
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