「山本武、お前うまくいったみてーだな」
(標的240より)



並盛神社、11時50分。
ツナたちは不安な気持ちでまだ来ていない山本と雲雀を待っていた。
突然、上空にどす黒い雲がうずまき、そこに巨大な白蘭の顔が浮かび上がった。
白蘭はイクスバーナーの二十倍のパワーの炎圧を要求してきた。
目から光線が出し、北山の方が破壊したあと、楽しそうに笑うその姿はまともな感情を持ち合わせていないように見えた。
「たしかに世界を恐怖で支配する素質アリってとこだな・・・」
リボーンはつぶやいた。残された時間はわずかしかない。
誰もが不安になり、約束の十二時まであと少しになったとき、学生服の雲雀恭弥と、着流しで刀を手にした山本武があらわれた。
「よっ、待たせたな」
山本は、包帯を顔にも手にも巻いていたが、実にうれしそうだった。
修業を失敗した可能性もあって遅れているのかと思ったが、どうみてもそうではなさそうだった。
百万フィアンマポルテージをオーバーして、戦いの場に向かう途中、リボーンは山本に近寄った。
「山本武、お前、うまくいったみてーだな」
「ああ。すげーことになった」
山本は、心から満足げな笑みをうかべた。
「その包帯、だいじょーぶか?」
リボーンが言うと、山本はどこか遠い目をした。
「包帯も巻いてくれるなんて、すげー親切なのな」
ツナの不安そうな表情や、獄寺のぴりぴりした雰囲気とは明らかにかけ離れている。
山本武の脳内では、ここ数日間のスクアーロとの夢のような日々が思い起こされていた。
怒っている顔もよかった。いらいらしている顔もよかった。山本を心配してくれる顔はもっとよかった。
でもなんといっても一番よかったのは、褒美をくれたときの顔だ。
あんないいものがあるとは思わなかった。
あんな気持ちのいいことがあるとは知らなかった。
野球がこの世の中で一番好きだと思っていたが、もっともっと好きなものができた。
口ではクソミソカスよばわりしながら、スクアーロはやさしかった。
包帯だって、痛いというといくらでも巻いてくれた。
文句を言いながら、その白い顔を近づけて真剣に巻いてくれた。
長くてさらさらした髪がときおり山本に流れ落ち、山本はまばたきもできずそれをながめた。
スクアーロが側にいるだけで、天にものぼる心地になった。
ずうっと巻いていて欲しかったが、そういうわけにはいかない。
スクアーロに教えてもらったから、勝てる。
負けることなど考えられない。
ふがいない山本のために、スクアーロはすべてを見せてくれた。
強くならなければ。
スクアーロが誰のものかは知っているけれど、だからって簡単にあきらめることなどできない。
どれだけ分が悪くてもあきらめてはいけない。
九回二死ツーストライクと追い込まれていても、次で打てばいい。
打席に立てる以上、可能性はあるのだ。
だから、強くてスクアーロがちゃんと振り向いてくれる男になって、勝負するんだ。
あのザンザスが相手なら、相手にとって不足はない。
まずはこの勝負に勝つことだ。
十年後のスクアーロに、もう一度会えるかどうかは分からない。
だから、山本はすべての気持ちを剣にたくして戦う。
あの美しい人を誰よりも誇りに思うから。




モドル