* BACK *

パズル




 「!」

 廊下で呼びとめられ振り向くと、そこにはおまえが立っていた。後ろ手に何か持っている。なんだろうと背後をうかがうより先に、おまえの手が前に回り小さなリボンのついた包みが目の前に現れた。

 「ハイ、これ! プレゼント!!」

 そう言って手渡されたものを促されるままに開封する。中身は仔猫のジグソーパズル。
 そうか…今日は俺の…。

 「……サンキュ」

 短く礼を言い、好みの物だと伝えると、おまえはとても嬉しそうに笑った。その笑顔を見た俺はどんな顔をしているのだろう…。

*  *  *


 今日はとくに撮影も入っていないので、俺は授業が終わると真っ直ぐ帰宅した。部屋に入り、適当に鞄を下ろし着替える。そして、あの後もう一度おまえが包みなおしたプレゼントを持ち、ソファを背もたれにするように床に座った。
 横から、上から、斜めから……。あらゆる角度から眺める。
 どんなに綺麗に包みなおそうとしても、不恰好になるのは仕方ない。それなのにおまえは何度も一生懸命に包みなおしてくれた。その様を思い出すと、自然と口元に笑いが浮かぶ。

 「……不器用」

 包装紙の浮いた部分を見付け、思わず漏れる言葉。いつもと違う自分の声音に、少し驚いた。

 高等部に進んでおまえと会うまでの俺は、こんなに穏やかな気持ちで過ごした事があっただろうか。学校に行き、授業を受け、頼まれればモデルの仕事をして家に帰る。その繰り返し。変化のない毎日が、ただ年月となって積み重なって行っただけ。それに不満を感じた事もなかった。

 でも……今は……。

 あの頃と少しも変わらない笑顔が、凍り付いていた俺の感情を融かしだす。おまえが俺に笑いかけるたび、俺は昔の俺に近づいて行く。それがとてもくすぐったくて…嬉しい。

 包みをもう一度開けようとして…その手を止める。

 「……このままで……いいか」

 そう思い、立ち上がって机の上に置く。こうすればいつでも今日のおまえを思い出せる。

 そして、いつか。この部屋がおまえの笑顔で溢れたら。

 そうしたらもう一度これを開けよう。おまえと一緒に。



* END *

珪くんお誕生日おめでとうSSです。
ゲーム中で『開けてみて!』と言う主人公を見て
この後どうするんだろう…。と思ったので書いてみました。
どうやらこのパズルは完成を見ないみたいですね、1年ぐらい (笑)
だって、珪くんの家に主人公が呼ばれるようになるには…まだまだ…。
頑張れ、主人公 (笑)

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