"piacere"の不思議

 piacere:piaccio,piaci,piace,piacciamo,piacete,piacciono;不規則自動詞
 piacere,意味は「〜にお気に入りである」,辞書上の説明では英語のpleaseと同意の動詞とされています。しかし,その使い方はpleaseと大きく異なります。piacereのイタリア語での主な使われ方はpleaseよりもlikeに近いものがあり,「誰々は…が好きです」と言う意味の文でよく使われるのです。
 しかし,piacereを使う時,意味は前述の通りですが,文の構造上主語は「…」になる事に注意しなければなりません。
 つまり,「私はスパゲッティが好きです」と言うのをpiacereを使って表現する時は“Mi piacciono gli spaghetti.(I)”(主語+動詞+目的語の順にすると,“Gli spaghetti piacciono a me.(II)”)となります。このイタリア語を直訳すると「スパゲッティは私にお気に入りです」となります。
 ちなみに,英語だと“I like spaghetti.”となります。pleaseを使った時には“Spaghetti pleases me.”とでもなるでしょうか? (英語ではspaghettiが不可算名詞だからこうなるんだろうけど,違和感あるな…,イタリア語のspaghettiは複数形だから)
 このようにpiacereは「(主語が)〜にお気に入りである」と言う意味を持つので,「〜に」の部分に人を表す言葉を入れることで「〜は…が好きである」という文章を作ることができるのです。このとき意味があるのは,もちろん「〜に」の部分ですから,それを文頭に持ってきて,"Mi piacciono gli spaghetti."という語順になるのです(強調するとき,人称代名詞なら強形を使えばいいのです)。これだとあたかも"gli spaghetti"が目的語のように見えますね。日本語では目的語のように訳されますしね。
 "piacere"の面白い所は,イタリア語において純然たる能動態であるにも関わらず訳してみると受動態のような文章になる(あるいは,主語と目的語が入れ替わったようになる)ことでしょう。英語などでも,無生物主語の文を訳する時にこのようなことが起こりますが,それは訳する時の便宜な(ので生物主語の時にはこのようなことが起こらない)のですが,"piacere"は無生物主語の時も生物主語の時も同じような訳し方をします。
 "Ti piaccio?":僕のこと好き?/"Mi piaci.":君のことが好き。
…こんな風に。

 ちなみに,"piacere"は英語の"like"に相当すると前述しましたが,強まって英語の"love"に相当する時には動詞が変わり,"amare(III)"を用います。"amare"は「〜を愛する」と言う(「好む」と言う意味もありますが)他動詞で,"piacere"とは違って"love"と同じ構文となります。つまり,"Luigi ama Maria.":「ルイジはマリアを愛している」と言うように,主客の転倒は起こりません。
 余談ですが,"amare"を見て,"amore"を思い浮かべる人もいるかと思います。"amore"は「愛」と言う意味の男性名詞です。
 「好き」という意味においては"piacere"も"amare"も同じような使い方がされるようです。ただ,"amare"にしか無い意味があります。それは,"amarsi"という再帰動詞(主語と目的語が同一)で起こるもので,「(相互に)愛し合う」という意味があります。
"Maria e Luigi si amano.(IV)":「マリアとルイジは愛し合っている」
…こんな風に。
 しかし,この表現,「肉体関係を持つ」と言う意味も同時に持っていますので,ただ好きあっているだけの時には用いない方が良いでしょうね。

(I)mi:私(io)の直接・間接目的補語になる時の形。「私を」o「私に」
  gli spaghetti>lo spaghetto:「スパゲッティ」。gli,loは定冠詞。
(II)me:miの強勢形。「私を」o「私に」を強調する時に用いられる。"a me":私に
(III)amare:amo,ami,ama,amiamo,amate,amano;-are型規則他動詞
(IV)si amano:amarsiの3人称複数活用(直説法現在),ここでのsiは"Maria e Luigi"を表している

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