バブリーズ・リターン ソード・ワールド短編集 編者:安田均 著者:清松みゆき他 1999/9/25 富士見ファンタジア文庫
私がこの「バブリーズ(正式にはバブリー・アドベンチャラーズと言うらしいが)」の存在を初めて知ったのは,恥ずかしながらつい最近のことである。本屋の古本コーナーにて100円で売っていたのを見つけたのである(ちなみにその本のタイトルは『2万ガメルを取り返せ!』,ソード・ワールドのリプレイである)。ソード・ワールドには高校生の頃から興味を持っていて,先に挙げた『2万ガメルを取り返せ!』もその頃に書名は知っていた。しかし,リプレイというものにあまり興味がなかったので今まで買わなかったのである。
で,ソード・ワールドで初めて買った『2万ガメルを取り返せ!』でようやく「バブリーズ」の初陣を読むことができたわけであるが,その余韻の尽きない内に今回の「バブリーズ・リターン」である。「ついつい買ってしまった」のが真相なのであるが…。
前置きが長くなってしまった,本題につなげていくことにしよう。
「バブリーズ」は男4人女2人,戦士2人にプリースト,魔術師(ソーサラー),エルフの精霊使いにグラスランナー(他のゲームのハーフリングに当たる)という傍から見ればごく普通のパーティである。しかし,戦士アーチーは学者の落ちこぼれ,魔術師フィリスは筋力17(人間の平均が14だから魔術師にしてはかなり高い),エルフのスイフリーは人間を研究し過ぎて染まってしまっているといった風に「まともな」者がいないパーティなのだ。
私が初めてこの本を読んだとき,先述の『2万ガメルを取り返せ!』しか読んでいなかったので,『バブリーズ・リターン』に到る迄の「バブリーズ」の動向は全然分からなかった。しかし,この作品は短編集であるので,それによってこの本の面白みが減ることはなかった。「バブリーズ」についての基礎知識(人物・パーティ編成・相関関係)があれば十分楽しめる一作である。
まず「尻っぽのともだち」。これは,グラスランナーの盗賊パラサが放浪の旅に出る前のエピソード。グラスランナーとリザードマンと言う友好的ではない種族同士に芽生えた友情,それと驚異の来襲に立ち向かうパラサたち。ドキドキしながらも心温まるストーリー。パラサの語尾に「にゅー」と付く理由もここで解明される。
次に「振り向けばハッピネス」。フィリスとその使い魔デイルのちょっとした仕事。盗賊から宝を守って欲しいと依頼を受けて張り込みをするフィリスとデイル。夜,依頼者の部屋に縄を掛けて上っていこうとする人影,フィリスとデイルが捕まえてみると…。フィリスとアーチーの恋物語もメインの1つ。相手の前では素直になれない2人。両思い(フィリスの片思い?)の筈なのに…。こういう恋愛をしたことがあるEricは身に詰まされる思いがする。2人とももっと素直になろうよ。
「鮫の子は鮫」。バードで戦士のレジィナとそれを慕う子供達のショートストーリー。「バブリーズ」のメンバーは他にグイズノーが登場するが,「おじちゃん」と言われまくって傷つく,30近くなったら仕方ないかもしれないが。いずれにせよ,やっぱり戦闘では役立たず。で,子供の中に海賊の息子がいて,その親の海賊が死んだことから始まる騒動。勘違いの船長代理と熱血化したレジィナ達。さてその結末は…?とかく女性陣の筋力が強い「バブリーズ」。この話でもレジィナは大活躍するのです。
そして真打ち「バブリーズ・リターン」。ダークエルフに恨みを買ってせっかく手に入れた城を手放した「バブリーズ」。オランに戻ってきた彼らを待ち受けていたもの,そして彼らが「策略にはそれ以上の策略を持って対する」相手とは?この中ではアーチーに死の影が襲い来る。彼は助かるのか?果たしてその結末や如何に?
全体的に「バブリーズ」の雰囲気をよく醸し出しているのではないかと思う。「バブリーズ・リターン」はバブリーズのプレイのGMが書いた作品だから別格として,他の3話は構成も良くできている。原案はやはり清松氏のものなのだろう。しっかりとした設定ができているからこその(その設定の大部分はリプレイの時にできあがったものだろうが)奥深さがある。実に奥のあるパラレルワールドの話だと思う。
私としては「バブリーズ・スリー」があって良いと思う。このバブリーな連中にここで消えてもらっては困る気がするからだ。そうでないと,1日に3冊もリプレイを買って読み漁った甲斐が無いというものじゃないか(笑)。
評価:17点;ソード・ワールドの世界に足を踏み入れている人なら絶対買い!ソード・ワールドを全く知らない人もただの小説として読む価値十分。