漢字と日本人 高島俊男著/20.10.2001/文春新書
「日本語」は仮名と漢字から構成される。これは言われれば納得すること。最近外国語をそのまま使う人が多くなってきているが,その時でも「ディベート」とか「イデオロギー」とかカタカナに直して使う(まあ,かなり前からある語は例外になるけどね)。
しかし,「漢字」だってもともと外国語だったってのにどれくらいの人が留意しているだろう?そして,漢字が流入してくる前の日本語ってのは?
そんな疑問について1つの答えを出してくれるのが,この本ではないだろうか。
さて,「日本語は漢語(中国語普通話)と似たところがほとんど無い」と言う風に著者は書いているけど,似ていると言えるところはある。1つの例は「名詞」である。
日本語も中国語も名詞は変化しない。日本語の「つくえ」を例に取ろう。
日本語では「つくえ」,これは単複同型(単数形と複数形で形が変わらない)である。つまり1つでも2つでも100個でも「つくえ」という。
漢語では「卓(十を木とする)子」,これも単複同型。
さて,英語では“table”,これは単複同型ではない。1つの時は“one table”,2つになると“two tables”となる。
フランス語では“une table”と“deux tables”
イタリア語では“un tabolo”と“due taboli”
さて,なぜこれだけ並べたかと言うと,英語とフランス語とイタリア語の,名詞を複数形にするときのルールが違うからである。あくまで基本であるが,英語は「単数形の末尾にsを加え,sを発音する」,フランス語は「単数形の末尾にsを加え,sは発音しない」,イタリア語は「単数形の末尾の母音を変化させる」ことになっている。
もし,日本語がこれら3つの言語と似ているとするならば,複数形はこのような感じにならなければならない。
英語的:1つのつくえ→2つのつくえら;「ひとつのつくえ」→「ふたつのつくえら」と発音する。「2つのつくえ」は文法的に誤りとなる。
フランス語的:1つのつくえ→2つのつくえら;「ひとつのつくえ」→「ふたつのつくえ」と発音する。「2つのつくえ」は文法的に誤りとなる。
イタリア語的:1つのつくえ→2つのつくい;「ひとつのつくえ」→「ふたつのつくい」と発音する。「2つのつくえ」は文法的に誤りとなる。
…どれも違う。「ひつじ(羊)」が2匹になったとたんに「ひつぜ」になったりしないでしょ?
もう1つ,この点で日本語と中国語が似ている根拠。それは,「基本的には単複同型であるが,複数形の時には複数形を表す語をくっつけることができる」こと。まあ,色々ルールがあって一概には言えないけど,日本語と中国語は概念がとても似ている。
ただ,これは,日本語が中国語文法を吸収した結果と取ることもできる。言語族が違うのに,ここまで一緒なのはどう考えてもおかしいやろ! ってことは,名詞に関して文法をそのまま引っ張ってきているって事か? …また迷宮入りだ。
評価:15点;すぐに本屋にGO!日本における漢字というものがよく分かる1冊。
中国文学をかじったEricからしてみれば,どこかで聞いたような話が多くて物足りない部分もある。「権利」とか「義務」とかの話なんて中文にいればどこかで聞く話。
だからといって,この本の価値は減ぜられることはない。日本人は漢字と言うもの(ひいては言語と言うもの)を軽く考えすぎているのではないだろうかと考えさせられる1冊。