書評第一稿

モンテ・クリスト伯(1)〜(7)
著者:アレクサンドル・デュマ・ペール 訳者:山内義雄 1956〜1957 岩波文庫

 あの「厳窟王」(私は読んだことがないのだが)の原作に当たるのが,この『モンテ・クリスト伯』である。
 時は1815年,主人公のエドモン・ダンテスは,有能な船乗りで,航海終了後に現在つとめている船(名はファラオン号)の船長に任命され,許婚(メルセデス)と結婚するはずであったが,彼の成功をねたむ者の陰謀によって告発され,逮捕される。彼は皇帝派の人物に宛てた手紙を所持していたのである。彼の成功をねたむ者とは,ファラオン号の会計を担当していたダングラール,メルセデスを愛していたフェルナン・モンデゴ,そしてエドモンの家の近くに住んでいたガスパール・カドルッスである。このなかで,ダングラールが告発状を書き(ダングラールは筆跡がばれないように左手でこの告発状を書いたのだ!),丸めて捨てた(焼き捨てなかったと言うことで,ダングラールにも提出の意図があったことが伺える)その告発状をフェルナンが提出した。
 裁判官(判事代理)のヴィルフォールは,エドモンの持っていた手紙が自分の父親(ノワルティエ)宛であることを知り,これが世間にばれてはまずいとエドモンをだましてその手紙を焼き捨てる。ヴィルフォールは王党派,ノワルティエはナポレオン派と,この2人は親子で政治的信念が違っていたのだ。そしてこの時期,王党派が政治的に強かったのである。
 エドモンはこれで助かったと思いこむが,ヴィルフォールはエドモンを政治犯としてイフ城(シャトー・ディフ)に送ってしまう。エドモンは15年近く牢の中で過ごすことになるのだが,牢獄生活の中で出会ったファリア司祭に事件の真相について悟らされる。それまで人を疑うことさえ知らなかったエドモンは,復讐の鬼と化す。ファリア司祭は,エドモンにモンテ・クリスト島にある財宝について話す。最初は信用しなかったエドモンも,半信半疑ながら財宝を夢見るようになる。やがて,ファリア司祭が病死すると,エドモンはファリア司祭の死体と入れ替わってイフ城から脱出する。
 イフ城で死んだ者は土葬にされるわけではなく,袋に入れて海に投げ込まれることになっていたため,エドモンは最初面食らって叫び声を上げてしまう。しかし,そこは船乗りの強み,袋から脱出することに成功すると,泳ぎ始める。泳いでいるうちに運良く難破船に遭遇する。難破船の船員になりすまして別の船の船員として働き,モンテ・クリスト島への上陸のチャンスをうかがう。彼が乗り込んだ船は密輸船であったため,密輸船の船員の溜まり場となっていたモンテ・クリスト島に上陸する機会は意外と早くやってきた。
 モンテ・クリスト島に上陸した後,ケガを装いまんまと一人になることに成功したエドモンは,財宝を探して島を探索する。財宝があると信じる気持ちと,財宝はないと悲観する気持ちの交錯する中,つるはしを振るい続けた彼はついに財宝を発見する。ファリア司祭の話は本当だった!
 エドモンの投獄から脱獄までの時間は約15年(14年だったかな?)。その間に彼の許婚は,フェルナンの妻となり,1子を設ける。裁判官だったヴィルフォールは検事総長への道を駆け上がり,フェルナンは今やモルセール伯爵として貴族会に君臨するなど,彼を陥れた人間たちは人生の成功者となっていた。
 エドモンは,まず船乗り時代に世話になったモレル氏への礼を済ませた後に復讐へと着手する。
 トスカナで伯爵の地位を買ったというエドモン,その名は「モンテ・クリスト伯爵」。他にも,「船乗りシンドバッド」,「ジャコモ・ブゾーニ司祭」,「ウィルモア卿」と変幻自在にその姿を変えるのである。
 モンテ・クリスト伯はフランス・パリの社交界へのデビューを模索し,アルベール,フランツと言う2人のフランス貴族と知り合いになる。実は,このアルベールがかのフェルナンの息子,アルベール・ド・モルセールなのである。
 モンテ・クリスト伯は,フランツにはモンテ・クリスト島で出会い,アルベ−ルには謝肉祭を間近に控えたローマで出会う。モンテ・クリスト伯は,ローマでこの2人に色々と世話を焼く。馬車・窓(イベントを見物するための部屋のことと思われる)の手配から食事を共にすること,そして,山賊の手に落ちたアルベールを助けること(山賊の首領ルイジ・ヴァンパが以前伯爵に恩義を受けたと言うことでアルベールは無傷で解放されたのだが)。色々と世話を焼くことで,伯爵はきわめて穏便にパリ貴族界への進出を果たすのである。
 …
 エドモンという1人の青年が幸せの絶頂から絶望のどん底にまでたたき落とされ,その後這い上がり,自分を陥れた人物に対して実に見事な手で復讐を果たす様は,読んでて興奮させてくれる。また,その復讐の手段が実に見事で,復讐としての暗さがあまり感じられない。また,直接エドモンに関係しないところで起こったことも,エドモンの手によって復讐の手段へと変じていく様を見るのも,この話が実に大きな視点で進んでいることを感じ取れるのである。
 訳本なので,訳者の技量も読ませる材料になる。古風な言葉もあってなかなか風情のある訳なのだが,日本語で読んでいると「これは何?」と言うような訳も所々ある。その代表例が「ごまよ開け」である。「アリババのお話に出てくる鍵を開けるおまじないの言葉」と言う註がついているが,日本語では「ひらけゴマ」の方がポピュラー。まさか昔はこのように言っていたのか?フランス語を直訳すると「ごまよ開け」になるのかも知れないが(ちなみに英語では“Open Sesame.”),そこは日本語,「ひらけゴマ」の方が良いのではないかと思ってしまう。そういう?と思う箇所に自分で訂正を加えながら読んでいけば,非常に読める作品であると私は思う。
 この「モンテ・クリスト伯」は講談社文庫からも訳本が出ているが,私は書店でお目にかかったことがない(すでに版元品切れあるいは絶版なのだろうか)。とある方から借りて読んだが,大した違いはないように思える。こちらは(1)〜(5)までで,1冊あたりの厚みは岩波文庫のより厚くなっている。

 評価:17点;1回目で大体の感じをつかみ,2回目でストーリーを把握し,3回目以降で読み深めていくのが理想の読み方。となれば分かりやすさが完璧とは言い切れない。でも,この本はそれを差し引いても十分の価値がある。和訳の分かりにくさもご愛敬でしょう。

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