児童相互の信頼関係を育てる学級づくり
 
― 構成的グループエンカウンターを通して ―
                                                       
 主題設定の理由
  4月の学級活動の時間に子供たちと「どんなクラスにしたいか」を話し合い学級目標を決めた。話し合いの結果、学級目
標は「明るく楽しく笑いのある仲のいいクラス」に決定した。この目標 には、子供たちの「明るく楽しく学校生活を送っていき
たい 」という希望が表れている。
 5月に入り、学級会の議題についてアンケート調査を行った。集計すると、クラスの3分の2の者が「いじめ」と答えた。い
じめを議題に出した理由は、「いじめる人がいる」「仲間外れにされる」「いじめられるといやだ」などがあり、実際にいじめの
現場を見かけたり、いじめられたり して、いじめに不安を感じている子が多いということがわかった。そして、初めての学級
会が行われ、クラスの半数の者が、いじめられて嫌な気持ちになったという経験を語った。
 また、数名の児童から「休み時間、遊びの仲間に入れてもらえない」という話を聞いた。友達との言い争いやけんかの後、
相手の非を担任に訴えてくる子も頻繁に見られるようなった。
  このように、児童にとって実際の学校生活の場は、学級目標とは違うものになっている。これらの問題が起こる原因とし
て、自分とは違う考えや気持ちをもつ者を受け入れなかったり、自己主張が強く相手を傷つけたりして、友人関係がうまく
いかないことが考えられる。友人関係を改善するために多様なグループ活動を通して、温かい友人関係を築かせる必要が
ある。
 そこで、本研究では、クラスの中でいろいろな友達と交流する中で、よりよい友人関係を育てる手だてとして、構成的グ
ループエンカウンターを実践することにした。この中でエクササイズを行い、意図的に様々な友達と関わらせることで、本音
と本音との交流ができ、お互いを知り合い、つきあいが深められるだろう。また、自己を表現し自己とともに友達を理解し、
今まで気付かなかった自分や友達のよさを発見することができるであろう。構成的グループエンカウンターを実践すること
で、児童一人一人の成長を促すとともに、お互いを知り、そのよさを認め合い、児童相互の信頼関係を育てることができると
考える。
  なお、学級内で不適応行動を起こしやすく排斥される傾向にある児童が、エクササイズに参加できない場合がありうる。
エクササイズを行う際に、この児童に対して、導入時のエクササイズやペア・グループ作りを工夫するなど援助の手だてを
加えることにより、エクササイズに抵抗なく取り組ませたいと思う。そして、友人関係を向上・改善させ、クラスへ溶け込ませ
たいと思う。
 
U 研究のねらい
○構成的グループエンカウンターを通して、自分や友達のよさに気付き、互いに認め合い信頼できる友人関係を育てる。

○集団不適応で排斥される傾向にある児童に対して援助の手だてを加えることにより、エクササイズへの参加を促し、友人
関係の向上を図る。

 
V 研究仮説
○感情発散や自己・他者理解のエクササイズを通して、今まで気付かなかった自分や友達のよさを発見し認め合うことによ
って、児童相互の信頼関係を育て、クラスの温かい雰囲気作りができるであろう。

○エクササイズを行う際に、集団不適応で排斥される傾向にある児童に対して援助の手だてを加えることにより、その児童
がエクササイズに抵抗なく参加し、友人関係を向上させられるであろう。
 
W 研究の計画
  月         集 団 へ の 指 導 ・ 援 助        
 4〜7   ●児童とのラポートづくり・実態把握
 ●諸検査
 9〜1  段  階     エ ク サ サ イ ズ  
 導 入
 感情発散

 自己・他者理解
 
 ●諸検査
 自己表現
 ●人間椅子、探偵ごっこ
 ●鏡になる、スキンシップ
 ●コーヒー・ポット、ブラインドデート
 ●フォーカス、Xさんからの手紙
 ●がんばり賞あげよっと

 ●ブレーンストーミング、テレパシー
  2  ●反省とまとめ・諸検査

        ※諸検査は、ソシオメトリックテスト・対人関係チェックリスト


X 研究の内容
 1.研究の対象  4年A組
 2.学級の実態  省略
 3. 指導の経過
 鏡になる   感情発散エクササイズ   9/28   学級全体・45分・プレイルーム 
 ねらい  楽しい遊びを通して、学級の人間関係をより親密で和やかなものにする。ゲーム
の後の話し合いで、相手を受け入れることが必要であることに気付かせる。
 方 法 男女がペアになって同じ方向を向いて並び、後ろの人が「鏡」になって前にいる
人の動作をそっくりまねる。次に、向き合って、交互に動作や表情をまねる。    
        学 級 全 体      A  (男)      B  (女)





初めは、動作のみをまねさせ慣れさせた。
続いて、向き合って動作と表情をまねさ
せた。動作をする方は、相手にまねしや
すいようにゆっくりと大きな動作をさせた。
向き合う場合、一つのグループに手足を
動かしたり、「笑う・泣く・怒る」の表情を
したりするように指示し、他のグループに
見本を見せた。動作が途切れないように
1分間ごとに交代させた。
●ウォーミングアップ
 で好きなポーズをさ
 せ、ゲームに興味を
 持たせた。
●Bのいる班に見本
 を示させ、ゲームの
 おもしろさを実感さ
 せた。








 

 

 
初めのうちは、動作をする者はどんな動
きをしていいのか迷い、動作が小さく変
化が少なかった。次第に動作が大きくな
り、変化に富んできた。動作が速すぎて
動作をまねるのが大変そうだった。向き
合う場合、互いに笑いをかみ殺していた
が、途中で吹き出してしまったペアが幾
つも見られた。動作をする者が同じよう
な動作をしていては、つまらないという
意見が発表された。
@楽しかったか。       平均(1.5)
A大きな動作ができたか。 平均(1.0)
Bそっくりまねられたか。  平均(1.0)
「相手の方向を間違えても楽しかった」
指名され好きなポーズ
としてサッカーのキッ
クをした。最初にペア
になったのが男子だっ
た。自然にエクササイ
ズに取り組めた。相手
が女子に変わっても、
抵抗なく笑顔で参加す
ることができた。男子
1名、女子3名と組ん
んで実習を行った。
@(+2)A(+2)B(+2)
「女の子ではずかしが
っていた人がいた」
見本になって行う時、
照れながらグループの
人と動作・模倣をして
いた。生活班の男子と
ペアになり、初めから
楽しそうに活動してい
た。動作は徐々に大
きくなり終わりの方で
は、隣の子と一緒にダ
ンスを踊っていた。

@(+2)A(+2)B(+1)
「もっと大きく動作
をしたい」

                            *数値は、振り返り用紙の結果(ー2〜+2)


 コーヒー・ポット   感情発散エクササイズ   11/2   学級全体・45分・教室 
 ねらい  2つのグループに分かれ、一つのことを当てさせる。質問に対して頭を使ってはぐら
かしたり、また、反対に質問してつめていく楽しさを知る。
 方 法 人数の違う2つのグループをつくり、当てる側と当てられる側に分かれる。当てる側
は答えに結び付く質問をして答えを見つけ出す。当てられる側は質問にはうそを付
かず答える。
      学 級 全 体               A  (男)        B  (女)    






クラスを2つに分け、1つのグループを使
ってゲームの方法を説明した。当てる側
は当てるものの名前の代わりに「コーヒ
ー・ポット」という言葉を使い質問させた。
答えが分かったら教師にそっと言いに来
させた。反対に、当てられる側は質問に
はぐらかすように答えさせた。
●ゲームの説明をA・Bのいるグループを使って
  行い、ゲームの方法を分からせた。
●AとBを同じ班にして二人の交流を図った。
●AとBが答えを教師に言いに来るときに、どん
  な様子でゲームが進んでいるか質問したり、
  よく考えて答えを見付けようとしてることを褒
  めたりして言葉掛けをした。












クラスを2つに分けて、さらに1つのグル
ープを当てる側と当てられる側に分けた。
もう一つのグループは、当てる側の質問
を聞きながらゲームの進行を見届けた。
答えとなるものは教室にあるものが当て
やすかった。質問をはぐらかすのが楽し
そうだった。また、アニメの主人公を問題
にしたところ、当てる側には難ししく答え
がなかなか見つからなかった。答えを一
斉に発表し確認していた。
@楽しかったか。       平均(1.7)
A人にうまく質問できたか。 平均(1.1)
B人をはぐらかせたか。   平均(1.0)
「ごまかして相手に分からせないのが楽
しい」「質問されるのが楽しかった」
当てる側の時、答えを
思いつくごとに何度も
教師の所に答えを言い
に来た。当てられる側
の時は、相手の質問に
短い言葉で答えていた
答えを確認する時には
大きな声で答えを発表
していた。
@(+2)A(+2)B(+1)
「答えが当たったとこ
ろが楽しかったです」
「途中で答えがわかん
なくなった」
当てられる側の時、質
問に対して時間をかけ
て答えた。ゲームを見
る番になると教師の近
くに来て、答えを言いに
来る子が何と答えるの
か興味深そうに見たり
聞いたりしていた。

@(+2)A(+1)B(+2)
「目をつぶって答えを
当てるのは難しかっ
たけどとても楽しかっ
た」「またやりたい」



 ブラインド・デート   感情発散エクササイズ   11/17   学級全体・45分・教室  
 ねらい 
自分の特徴を分かりやすく表現し、それを互いに確認することにより、親密な人間
関係をつくる。 
 方 法
見も知らぬ人あてに、自分の特徴を分かりやすく手紙に書き、それぞれ手紙を読
んだり聞いたりしながら、手紙を書いた人は誰かを当てさせていく。
      学 級 全 体               A  (男)        B  (女)    







初めに「ブラインド・デート」のねらいを話
した。全く見も知らぬ人あてに、自分の
特徴をできるだけ分かりやすく手紙に書
くことを指示した。特徴を示すものについ
て、性格、遊び、特技、趣味などを示し、
書くヒントを与えた。机間巡視をしながら
子供の質問に答えて、書けない子供に
は助言した。誰の手紙か当てる時には、
一人に手紙を読ませ他の子供に手紙の
主は誰なのかをノートに書かせてから答
えを確認させた。
●机間巡視をして特徴を示すものを伝えて書
 くヒントを与えたり、特徴をうまく書けていると
  ころを褒めたりした。
●A・Bの手紙を意図的に問題に出して、他の
 子供に二人のことを思い浮かばせて、多くの
 子供が正解であったことから、自分の特徴が
 うまく書けたことを褒めた。












手紙を書く時に、趣味、住所、兄弟のこ
となど書いていいか質問してきた。10分
間に自分の特徴は何であるか考えながら
詳しく書こうとしていた。書いている最
中に、ある子の「手紙を書いた人を当て
るのじゃないの」というつぶやきに、教
師がうなずくと、子供たちが書き加える
姿が見られた。誰の手紙か当てる時には
12名の手紙が発表され、9名の手紙につ
いては30名以上の正解者が出た。(回答
者33名)答えは全体で一斉に発表され、
ゲームの雰囲気が盛り上がった。
@楽しかったか。       平均(1.6)
A自分の特徴が書けたか。 平均(1.4)
B誰の手紙か考えたか。   平均(1.6)
「みんなの特徴がわかった」「手紙の言葉
で人を当てるのが楽しい」「手紙を発表さ
れるとはずかしかった」
手紙を書く時、上目遣
いをして内容を考えて
いる様子だった。誰の
手紙かを当てる時、に
っこりとしながら大き
なで答えを発表した
12番目にAの手紙が
読まれると、赤面して
席から立ち上がった。
33名全員が正解とな
った。振り返り用紙に
記入する時も顔が紅潮
していた。
@(+2)A(+2)B(+2)
「人の特徴がわかって
楽しかった」「一回も
はずれなかったからよ
かったです」
途中、書く作業が中断
していた。手紙の人物
の名前をみんなと一斉
に発表していた。Bの
手紙が7番目に読まれ
「いやだなあ」と言って
はずかしそうだった。
20名が正解者となっ
た。その後も楽しそう
にゲームに参加してい
た。

@(+2)A(+2)B(+2)
「手紙を書いた人の
名前を当てるところ
が楽しかったです」
「もう二度とやりた
くないです」



 Xさんからの手紙   自己・他者理解エクササイズ   12/8   学級全体・45分・教室 
 ねらい  クラスメートとお互いに思っている意見を交換し、思いやりと自らの向上に努める心情
を育てる。
 方 法 自分あての手紙を封筒に入れ他の人に配布し日ごろ思っていることを記入してもらう。
これを繰り返した後で、自分あての手紙を読む。
      学 級 全 体              A  (男)       B  (女)     






友達の長所を見つけ、読む人の気持ちを
考えて手紙を書くように指示した。最初
に書きやすいように、男子には男子、女
子には女子の手紙を意図的に配布した。
その後は、男女両方に手紙を書かせるよ
うにした。
●書く内容が見つかっ 
  たか質問して確かめ
  た。 
●スムーズに書き出
 せるように書くヒントを
  与えた。 












最初に手紙を書いた時は、友達の長所が
見つからず書くのが難しかったようだ。
回を重ねるごとに書くスピードが増し、
ほとんどの者が5分を待たずに書き上げ
ていた。封筒が配布され誰の手紙が回っ
てきたのか興味深そうに封筒を開ける姿
が見られた。最後に友達からの手紙を読
む時、にこにこしたり、書いた人が誰な
のか探したりしていた。
@楽しかったか。         平均(1.8)
A友達の長所が書けたか。  平均(1.7)
B自分の長所がわかったか。 平均(1.7)
「とてもうれしかった」「みんな私のことを
どう思っていたのかがわかった」「人のい
い所が見つかってよかった」
Aに「書くことが見つ
かる?」と言葉を掛け
ると、「うん」とうな
ずいた。回ってきた5
通の手紙に、いっぱい
に書き込んでいた。自
分あての手紙を読むと
笑顔になった。誰が書
いたのか周りを見回し
ている様子だった。
@(+1)A(+2)B(+2)
「いっぱい書いてもら
ってよかった」「いい
友達だったからよくい
っぱい書けた」
普段作文を書く時は書
くのに時間がかかり苦
手意識を持っている様
子だが、この演習の時
はすらすらと手紙を書
いていた。
@(+2)A(+2)B(+2)
「またやってみんなに
もっといい所を書いて
もらいたい」
「みんなのいい所をい
っぱい書こうと思った
けど思い出すのがに
ぶくてあまり書けなか
った」


 
Y 結果と考察
 1.学級集団の変容
  (1) エクササイズの結果から
  導入段階でのエクササイズにおいては、エクササイズに不慣れのためか、予定より時間が多くかかった。エクササイズの
回数を重ねるごとに、ペアやグループでの取り組みがスムーズに行われるようになった。また、子供たちは顔を教師に向 け
て、その説明を注意深く聞くようになってきた。
 これは、他教科においての特設のグループ活動によい影響を与え、自然に声を掛け合い、作業分担や役割決めを相談し
ている姿が多く見られるようになってきた。エクササイズに取り組みやすいように生活班を単位にグループ編成を多くしたた
め、生活班において以前と比べ意見交換が多くなり、話し合いが深まった。また、休み時間に男女間での会話が多く交わさ
れるようになり、男女協力して集団生活を向上させるようになった。
  (2) ソシオメトリックテストの結果から  省略
 事前と事後の調査を比べると、排斥数が減ったことが目立つ。選択する理由に、友達のよさを認めた書き方ができるように
なった。このことは、エクササイズを通して、友達のよさに目を向けられるようになったためと考えられる。
 集団が変化し、男女混合の集団が2つできた。このことから、エクササイズを通して関わりを多く持たせることは、つき合い
を深め、より親密な友人関係づくりに効果があったと考えられる。
  (3) 対人関係チェックリストの結果から
 事前と事後の結果を比べると、30項目中24項目においてプラスの方向への変化が見られた。「私は〜されている」の領域
で、変化が目立つ。項目別に比べてみると、「長所短所を知る」項目の数値の上昇が大きい。これは、エクササイズを通し
て、互いのよさを伝え合い、自分のよさに気付いたり再認識したりして、互いに認め合えるようになった現れであると言え
る。
  (4) 学級会の議題の推移から
 議題のアンケート調査では、初めは、「いじめ」「けんか」「仲間外れ」の回答が多かったが、現在では、「給食時の過ごし
方」「掃除当番」「授業態度」など生活全般に渡るものが多くなった。


 2.A・Bの変容
  (1) エクササイズの結果から  省略
 
  (2) ソシオメトリックテストの結果から  省略 

Z 研究のまとめと今後の課題
 最近では、事情で遅刻してきた子に「おはよう」と声を掛け、教室に迎える子が多くなってきた。また、どうしたら掃除当番が
しっかりできるかをグループで相談したり、学級会でも話し合ったりして、一人一人が責任を持ち、協力することが確認され
た。学級活動の時間に進んで集会を企画し、みんなが楽しんでいる様子を見て「集会を企画するのはおもしろい」という子が
見られるようになった。このように、クラスには、お互いを認め合い、協力し合える温かい雰囲気が出てきたように思われる。
これらのことは、エクササイズを積み重ねる中で、友達の見方が変わり、お互いを認め、協力して活動する楽しさを体験でき
た結果だと考えられる。
 クラスには、今回視点をあてたA・B以外にも、集団にうまく溶け込めない児童や孤立化しやすい児童がいる。これらの児
童にも目を向け、援助の手だてを加える必要がある。
 今後も、教科、道徳との関連づけを図り、様々なメンバーでのグループ編成を行い、構成的グループエンカウンターを実践
し、学級内での友人関係を改善・発展させたい。


〈参考文献〉
  構成的グループ・エンカウンター  国分康孝編   誠信書房
  教師と生徒の人間づくり 第1〜4集        歴々社


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