道徳学習指導案
平成10年11月20日(金) 第1校時 教室
第1学年B組 指導者 山村 英二
| 授業の視点 |
| 本時の学習において、児童にねらいとする道徳的価値について深く考えさせるための手だてとして役割演技を取り入れた。その役割演技に際して、演者や観衆に対する教師の支援は適切であったか。 |
T 主題名 あたたかい心 2−(2) (「はしのうえのおおかみ」文溪堂1年副読本)
U 主題設定の理由
1 ねらいとする価値について
「わたしが何もしていないのにAさんがたたいた。」と相手の行為のみしか目を向けることができないために、教室で児童 間のトラブルが、次々に起こる。ここで、「なぜ、Aさんはたたいたのか、わたしが何か嫌なことをしたのか。」と自分のこと をAさんの視点で見ることができたら、二人とも穏やかな気持ちで過ごすことができるであろう。
「こんなことを言ったら相手はどう思うか。」と思いやりの心をもって人に接することができるようにするためには、「相手の 立場に立つ」、つまり「他者の視点から自分を見つめること」の大切さに気付かせる必要がある。
人は一人では生きられない。かけがえのない人と人が一緒に生きていくのだから、望ましい人間関係を作れるようにした い。そのためには、自己中心的な物の見方をするのではなく、人の心の痛みがわかり、辛いだろうな、苦しいだろうなと、 その人と同じ立場に立って物事を見ることができなければならない。
本当に苦しいとき、優しい心や温かい言葉に触れると、心は安まり気持ちに潤いが戻ってくる。このような思いやりの心や 行為が、望ましい人間関係を作っていく上で大切である。
そこで、相手の立場に立って物事を見て、相手に対して温かい心で接する大切さを理解させるために本主題を設定した。
2 児童の実態
本学級は、男子22名、女子15名、計37名である。全体的に明るく穏やかな児童が多い。教師の話を落ち着いて聞いて から活動に取り組める児童が多い。
授業中、忘れ物をしている隣の席の子に貸している児童が時々見られる。少数の児童ではあるが、困ったり悲しんだりし ている友達に近づいて「どうしたの。」と声を掛けたり、その様子を担任に知らせに来きたりする児童が、見られる。友達のこ とをとても心配し、気に掛けている様子が感じられる。
反面、児童の中で、他の子に対する自己中心的な感情で、「相手のために」と思うばかり他の子の世話をやきすぎてしま う子もいる。却って、他の子の自立や行動の妨げになってしまうことがある。俗に言う「小さな親切、大きなお世話」になりが ちである。
また、発達段階から見ても、自分のことに目が行きがちで、回りの者に目を向けられず、あまり働きかけられない児童が 多い。
児童の実態をつかむために、「思いやり・親切」についてアンケート調査を行った。
以下に、その結果を示す。(アンケート調査実施日 11月4日 回答者数 37人)
@困っている友達を助けたり、手伝ってあげることがありますか。
「よくある」10名 「ときどきある」23名 「あまりない」4名
A友達の見方になったり忘れ物をしている友達に貸してあげることがありますか.。
「よくある」8名 「ときどきある」19名 「あまりない」10名
Bお年寄りや年下の友達に親切にしてあげることがありますか。
「よくある」20名 「ときどきある」11名 「あまりない」6名
大半の児童が、困っている友達を助けたり、忘れ物をした友達に貸してあげたりする経験をしている。また、家庭や地域 でお年寄りや年下の友達に優しい態度で接している児童が多いことがわかる。
3 内容項目の系統
本主題は、指導要領の低学年の内容項目「2 主として他の人とのかかわりに関すること。」の「(2)身近にいる幼い人
や高齢者に温かい心で接し、親切にする。」にあたる。その中で身近にいる人に温かい心で接することに重点を置いた。
さらに、中学年では、2−(2)「相手のことを思いやり、親切にする。」に発展し、高学年では、2−(2)「だれに対しても思
いやりの心をもち、相手の立場に立って親切にする。」に発展する。また、1年生では、内容項目「思いやり・親切」は、9月
の「いしけり」を受け、3月の「ちえことおばあさん」に発展させていく。
4 資料について
おおかみが川にかかった一本橋の上で、自分より弱い動物たち(うさぎ・きつね・たぬき)が渡ろうとすると威張って追い返 す意地悪をして楽しんでいた。くまが現れて、今までとは逆の立場になった。しかし、おおかみはくまの思いもよらぬ行動に 感動し、自分の考えや行いを反省した。そして、森の動物たちに優しく接するようになった。
このように本資料は、森の動物たちのくらしの寓話である。その姿や内容は日常の子どもたちの生活にも見られ、低学年 の思いやり・親切の指導に適したものといえる。
ところで、1年生では、相手の立場を十分考えることはとてもむずかしい段階である。そして、まだまだ自己中心的な言動 が多い時期である。その姿は、主人公のおおかみの思いや行為に重なる。そこで、低学年の思いやり・親切の指導にあた っては、身近にいる幼い人や高齢者に目を向け、次第にその対象を広げていくことが大事である。本資料に登場するうさぎ やきつねやたぬきは、身近にいる幼い人や高齢者にあたることを念頭において指導にあたりたい。
資料分析図 場面設定−一本橋
動物たち おおかみ
うさぎが渡ってきたとき 「こらこら。」とにらみつけた。
↓ ←「戻れ、戻れ。」とどなった。
うしろへもどっていった。 ↓
→「えへん、えへん。」
意地悪がとても楽しくなった。
きつねやたぬきが渡ってきても←「こらこら、戻れ戻れ。」
(弱・小)←→(強・大)
くまがたっていた。 →「こらこら‥」といいかけて口を押さえた。
(強・大)←→(弱・小)…立場の逆転
手を振って言った。 「私が戻ります。」
「ほら、こうすればいいんだよ。」
おおかみを抱き上げて後ろへ →「なんて優しいくまさんだろう。」
渡してやった。 くまの後ろ姿をいつまでもいつまでも見ていた。
(思わぬ行為) それから ↓
みんなを優しく渡してやった。
(親切にした側もされた側も気持ちのよいもの)
5 指導の方針及び留意点
・児童の学習意欲を喚起させるように登場人物の絵を提示し、登場人物について想像を広げるようにする。
・児童が資料の内容についてイメージをふくらませながら再現し、構成していけるように、資料は最初からその全体を提示 するのではなく、話し合いの進展に即して発展的に提示する。資料の提示は教師の語りによる。
・平均台や効果音を使い、一本橋の状況(幅が狭い・長いなど)をはっきりさせる。
・ストーリーの展開に従って場面絵を提示し、状況や条件を限定しながら、そこでの道徳的価値を主体的に考えさせるよう にする。
・主人公や相手の立場・思いを共に無理なく理解し、共感しやすくするためにペープサートやかぶり物を用いて役割演技を 設定する。
・ワークシートを使用することによって、自分の考えを持てるようにする。
・登場人物の言動や思いを分かりやすく対比させながら板書する。特に、親切な行為に至る心の変化や、その行為を受け た者の喜びやした者の充実感をとらえさせる。
6 事前・事後の指導
〈事前指導〉
・体育の授業や休み時間に、長い丸太の上を歩いたり、「丸太じゃんけん」を体験している。この体験に基づいて、スリルの ある丸太遊びを思い起こさせるような、一本橋の場面設定を含む資料「はしのうえのおおかみ」を選択し、道徳の授業を 行う。
・一日を振り返り、その日にあった児童の、思いやりのある行為や善い行いや積極的に活動したり、努力していた様子を認 めて板書する。翌日、登校した児童にその板書を読ませる。全児童のよさを認めるように努める。
・教師に対して親切な行為をした児童に、教師の親切を受けた時の気持ちを記した「親切カード」を渡し、自分に対して温 かい、肯定的な感情をもたせる。
〈事後指導〉
・学級活動で、今まで気付かなかった友達の小さな親切に気付かせるために、「ありがとうカード」の授業を行う。と同時に ここでは、道徳の授業で学習した価値を理解し、日頃実践しているか確かめる場ともなる。
・朝や帰りの会で、思いやりのある言動や親切な行為をしている児童を紹介することにより、その児童のよさを認める。
7 校内研修との関連
本校の今年度の校内研修のテーマは「個に応じた多様な指導の工夫」である。このテーマに向けて、次の3点に留意し、 今回の道徳の授業を実践していきたい。
(1) ねらいとする道徳的価値「思いやり・親切」について、児童一人一人の実態を日常の観察やアンケート調査を通して 把握しておくこと。(座席表の活用)
(2) 児童一人一人がねらいとする道徳的価値について、深く感じたり考えたりできるように、役割演技やワークシートへの 書き込みを取り入れること。
(3) 一人一人に配慮した事前指導を行ったり、道徳の時間では、ねらいとする道徳的価値について児童一人一人の反応 をみたりすることから、これからの指導課題をつかみ、事後の活動(学級活動や朝・帰りの会など)の中で指導に役立て ること。
V 本時の学習
1 ねらい 身近にいる人に温かい心で接し、相手の気持ちを理解しようとする心を育てる。
2 準 備 資料のプリント、登場人物の絵、場面絵、ペープサート、かぶり物、
ワークシート、効果音のカセットテープ
3 展 開
| 段階 |
・学習活動 ○主な発問 |
予想される児童の反応 |
時 |
指導上の留意点 |
導入
|
・おおかみの絵を見て、どんな感じがしたか話し合う。 |
「こわそう。」
「強そう。」「えらそう。」
|
5
分
|
・資料の世界に興味をもち、自分の思ったことを発表させる。 |
展
開
展
開
|
・資料「はしのうえのおおかみ」を聞く。
・動物たちに橋の上で意地悪をするおおかみの気持ちを考える。
○おおかみは、どんな気持ちで意地悪をするのでしょう。
○動物たちは、おおかみに意地悪をされて、どう思ったでしょう。
|
「こらこら戻れ。おれが先だ。」
「これは面白い。もっとやってやるぞ。」
「なんてひどいことをするんだ。」
「どうして意地悪をするんだ。」
|
10
分
10
分
|
・児童の反応を見ながら、教師が語る。
・時間をとり、資料の世界のイメージをふくらませ再現させるようにする。
・ペープサートを使って役割演技を設ける。役割を交代させることで、おおかみだけでなく、意地悪をされた動物たちの気持ちをつかませる。
・おおかみの気持ちと動物たちの気持ちを対比させて板書する。 |
・くまに抱きげられた時のおおかみの気持ちを考える。
○おおかみは、くまに抱き上げられた時、どん なことを思ったでしょ う。
|
「これはまずい。」
「こまったなあ。」
「川へ落とすのかな。」
|
10
分
|
・おおかみは、くまの登場で今までと逆の立場となった。しかし、くまの思わぬ行為からおおかみの、驚きと自分の今までしてきた行為に気付くところを分からせる。児童がおおかみ役、教師がくま役になり、役割演技を通して味わわせる。 |
・くまの後ろ姿を見ていたおおかみの気持ちを考える。
○おおかみは、どんな気持ちでくまの後ろ姿を見ていたのでしょう。 |
「くまさんはやさしかったなあ。」「本当にびっくりしたよ。川に落とされるかと思った。」「くまさんは僕より大きいのになぜ、威張らなかったのだろう。」 |
10
分
|
・ワークシートに書かせることにより、くまの後ろ姿をいつまでも見ていたおおかみの気持ちを考えさせる。
|
終
末
|
・それからのおおかみの行動や気持ちを考える。
○それからのおおかみは、一本橋の上でどうしたのでしょう。
|
おおかみ
「もうみんなに意地悪しないぞ。」
「親切にするって気持ちがいいね。」
動物たち
「おおかみが優しくなったね。」「おおかみさん、ありがとう。」 |
10
分
|
・おおかみの膨らんだ思いやりの気持ちが行為に現れたよさを感じ取らせる為に役割演技を設ける。
・親切にした方もされた方も気持ちのよいものであることを板書の対比から感じ取らせる。 |
W 資料「はしのうえのおおかみ」
いっぽんばしがありました。うさぎが、まんなかまでわたってきたときです。
「こらこら。」と、おおかみが、うさぎをにらみつけました。
「もどれ、もどれ。」 おおかみにどなられて、うさぎはうしろへもどっていきました。「えへん、えへん。」 おおかみは、このいじわるが、とてもおもしろくなりました。
きつねがわたってきても、「こらこら、もどれ、もどれ。」
たぬきがわたってきても、「こらこら、もどれ、もどれ。」
おおかみは、「こらこら……。」といいかけて、くちをおさえました。くまがたっていたのです。
「わたしがもどります。」 くまは、てをふっていいました。
「ほら、こうすればいいんだよ。」おおかみをだきあげて、うしろへわたしてやりました。
「なんてやさしいくまさんだろう。」 おおかみは、はしのうえからくまのうしろすがたを、いつまでもいつまでもみていました。
それからおおかみは、みんなをやさしくわたしてやりました。
奈街三郎の作品による
X 座席表 省略
Y 参考
「こころ」のアンケート
1ねん2くみ( )
* つぎのしつもんにしょうじきにこたえてください。これはテストではありません。
@ こまっているともだちをたすけたり、てつだってあげることがありますか。
1 よくある 2 ときどきある 3 あまりない
A ともだちのみかたになったり、わすれものをしているともだちにかしてあげること がありますか。
1 よくある 2 ときどきある 3 あまりない
B おとしよりやとししたのともだちにしんせつにしてあげることがありますか。
1 よくある 2 ときどきある 3 あまりない